のんびり演劇部






 時は平成。世の中が便利に様変(さまが)わりした時代。
 先進国と名高い日本には小学校から中学校までが義務教育であり、後期中等教育を行う高等学校からは自主的なものになる。それでも資格を獲得すれば就職率が上がるため、こぞって高校に進学しようと奮闘(ふんとう)する学生がたくさんいる。

 そんな某県某所の公立高等学校に入学して、二年目の夏に差し掛かった頃、とある部活に所属する一人の少女が悩(なや)ましげに溜息(ためいき)を吐(つ)いた。

「はぁ……。本当にこの部活、まともに活動しないよね」

 桜井(さくらい)美月(みづき)。茶色のショートヘアに中性的な凛々しい顔立ちは綺麗で、どことなく男前な印象を持たせる。身長も一六六センチと高いため、低身長の男子生徒に羨(うらや)ましがられている。
 その内の一人である少年も、気だるげに言った。

「しょうがないだろ。部長があの人だから」

 安藤(あんどう)海里(かいり)。綺麗な黒髪は、男にしては少し長め。中性的な顔立ちは、眉目秀麗(びもくしゅうれい)とも言える。ただし身長は美月と同等であるため、コンプレックスとなっている。

 窓際にもたれて愚痴(ぐち)混じりで言えば、教室に一人の少年が勢い良く入ってきた。
 スパーンっと勢い良く閉まっていた扉を開けて登場したのは、日に焼けて焦げ茶色に変わった髪に鳶色(とびいろ)の瞳が特徴的な、快活そうな部長・雲林院(うじい)明良(あきら)だった。

「悪口はいけないなぁ! 俺のブロークンハートがクラッシュしちゃうぞ☆」

 外見通り明るい笑顔でハキハキと言った明良に『傷心』の二文字は似合わない。
 そんなことを内心で呟(つぶや)く美月と海里だが、それをはっきり言う部員がいた。
 フワフワした栗色の髪が特徴的な、小動物のように愛らしい美少女・織原(おりはら)舞花(まいか)だ。

「えー。明良先輩の心臓、鋼じゃないんですか?」
「いやいや、それはないから! サイボーグじゃあるまいし!」

 笑顔で言った舞花に明るく否定する明良。その様子を見ている美月は苦笑い。

「舞花って意外とグサッと来るよねー。天然な分、タチ悪いし……」
「えー? 天然じゃないよ?」
「じゃあ、最近の呼び出しの意味は?」
「��買い物に付き合ってください�≠チて頼まれているだけだよ」

 ぽわんと、あらゆる敵愾心(てきがいしん)を削(そ)ぎ落とす笑顔で答えると、美月と海里は盛大な溜息を吐く。

「告白にさえ気付いてないって……」
「あいつらも不憫(ふびん)だよなぁ……」

 しみじみと頷(うなず)く二人に、舞花は不思議そうに首を傾(かし)げるばかり。

「ところで明良。今日こそは演目を決めてもらうぞ」

 ハスキーな声で告げたのは、花袋(かたい)芽久(めぐ)。背中より真っ直ぐ伸ばした黒髪は美しく、まさにクールビューティーと言える。明良とは同学年であり、小学生の頃からの腐(くさ)れ縁(えん)。
 どうして腐れ縁になったのか本人にも謎(なぞ)らしいので、詳しい情報は聞けそうにない。

 芽久は椅子に座っているだけだが、まるで武士のような空気をまとって明良を見据える。

「この演劇部、ほとんど演劇をしないだろう。部長なんだから、いい加減しっかりしてくれ」
「お固いなぁ、芽久ちゃんは」
「��ちゃん�&tけするな」

 ギロッと鋭い眼力で睨(にら)む芽久。心なしか教室内の温度が数度下がった気がした。

「ま……まあまあ。明良先輩も何か考えていますよ。ね、明良先輩?」

 不穏な空気を読んだ美月がフォローする。

 しかし、明良は――


「実はまだ決まってない!」

「ないんかい!!」


 威張(いば)って言い切った明良。その堂々とした態度にツッコミを入れてしまう美月。

「もうすぐ梅雨(つゆ)が明けますよ!? あと数週間で夏休みですよ!? ちゃんと部長らしく決めてください!!」
「お……おぉう……す、鋭いツッコミだねえ」
「……部長?」
「すんません」

 呑気(のんき)に感想を言う明良に反省の色はない。
 思わず笑顔で冷ややかな声を出してしまった美月に、これ以上怒らせたら危険だと本能的に感じた明良は反射的で謝った。

 口元を引きつらせる海里と、苦笑する芽久。二人のやり取りをニコニコ顔で眺めている舞花は、ある意味大物だった。
 そんな大物こと舞花は、ゆったりと手を上げる。

「はーい、部長ー」
「な、なにかなー? 舞花ちゃん」
「演劇の内容、みんなで決めればいいと思いまーす」
「ナイスアイデア!」

 今まで思いつかなかったのか、まさに天の助けと言いたげに明良は採用する。

「そうと決まれば会議だ!」

 まるで水を得た魚の如(ごと)く、明良はイキイキとした様子で黒板に『議題:演目の選抜』と書いた。



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