▼ 正月合戦
冬休みに入って、家族と千尋と一緒にクリスマスを過ごした。
両親も正月には帰ってきて、一緒に着物姿で初詣に行った。
両親は正月の三日目で仕事に出かけてしまったけれど、久しぶりに会えて嬉しかった。
「天音ー!」
のんびり部屋で読書していると、バンッと扉が開いて千尋……じゃなくて、小津君が入ってきた。
「正月合戦に行こうぜ!」
いい笑顔でサムズアップ。
ビクッと体が硬直した私は一気に脱力。
「……前もって言ってよ。びっくりしたぁ」
「いーからいーから! ほらほら着物着て行こうぜ」
「え〜〜」
拒否権ないんだろうなぁ。
頬が引き攣ったまま、両親がくれた着物に着替える。
桜色の布地に大輪の芍薬が施された逸品だ。最後にウィッグと眼鏡をつけようとしたけれど、小津君に止められる。
「今回はこのままで行くからな」
「えっ、ちょっ、それは……」
おじいちゃんたちが怒りそうな予感が……。
不安が過る中、小津君に連れられて河川敷に向かった。
並盛町の中で一番広い河川敷には、見知った学校の友達に知り合い、黒服の男達が対峙していた。
「おーい!」
小津君の手を借りて堤防から河川敷に下りると、全員が目を丸くして固まった。
「えっ、天音!? 尋君!?」
真っ先に我に返ったのは綱吉だった。
彼らの中で、京子と山本君が「えっ?」と声を上げる。
「ツナ君、天音ちゃんなの?」
「あっ……そ、そうだよ」
ぎこちなく頷いた綱吉。
そういえば、素顔を見せるのは初めてだ。
「時和……髪染めたのか?」
「えっ? あ、ううん。地毛。お母さんがクオーターだから」
「どうして隠してたの?」
山本君に答えると、京子が質問した。
「日本だと目立つし、校則とかいろいろ大変だから隠すように言われて。変かな?」
「ぜんぜん! きれいだよ!」
頬を淡い赤に染めて、私の手を握って力強く褒める。
改めて言われると気恥ずかしくて、私まで頬が熱くなった。
「あ、ありがとう」
照れくさくてはにかめば、京子もニコリと笑った。
ここで、京子と同じ着物姿の黒髪の女の子が声をかけた。
「京子ちゃんのお友達ですか?」
「うん! 時和天音ちゃんだよ。天音ちゃんは初対面だよね? 三浦ハルちゃんっていうの」
京子の紹介に、私は「初めまして」と会釈する。
「小津、ナイスだぞ」
「まあな。んじゃ、そろそろやるか?」
「ああ」と頷いたリボーンに、私は訊ねる。
「何をするの?」
「ボンゴレ式ファミリー対抗正月合戦だ。審判はオレだぞ」
ふぅん、と呟いて対戦相手を見る。
キャバッローネファミリーのボス、ディーノは私を凝視していた。
いったい何だろう?
「一回戦はおみくじだ」
「おっ、おみくじ〜〜!!? ど…どーやっておみくじで点数競うんだよ!!」
「簡単だぞ。大吉は2点、中吉は1点、吉は0点、凶は−1点、大凶は−2点だ」
最初はおみくじ。
ボンゴレファミリー側が担うのは……
「オレに任せろ!!」
笹川了平。
「オレは占いなんて信じぬ。なぜなら運命は自分で切り開くものだからな。そしてこれがオレの!!! やり方だぁあぁ!!!」
勢いよくおみくじの箱に右手を突っ込んだかと思えば、大量のおみくじを引き抜いた。
でも、笹川了平って確か運が悪かったような?
「大凶、大凶、大凶、凶、大凶、大凶、大凶、凶、凶、大凶。−17点」
「私は中吉」
「1対−17」
一気に引き離された。
いきなりのピンチに苦笑いが浮かぶ。
「そーいや、天音って強運だったよな」
「え? まぁ、ほどほどだけど」
「紗綺ちゃんから聞いたけど、大吉を当てたんだって?」
小津君の言葉に頷くと、綱吉が「えっ!?」と驚く。
「んじゃ、点数には入れないが引いてみろ」
「えっ。……うーん。わかった」
リボーンの好奇心に火をつけてしまった。
仕方ないので引いてみると……。
「大吉だな」
「え〜〜っ!!?」
実のところ、これまで大吉しか引いたことがないんだよね。おじいちゃんに勧められて宝くじで最高額を当てることもしばしばだから。
「おしいことしたなぁ」
「笑いごとじゃねーよ!」
カラカラと笑う山本君に、獄寺君が怒鳴る。
でもまぁ、仕方ない。これもシナリオ通りだから。
「第2試合は羽根つきだぞ。勝てば20点、1回だけの一発勝負だからな」
「ここはスポーツ万能山本たのむよ〜」
「ん。バトミントンみたいなもんだろ?」
山本君は余裕そうだけど、野球一筋の彼がやったら……。
「アウト」
「わりーー」
野球フォームでホームラン。空の彼方へ飛んでいって、星になった。
その後の勝負もボンゴレファミリーはグダグダで、両ファミリーの点差は開くばかり。
そして、ラスト一戦を迎えてしまった。
「あーーどーしよー! このままじゃ1億円借金だ〜〜!! 一生借金地獄だ〜!!」
「考えてみたらちょっとシビアすぎるな。大人対子供だ。少しハンデをやってみいいぜ」
綱吉が頭を抱えて嘆いていると、ディーノが助け舟を出した。
「それもそーだな。じゃあ今までのはチャラってことで」
「おい!」
「うそーー!!!」
「かったりーから次で勝った方が優勝な。そのかわり負けたら10億払えよ」
