▼ 病院の珍騒動
寒さに磨きがかかる12月。
小津君から桃巨会というヤクザを壊滅する物語に介入したと聞いて知った。
マフィア、キャバッローネファミリーのボスが来日したのだと。
男装しているとはいえ、小津君、無茶しすぎ。
「なあ、天音。ツナのお見舞いに行かね?」
「え? ……あ。もしかして入院の話?」
「そ」
ボスこと跳ね馬ディーノの鞭のトレーニングで怪我をして、大袈裟なことに入院する。
入院しても苦労が絶えないなんて災難すぎる物語だ。
しかも、獄寺君が暴れる裏話が小説に載っている。
「行く。沢田君もそうだけど、獄寺君の裏話も見たいし」
「あっ、それな! オレもめっちゃ興味ある!」
私の家に来た小津君の誘いに乗り、並盛中央病院へ向かった。
並盛中央病院の受付で聞いたところ、沢田君は今、相部屋に移ったそうだ。
あー、雲雀さんかぁ。
「確か雲雀のいる病室だっけ?」
「そう。沢田君、大変だろうなぁ」
――ドガァン
「「……」」
すでに大変な目に遭っているみたい。
「急ごう」
「おう」
エレベーターで行くのも間に合わない。疲れるけど、階段を駆け上がることにした。
そして――
――ドォォォオンッ
窓の外で、閃光と衝撃とニンニク臭が発生した。
ビリビリと窓が震える破壊力に、イーピンか、と頬が引き攣った。
「ツナ! 大丈夫か!?」
小津君の声で我に返ると、窓にもたれかかって息切れしている沢田君を見つける。
よく見ると、右足にギブスがついていた。
「沢田君! 足折ったの!?」
「えっ、時和さん!? い、いや折ってはないけど……って、それより……!」
ガキンッ、鋭い鉄を打ち付ける音が聞こえた。
強烈な打音を立てたのは雲雀恭弥。そして、それを伸縮式の警棒で防いだ小津君。
「君、やっぱりそこそこやるようだね」
「んっとに病人に何すんだコラ」
小津君が雲雀を弾き飛ばして、沢田君を庇うように立つ。
うーん……これは、少し説得した方がいいかな?
「雲雀さんも入院?」
「……時和天音か。君は?」
「沢田君のお見舞い。それより、雲雀さん病気なの?」
「風邪だよ」
やっぱり風邪かぁ。でも、それって……
「風邪なら安静にしないと駄目じゃない。治るのも治らないよ?」
「この僕に説教かい?」
「まさか。ただ、早く治らないと学校の不良が活発になるでしょうね。並盛中は雲雀さんがいてこそ秩序が保たれているんだから。その抑止力がいなくなったら風紀が乱れるよ」
説教ではなく、忠告。それを交えて説得すると、雲雀さんは押し黙った。
しばらく考え込み、静かにトンファーを下す。
「今回だけだよ。それと草食動物、君は別の病室に行きなよ」
「は、はい」
沢田君を一瞥した雲雀さんは、自分の病室へ戻っていく。
見送って、私は沢田君と小津君のところへ歩み寄る。
「大丈夫?」
「……天音ってすごいなぁ」
「そう?」
「だってあの雲雀恭弥を説得したんだ。普通は咬み殺される一択だぞ?」
小津君の一言で、確かに、と納得する。
出会った時から暴力を振るわれたことがないから、感覚が麻痺しているのかも。
「尋君って、時和さんのこと名前で呼んでるんだ」
不意に、沢田君が言った。
顔を向ければ、驚きより不機嫌と言える顔をしていた。
若干ジト目の視線を向けられた小津君は、焦った様子で言う。
「だ、だったらツナも名前呼びすりゃいいじゃん。これでもいまだ『小津君』だぞ?」
それはそうだ。本当は彼女≠ナ『千尋』なのだから。
偽りの名前より本当の名字で呼ぶ方が友達の意識が強くなる。
でも、沢田君がそれを望むのなら――
「私はいいよ? 呼び捨てでも」
10年後の沢田君も呼び捨てだったし。
思い出してあっさり言うと、沢田君は大きく目を見開いた。
「じ、じゃ……天音。オレのことも名前でいいから」
「うん。私も、綱吉って呼ぶね」
『ツナ』はマグロというネタ扱いになるから、ちゃんとした名前で呼びたい。
笑顔で呼ぶと、沢田君……綱吉は顔を赤くした。
「そろそろ看護師さんに部屋のことを言おう。このままじゃ悪化しそうだし」
「……だな。ツナ、行けるか?」
「あ……うん」
ぎこちないけど頷いた。
それから綱吉を担当する主任を説得・説教した。病人が爆発物を持ち込むなんてありえないのに、全て綱吉のせいにするのは人道的に酷いと。
最後に雲雀さんの名前を出したことで功を奏し、綱吉を個室に移動させられた。
これでお見舞いは終わり。あとは……。
「おっ、マジで夕方だ。よく覚えてたなぁ」
病院内で騒いでいるランボを尾行していると、医者に変装した獄寺が現れた。
度重なる不運で重症患者の病室に運ばれたのに、よく動けるなぁ。
「さすがに病院が壊れると大変だから、途中で介入するよ」
「たしかエンツィオが天井を壊すんだっけ?」
「そう。それで雲雀さんに咬み殺されかけた獄寺君が助かるんだけど、介入すれば遭遇しないはずだし」
エンツィオとは、ディーノの飼っているスポンジスッポンという亀。普段は手のひらサイズだが、水を浴びると巨大化&凶暴化するのだ。
ディーノに追われているうちに獄寺君がダイナマイトを使い、火災報知器で作動したスプリンクラーによって巨大化。そして天井を突き破る……という流れが蘇る。
「あ、来た」
小津君の声で我に返ると、奥の通路から黒服の男達を引き連れた青年が現れた。
金髪に鳶色の瞳の美青年。ラフな前開きのパーカーといった服装でも、ただ者ではないとわかる。
マフィアじゃなければ芸能界で生きていけるんじゃない?
