女神の語る真実
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目を開ければ見慣れた天井ではなく、瞬く光を背にした淡い紅色が視界に映る。
「……あぁ。久しぶり、だ……な……」
ぽつりと呟いたユリアは、ゆっくりと上半身を起こす。
ネグリジェではなく、手の甲まで覆う長袖の白いワンピースを着ている。長さは膝下までだが、裾幅がかなり広い
ユリアが寝転んでいた場所は木の枝の上。とても太く、更にやや太い枝と組み合っている。
樹齢何千年を超えるだろう太い幹だが、
枝の先に咲く花は淡い紅色で、親指の先より大きいがやや小振り。花びらが散れば、
散っては咲くという
現実にも同じ木があるが『ケラソス』という名称で呼ばれ、春になれば花をつける。
膝立ちすれば、美しくも
ユリアが遠い昔に住んでいた土地で、
綺麗な円を描いて丘を囲んでいる池の奥には、ちらほらと淡い色の花が咲いている草原が広がっていた。穏やかな風に吹かれて波打つ草原は、まるでエメラルドグリーンの海のよう。
雲一つない空を仰げば、赤、青、白といった美しい星が鏤められた夜空が広がり、大きくて青白い月が浮かんでいる。
感動するほど美しいが、どこか
ここは、ユリアの精神世界だ。
ユリアの心が不安定になったり、ある人物に呼ばれたりした時に訪れる場所。
今回は学園の件で不安定になったので訪れられたのだと思ったが――
「こんばんは、ユリア」
どうやら違うようだ。
隣の太い枝に顔を向けると、神々しい美女が座っていた。
毛先に柔らかな癖がある黒髪は
白いエンパイアドレスの上に黒いロングカーディガンのような上着を纏い、常にフードを目深に被っているが、この世界ではフードを脱いで顔を見せている。
ユリアと同じ色彩だが、見目麗しい美貌のユリアとは違う神々しさを感じさせられる。
「こんばんは、グレイス姉様」
久しぶりに会う家族のような身内の登場に、ユリアは破顔した。
彼女の名はグレイスエーファ。
世界に魔力因子を与え、人々に魔法を
ユリアを異世界に転生させた張本人だ。
この世界の神は四体。
世界の
世界の
世界に住む生物や概念を形成した第三の神・イェツィーラ。
身近な物質的存在を世界に表現できるようにした第四の神・アッシアー。
人々は彼等を偉大なる四神と呼び、彼等を信仰するアクティス教会が世界各地にある。
けれど、知られていない神も存在する。
それが、魔法と生々流転を司る女神・グレイスエーファ。
この世界で唯一無二の女神。それを知る者は一握りの人族と妖精族などの特殊な種族のみ。
何故女神がユリアを転生させたのか。それは死に焦がれても生きようとする前世のユリアに興味が湧いたからだった。
だが、ただで異世界に連れ込むわけにはいかない。そこでグレイスエーファは、地球の輪廻からユリアの魂を引き寄せ、幸福だった記憶を対価として貰い、ある程度の不幸な記憶と必要な知識のみ残して転生させたのだ。
最初は苦しんだが、最悪な記憶があるからこそ
不幸な記憶があるからこそ、人に優しく
望んでいた新しい人生。幸福な家庭。大切な身内と友達。
幾多の苦痛もあったが、心から幸せだと感じることができたのだから。
そんなユリアをグレイスエーファは気に入り、更に同じ色彩を持つことから妹のように可愛がっている。
女神に可愛がられること自体があり得ないことだが、ユリアは受け入れて『姉様』と呼ぶ。
いつものように挨拶すれば、久しぶりに会いに来たグレイスエーファは嬉しそうに破顔した。
「本当に久しぶり。元気にしていた?」
「うん。風邪もひいてないし、皆が良くしてくれるから」
明るい笑顔でこれまでのことを話すユリア。
ここでふと、ユリアは儚い微笑みを浮かべた。
「……あのね。私……カエレスティス王国の学園に編入することになったの」
グレイスエーファに告げると、彼女は眦を下げた。
「そう。ユリアの世界が広がるチャンスね。……でも、気軽に会えなくなるのは寂しいわ」
気軽に会えないという言葉に、ユリアは沈んだ面持ちになる。
グレイスエーファはユリアの精神世界だけではなく、現実世界でも時々会いに来るのだ。
必ずユリアだけがいる時を見計らっているのは、グレイスエーファが女神だから。
ごく少数でも崇められる存在がユリアの傍にいることを知られてしまえば、ユリアの立場や境遇が悪くなるかもしれない。それ故に人前に現れることはできない。
「ユリアには教えてあげる。赤い瞳を持つ者が禍人と呼ばれる理由を」
不意に語り出したのは、ユリアが知りたかった禍人の
目を丸くしたユリアは聞き逃さないようにグレイスエーファを見詰める。
「赤い瞳には不思議な力が宿る。その瞳には精霊だけではなく、神という神聖なものまで映ってしまう。昔の人々は神と直接交流できる赤い瞳を畏怖した。中には神と交流できることを信じず、恐ろしいものとして迫害した。いつしか『災禍の瞳』と罵られ、禍人と謗られるようになったの」
驚くべき真実に目を見張る。
思い返せば、グレイスエーファはユリアの母・マヤが近くにいる時は現れなかったが、離れた途端に姿を見せた。
人間の前に現れないのは女神という存在だからだと思っていたが、実際は同じ赤い瞳を持つマヤが傍にいるからだった。
今まで知らなかった理由を知ることができたユリアは納得できて、すっきりした。
「じゃあ、本当に迷信だったんだね。禍人って」
「そう。だから、周りが何と言おうと気にすることはないの。もし言われたらやっつけちゃえ」
にこりと綺麗な笑顔で後押ししたグレイスエーファ。その笑顔につられてユリアは笑った。
「ありがとう。グレイス姉様の言うとおりにするよ」
家族と言ってもいい身内の言葉が嬉しくて、憂鬱だった心が晴れていく。
幸せを噛み締めて、ユリアは心から転生して良かったと思うのだった。
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