「それで、撮影する場所はどうする?」
演劇部顧問の春野に衣装を頼み、映画研究部顧問の
肝心の撮影場所が確保できていない。
最大の問題に突き当たっていることを映画研究部の部員・
彼女は今回、マイク係を担当する。基本的に面倒臭がり屋だが、やる時はしっかりやるので琴音からの信頼も厚い。
彼女のもっともな疑問に、明良はあっさり答える。
「俺の家で撮影するから」
一瞬、しん、と静まり返る。
あれ?と首を傾げる明良。彼の説明不足を
「明良は資産家のお坊ちゃんだ」
「お坊ちゃんはやめろよ。せめて
嫌そうな顔でショックを受ける明良の言葉を聞いた途端、知らなかった下級生達は絶叫。
「えぇえええええ!?」
「明良先輩、金持ちだったんだ……」
「見えないね」
「……舞花ちゃん、グサッときたよ」
叫んだ美月と海里。
明良は舞花の言葉を受けて、胸に手を当ててヨヨヨ……と嘘泣きする。
「榎村先生がオタクだって知った時以上のビックリだな」
「西本先輩は知らなかったんですか?」
「
香苗に軽く返した西本は、机に突っ伏して眠りこける比島の頭を軽く
しかし、比島は起きない。
「ったく……まあ、いい。榎村先生からドラクエの小道具は借りれたし……あとは制作期間だな」
「あ。そう言えば来週から夏休みでしたね」
美月が思い出すと、ほとんどが難しい顔をする。
そう、ほとんど。彼らの中の例外中の例外が、明良だ。
「俺の家に泊まり込みで夏合宿すれば?」
資産家の家に、夏合宿。
軽く提案した明良に、芽久は思わず突っ込む。
「待て。まずは親御さんの了解を得てから……」
「そこは大丈夫だって。父さん達、笑って許可したし」
抜かりない明良の行動力に、部員達は反応に困った。
映画研究部の部長である琴音は、ニヤリと笑う。
「いいわね、それ。みんな、何が何でも親から許可を貰いなさいよ」
それは、琴音が魔王を演じればいいのではないか、と思うくらいの笑顔だった。
――結論から言おう。芽久の言葉通り、琴音は鬼を通り越して
家族が監督と芸能人である時点でプロ意識が高いのだから、当然と言えば当然だ。
明良の家も西洋館と言えるほど立派で、家の敷地には教会のような
唯一の救いは、資産家の家ということもあって、食事が絶品だったということ。
夏休みの課題を片付けながらの鬼監督による撮影は、ある意味
地獄の撮影会という名の夏合宿が過ぎ、あっという間に二学期に入った。
燃え尽き症候群になった演劇部の部員達は、気力を取り戻すためにしばらく休部した。
その間に琴音は映画研究部の部長らしく、燃えるように映像を編集していた。
高度な技術力でパソコンを操ること数日間。
「……完璧」
瞳を輝かせて、達成感から笑みを浮かべた。
「演劇部の諸君! 映画研究部の諸君! 完成したわよ!」
文化祭の準備が始まって数日。
映画研究部の部室で茶話会の準備をしていた演劇部の部員と映画研究部の部員達は、扉を壊さんばかりの勢いで入ってきた琴音に目を向ける。
いまだかつてないほど輝かんばかりの笑顔と生き生きした様子。
それ以上に驚いたのは――
「琴音先輩!? どうしたんですか、その
花の女子高生とは思えない隈が、浮かんでいた。
濃すぎず、かといって薄くもない絶妙な隈に、美月は
美月だけではない。琴音の部員である龍也、普段から驚かない香苗、西本、比島の全員も目を見張った。
「ふっふっふ。ほぼ徹夜で編集していたからよ」
「自慢することじゃねーから! 頼むから休んでくれ!」
必死の
その勢いで手に力が入り、グシャッ、と並べていた紙コップの一つを握り潰してしまった。
龍也の思いは当然のこと。そして、それは龍也だけではない。
「高瀬の言うとおり。ちゃんと寝ないと、私達の反応まで見逃してしまうだろう」
親友の芽久も、当然心配する。
眉を寄せて琴音の一番の楽しみを言い当てると、琴音は口をへの字に曲げた。
「……むぅ。そう言われると弱いわね。わかった。少し寝るから、みんなだけで見てちょうだい」
部員達の反応を見たかったが、体調的に考えて仮眠をとることにした。
ほっとした龍也にディスクを渡すと、琴音は前の席に座って机に突っ伏した。そしてものの数秒で、静かな寝息が聞こえた。
「……部長、お疲れさん」
苦笑した龍也は紺色のブレザーを脱ぎ、琴音の肩に掛けた。
その様子を微笑ましそうに眺めていた明良は、小さく頷いて声をかける。
「よし。それじゃあ琴音ちゃんと俺達の努力の結晶を
「うぃっす」
龍也は既に出していたスクリーンとプロジェクターと機材を確認し、普段から
室内が真っ暗になったことを確認した龍也は、ニッと口角を上げる。
「んじゃ、いくぞー。せーのっ」