「このアホ牛ぃ……さっさと渡しやがれぇ!」
獄寺君が怒鳴り声をあげて、掴み上げているランボにもう片方の手を伸ばす。
しかし、その直前でディーノが何かを振るった。
b それは、強くしなる黒い鞭。
――ビシィィィィィッ!
「何やってんだ、子供相手に」
鋭い音とともに、獄寺君の手が弾き飛ばされる。
「やっぱ病院で張りこんでて正解だったぜ。ま、トレーニングでツナをケガさせたのはオレなわけだし、これくれーはしねえとな」
「おいおい、ボスだけがんばってたみたいに言わないでくれよ」
「そーだぜ。毎度毎度ボスの尻拭いさせられるこっちの身にもなってくれって」
軽口を叩き合いながら強面な黒スーツの男達。
ディーノは部下がいなければ修業時代のへなちょこ≠ノ戻る。しかもそれを自覚していないからこそ部下が過保護になるのかな?
「なっ、なんだよ、おまえら。オレは一人でツナを守るって言っただろ」
「ボス一人にまかせられっかよ」
「ああ。危なっかしくて仕方ねーや」
男達の間で笑い声がはじける。
茫然としていた獄寺君だが、我に返るとランボが己の手から逃れたことに気づく。
「待ちやがれ、この……ぐっ!」
追いかけようとした獄寺君の手首に、ディーノの鞭が絡みつく。そして、静かな怒りに満ちた目が獄寺君に向けられた。
「ツナを直接狙うんじゃなくて、仲間に手を出そーってわけか。オレの一番キライなやり方だな」
「なっ……?」
鞭に捕らわれた手首を強く引かれ、獄寺君は床に倒れる。
「覚悟してもらうぜ。オレのかわいい弟分に手を出そーってやつはな」
……潮時だ。
小津君の肩を叩いて頷くと、小津君も目配りして頷く。
あと少しでランボがエレベーター前の影に入る。その前に私は踏み出した。
「ランボ、どうしたの?」
声をかけると、ランボは見開いた目を潤ませて、私の足に飛びついた。
「天音〜っ!」
「っと。大丈夫?」
ティッシュで鼻水を拭いてあげる。
小津君はランボが落とした藁人形を拾う。
「うっわ、よくこんなもん作ったなぁ、あの子」
本格的な藁人形にケラケラと笑う小津君。
私は苦笑して、通路の奥から走ってくる獄寺君とディーノたちの前へ出る。
「なっ!」
「あ、獄寺君。何してるの? そんな格好をして」
声をかけると、獄寺君は脚を踏ん張って立ち止まる。
「サングラスにマスクに白衣って……すっげー怪しいぞ」
「小津!? 何でこんなトコにいやがんだ!」
「何って、ツナのお見舞い。いま帰るところだったんだけどな」
チラッと走ってくるディーノ達を見やる小津君は呆れ顔。
私も溜息を吐いて、ランボを小津君に預けて、彼らの間に入るように立ち塞がる。
「いい加減にしなさい!!」
鋭い声で一喝すれば、ディーノ達が立ち止まる。中には顔を強張らせる者もいる。
そんなの知ったことか。
「ここをどこだと思っているの! 病院だよ? 患者の心身を害する格好で、しかも大人数で来るのは迷惑でしょう! そもそも廊下で走らない!!」
「えっ!? わっ、わりぃ!」
「それと獄寺君。悪戯でもその格好はやめなさい! 警備員に捕まって連行されてもおかしくないんだよ? ランボに用があるなら、沢田君のお母さんを味方につけなさい。そもそも子供に暴力はダメじゃない!」
「……」
「返事は?」
にこぉ、と笑顔で低い声を出せば、獄寺君は後ろ足をひいて頷く。
「で、ランボ。その藁人形、誰から貰ったの?」
「ハルだもんね」
「……そのハルって子、頭大丈夫なの? これに髪の毛でも入っていたら、丑の刻参りで呪殺されそうで怖いんだけど。入ってないよね?」
「あー……大丈夫じゃね? さすがにごっきゅんの髪の毛なんて持ってないはずだし」
ごっきゅん……そのあだ名、小津君から聞いたのは初めてだ。
「ごっきゅん言うんじゃねえ!」
「いーじゃん。ごっきゅん」
「なんかかわいいね、それ」
思わず笑ってしまうと、獄寺君は固まった。
「ところで、この人達は誰? 知り合い?」
「オレ達っていうか、ツナのな」
「綱吉の? へえ。小津君達を、あの<сNザに乗り込むようそそのかした、ねぇ……」
桃巨会の話を持ち出して、ディーノ達へ振り向く。
私の薄い笑顔を見て、ディーノは肩を震わせた。
「これ以上余計なことをして彼らに怪我させたら、大事なとこ潰すから」
どすの利いた声で笑顔とともに脅せば、彼らは青ざめた。
「――さて。獄寺君は重症患者の病室だったよね。一人で行ける?」
「あ、ああ」
「ランボ、小津君。そろそろ暗くなるから一緒に帰ろう」
「うん!」
「……おぉ」
頬を引き攣らせて返事した小津君。最後にディーノ達へ向き――
「あなた達、今度から少人数、かつ威圧感のない格好で病院に来なさい。医者と患者の迷惑もしっかり考えてね」
「……はい」
素直に頷いたディーノに満足してニッコリと笑い、私達は病院から出た。
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