ムチャクチャすぎる。それに対してディーノも許容してしまったし……。
「最後の勝負はファミリー全員参加のもちつきにすんぞ。オレにうまいアンコロもちを食わせた方が勝ちだ」
でも、リボーンが出したお題は、ボンゴレファミリーにとっては有利。
獄寺君と山本君が餅つきをして、私と京子と三浦さんで餡子を作る。
「あ、そうだ。天音、これ入れてみないか?」
「え? ……あっ、それ最高」
不意に、小津君が持っていた袋を渡す。
蜜柑かな、と思っていたら、なんと柚子だった。
「これ、どうしたの?」
「商店街の八百屋さんがさ、ギックリ腰で困ってるとこ手伝ったらくれたんだ」
「すごーい! 人徳だね」
そんなこんなで、白餡担当の私は柚子餡を作ることにした。
その時だった。
「私も手伝うわ」
気配なく現れたのは、毒サソリのビアンキ。
「あら? あなた……」
「えっと……おにぎりの時の方、ですよね? 時和天音です」
「ビアンキよ」
会釈して挨拶すると、ビアンキから値踏みの視線を向けられる。
気まずくなっていると、ビアンキは私が作っている餡子に気づく。
「それは?」
「柚子餡です。味見してみます?」
「いただくわ」
スプーンに掬って渡せば、ビアンキは一口で食べる。
次の瞬間、カッと目を見開いた。
「この……爽やかで豊かな柑橘系の風味。それを邪魔しない餡子の甘さ……」
「砂糖は少し控えめにしたので、これなら美味しいと思って」
「私も食べたい!」
「ハルもいいですか!?」
肩を震わせるビアンキの反応に、京子とハルが便乗した。
せっかくなので小津君も含めて渡すと三人は目を閉じて美味しそうに味わう。
「さて、と。それじゃあお餅を包みますか。ビアンキさんは三浦さんが作った餡子、小津君は私が作った餡子で。こっちは私達で食べるからね」
ビアンキは作った食べ物を毒に変える能力を持つ。それを防ぐために指示を出せば、小津君が小声で「ナイス」と拳を握る。
それから完成した普通のアンコロもちを箱に詰めて、いざ審査。
「まずはキャバッローネのアンコロもちだ」
「とりあえずつくってはみたが…オレ達の知識じゃあこれが限界だ」
ディーノが出したのは、見るからにアンコロもちとは言えない、ボロボロの大福のような何か。
リボーンが食べた結果「パサパサしてまずいな」と評価。
「次、ボンゴレだぞ」
「うん、これ」
私達が自信をもって出せる出来のアンコロもちが完成した。
……はずだった。
「な! ポイズンクッキングーー!!?」
虫が集っている上に怪しい煙を放つアンコロもちに、綱吉、絶叫。
「私も途中から参加させてもらったわ」
「ビアンキ!!! っていうか、これで逆転負けだーーー!!!」
盛大に嘆く綱吉の気持ちは分からなくもない。
でも、ビアンキはそう思わない。
「どーしてそうなるのよ、料理は愛よ。愛があれば毒ぐらい中和されるわよ。どうぞ、リボーン」
綱吉からアンコロもちの箱を奪ったビアンキは、リボーンに差し出す。
しかし、リボーンの鼻から三つの鼻提灯が出現。
居眠りだと分かるけれど、さすがにこの場を治めないとか、どうかと思う。
「――さて。大将がいなくなっちゃったのは仕方ないけど、先に食べますか」
「待ってました!」
小津君が諸手を上げて喜び、真っ先に柚子のアンコロもちに飛びついた。
クスクスと笑いながら、私も取り皿と割り箸を持つ。
装ったところで山本君が声をかける。
「なあ、時和。これ、白餡か?」
「あ、うん。小津君が貰った柚子を入れたの。白餡なら、柚子の爽やかな味が引き立つから。あ、ちゃんと炊いて作ったから安心して。白隠元って、ちゃんと加熱しないと食中毒になるって聞くし」
「そーなんですか!?」
ハルが驚愕の声を上げる。
ちなみに情報源はニュース番組。
「生豆のままだと毒性が消えないんだって。だから作るときは気をつけてね」
「はひー……勉強になります」
感心するハルに笑顔を返し、私も柚子のアンコロもちを食べる。
つられて京子、ハル、山本君、ビアンキのトラウマから復活した獄寺君が、引き寄せられるように取っていく。
「リボーンも食べる?」
「食べるぞ」
リボーンにお皿と割り箸を渡せば、小さな手で器用に割り箸を使って食べた。
「うまいぞ」
「本当? よかったぁ。ゆっくり食べてね」
お口に合って何より。
綱吉とビアンキの分のアンコロもちを確保した時、綱吉が戻ってきた。
ディーノを置いて逃げ切ったのかな?
「おかえりなさい。大丈夫だった?」
「な、なんとか……」
息切れしている綱吉。相当てこずった様子。
念のために飲み物を作ってきてよかった。
「はいこれ。熱いけどどうぞ」
「ありがとう」
早めに紙コップに入れたおかげで適温に変わった緑茶。
綱吉はそれを飲んで、ほっと一息つく。
「あとこれ、綱吉の分」
「ええっ!? ありがとう! ……んっ、おいしい!」
差し出した柚子アンコロもちに驚きつつ、嬉しそうに食べた。
その一言を笑顔とともに聞けて、来てよかったと心から思った。
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