文化祭メモリアル






 最後のエンドロールにドラゴンクエストの背景音楽が流れ、映像が終わる。
 明かりが点くと、壇に上がった明良が制作過程を説明した。

『今回の作品のテーマは、シンデレラとドラゴンクエストの混合、そして男女逆転。撮影場所は演劇部の部長の懇意(こんい)にしている方にご協力を願いました。用意した衣装は全て手作りです。――この自主制作映画がお気に召しまし、何度でも拝観(はいかん)したい方は、この部室の一番後ろに控えております映画研究部の部員に申し出てください。一日限定十枚までディスクをご用意いたしました』

 明良は宣伝して、一呼吸置いて笑顔でお辞儀した。

『長々とした解説でしたが、最後までご清聴(せいちょう)、そして映画をご観覧してくださり、誠にありがとうございました』

 明良が壇上から下りた瞬間、観客は一斉に口を開いた。
 聞こえてくるのは、面白かった、口コミで知らせたい、という熱の入った感想。
 想像以上の手応えに、演劇部と映画研究部の部員達は顔を見合わせて喜び合う。



 ――それから翌日まで、順調に上映した。ディスクも完売し、大成功を収めた。

 三日後の文化祭閉会式にて。

「皆さん、文化祭お疲れ様でした。――今年の栄(は)えある最優秀賞は、合同組の演劇部と映画研究部です!」

 司会を務める校長が長々とした前置きの後、大きく告げた。
 拍手の中、部長である明良と琴音が舞台に上がり、高級焼き肉食べ放題のチケットを入れた封筒を受け取るのだった。



 夕暮れ時のキャンプファイヤー。
 組み上げた焚き火を囲ってフォークダンスを踊る学生と、それを眺めながら今年の文化祭について語り合う学生が多くいた。帰省した者もいるが、大多数が最後まで楽しんでいる。

 そんな中で、美月は離れた所でその光景を見ていた。
 美月は思う。今年の文化祭は、去年と違って充実して、そして今まで以上に楽しかったと。

 来年、部長である明良や芽久、琴音と西本は卒業して、学校を去る。
 笑顔で見送りたいと思う。けれど、やり遂(と)げた達成感を覚えた瞬間、寂(さび)しさが押し寄せてきた。
 細波のような穏やかさ、しかし明確な寂寥感(せきりょうかん)。

「センチメンタルなんて、ガラじゃないんだけどなぁ……」
「美月にもそんなのあるんだな」
「うえいっ!?」

 突如(とつじょ)として聞こえた声に驚き、背後にいる海里を見上げる。
 校庭から離れた所にある段差に座っているため、必然的に見上げてしまうのだ。

「お、お、驚かさないでよ!」
「隙(すき)だらけだったんで、つい」
「お前は武士か!?」

 それとも忍者か!とツッコミを入れる美月に、海里は楽しそうに笑う。

「美月のツッコミ、久しぶりに聞いたよ」

 海里の言葉に、思い返す。
 最近は文化祭に向けて緊張状態が続き、ツッコミをする余裕がなかった。

 緊張が抜けた今、海里の言うとおり突っ込む余裕ができたようだ。
 プイッと顔を背ける美月。海里は喉を鳴らして笑い、隣に座る。

 ふと、美月は気づく。隣に座った海里の目線の高さに。
 身長は同じぐらいだと今年の身体測定で知った。けれど、少しだけ高くなった気がする。
 座高が高くなったのか、とも思っていると、海里は頬(ほお)を引っ掻(か)きながら口を開く。

「何だよ。そんなに見て」
「……! み、見てない」

 急に恥(は)ずかしくなった美月は視線を逸(そ)らす。
 気恥ずかしくなった海里も、美月から顔を背(そむ)けた。
 しばらく沈黙が下りる。けれど、そこに気まずさはなかった。

「……なあ、美月」

 心地良い沈黙を破ったのは海里だった。
 ほんの少し高い海里に顔を向ければ、海里は真剣な顔で美月を見下ろしていた。
 その表情に、ドキリと心臓が跳ねる。

「ずっと前から言おうと思ってたことがあるんだ」
「……何?」

 今度は目を逸らせない。
 何か大切なものを感じた美月は、自然と海里を見つめていた。

 そして――


「好きだ」


 学生達の賑(にぎ)やかな声に紛(まぎ)れない、確かな声で告白した。
 思いもよらぬ海里の告白に、美月は頬に熱を集めて硬直した。
「俺と付き合ってください」

 右手を差し出す海里。
 その手を見つめた美月は、ポツリと呟く。

「……夢?」
「……何でそうなるんだよ。言っておくけど、現実だ」

 美月の思わぬ返しに、ガクッと肩を落とす。
 これは振られたな、と思って手を引っ込めようとする。

 ――その直前、美月はおずおずとその手を握った。

「……美月?」
「私だって、前から好きだよ。……その……海里のこと」

 目を逸らしながら小さな声で告げる美月。
 その初々しい表情に、海里は思わず笑みを深める。

「よしっ。じゃ、踊りに行くか」
「……へ? いや、私踊り下手だよ!?」

 手を引っ張って立ち上がらせる海里に慌(あわ)てる美月。
 しかし、海里はニヤリと笑う。

「自信がないだけだろ。先生からお墨付き貰ったくせに」
「なっ、何でそれを……! ……ああもう。行けばいいんでしょ、行けば!」

 人前で踊ることに抵抗感がある。というより恥ずかしくて気後れする。
 そんな美月に海里は無邪気に笑い、焚き火へと向かった。


〜完〜



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