演劇部&映画研究部の文化祭






 安定した気候が続く中、乾いた音が空に響く。
 パンパンッと弾けた白い煙が空気に溶け込む様子を正門から見た美月は、うれい顔で溜息ためいきく。

「始まっちゃったなぁ……文化祭」

 薄らいだ残暑ざんしょを肌で感じられる頃、とうとう文化祭が始まった。

 本校では火曜日〜木曜日の三日間を文化祭の開催日、金曜日〜日曜日まで休校としている。
 片付けは木曜日の終了後に行い、最後に生徒全員でキャンプファイヤーを楽しむ。
 この三日間の内、初日と二日目が部活やサークルに所属する生徒のもよおしが行われる。

 三日連続で続ける各学級とは違うため、負担は軽い方だ。
 それでも美月は、演劇部と映画研究部の合作がお披露目ひろめされることに不安を感じていた。

 部員全員が「面白かった」と言える作品だが、観客は来てくれるだろうか。面白いと思ってくれなかったらどうしよう。――そんな不安を抱えて、もう一度溜息をこぼす。

辛気臭しんきくさい溜息だな」

 その時、後ろから海里の声が聞こえた。同時にバサッと紙の束が頭に乗った。

「うわっ、ちょっと、海里!?」
「聞いた。このビラ、美月が作ったんだって」

 怒りかけた美月は、海里の手元にある紙の束――宣伝広告に気付く。
 黄色を背景色に、ドラゴンクエストの登場人物に似た人物を描いたイラストと宣伝文句がプリントされている。

 この宣伝広告は、美月が作ったものだ。
 ただ廊下や掲示板に貼るだけではなく、多くの人に見てもらえるように、そんな期待を込めて。
 特技のイラスト技術で、役者となった自分達に似た絵を綺麗に書き上げている。絵の一つ一つが生き生きとした表情で、どれだけ美月が力を入れたのか感じられた。

「成功させるんだろ? だったら声かけも全力でやるぞ」
「……当然」

 珍しく頼もしいことを言った海里に、美月は挑戦的な笑みを浮かべてビラ配りを開始した。



 一日で上映する数は三本まで。二日間を合わせて六本も上映されるが、もっと見たい人のためのディスクを数量限定で用意している。
 売れるかどうか判らないため、一日の在庫は十枚まで。たとえ売れなくても自分達が買う。その覚悟と勢いで用意したのだ。

 上映会場は吹奏楽部の部室。そこにはすでに何十人もの観客が集まっていた。

「うわ〜お。美月ちゃんのビラ効果すごいねえ」
「ふふっ……明良のトコの子もやるじゃない」

 良い笑顔でながめている明良と琴音。離れたところでは、龍也達が緊張気味に待機たいきしていた。
 プロジェクターと機材の確認を済ませた映画研究部の部員。
 飲み物とポップコーンを売って配っている演劇部の部員。

 ちゃんとした映画館のようにはいかないが、それらしい雰囲気が感じられる。それはきっと興味を持って来てくれた観客の、ワクワクドキドキとした期待感のおかげだ。

 上映時間が迫ると、ビラ配りが終わった美月、海里、比島が戻ってきた。

「よし。じゃあ始めるわよ」

 全員が揃ったことを確認して、琴音は堂々と壇上に上がった。
 設置されたマイクの調子を確かめて、堂々とアナウンスを開始した。

『本日は我々、映画研究部と演劇部合作の自主制作映画、「シンデレラは勇者だった」に足を運びいただいて、誠にありがとうございます――』

 緊張感なんてものとは無縁なのではないかという琴音の前置きを聞きながら、教室のすみに座って待機している舞花がワクワクした様子でささやく。

「いよいよだね……! 香苗ちゃん、楽しみだね……!」
「……成功するといいけど」

 自信なさそうにつぶやく香苗だが、彼女の頭を隣に座る西本がざつな手付きで撫でた。

「わっ、ちょ……!」
「成功させるんだよ。俺達が頑張って作ったんだから、絶対上手くいく」

 自信満々に言う西本の笑顔を見て、香苗は何となくモヤモヤした不安が消えていくのを感じた。
 そして思う。

「西本先輩って、熱血だったんですか?」
「は?」

 無気力が代名詞の西本の発言に、自然と思ってしまったことが口から出た。
 怪訝けげんな顔をするが、その場にいる部員達全員が香苗と同じ意外そうな顔をしていた。
 たまれなさを覚え始めた西本は、口をへの字に曲げる。

「……映画に関しては別だ」

 ボソリと言い、アナウンスが終わってこちらに来る琴音に視線を向けた。

「照明を落としまーす」

 パチン、と芽久の合図で明かりが消えると、室内から一切の光がなくなった。
 それを合図に、ドキドキと緊張した面持ちで龍也がプロジェクターのボタンを押した。

 パッと光るスクリーンに映し出されたのは――。



◇  ◆  ◇  ◆




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