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序章

 後悔ばかりの人生だった。
 でも、生きる目標は小さくともあった。
 少ないけど、その目標にすがって生きるしかない。
 苦しくて悲しい時もあるけれど、必死に生きた。
 けど、やっぱり死にたいと思う気持ちは消せないもので。

 生きたい。けれど、死にたい。

 二律背反な天秤に揺れる。
 呪詛じゅそのように根付いた切望を振り払うために、趣味である物書きに没頭ぼっとうした。

 そんなある日、自転車に乗って買い物に行っていた時だった。


 ――キキィィィイイッ


 甲高いスリップの音が聞こえ、驚いて顔を向けた瞬間――目の前が、暗転した。



◇  ◆  ◇  ◆



 沈んでいた意識が、徐々によみがえってきた。
 私はいったいどうしたのだろう。確か、車にかれたはず……。

 ぼんやりと思い出そうとしていると、現実味がありすぎる映像が流れ込んできた。
 生々しすぎて、見たくないのに強制的に見せられる映像に嫌気が差す。
 とうとう無心になったとき、光のような何かを感じた。
 手を伸ばすと、記憶にない映像が頭の中に流れ込んできた。
 見たことがない男女の大人。彼らのいつくしむ眼差しは、まるで親のように見えた。
 こんな二人が両親だったら……と願ってしまう。
 ありもしない幻想を抱いてしまう私は、相当現実が嫌いなようだ。

 この夢から覚めたら、いつもの惰性的だせいてきな日常が待っている。それがとても嫌で、目覚めたくなかった。

 それでも、現実は常に無情で……。
 浮遊感に抗えず、闇の中に沈んでいた意識が途切れた。



◇  ◆  ◇  ◆



 5歳の夏。私は謎の高熱にかかり、三日間も意識がなかった。
 その間に蘇ったのは、なんと前世の記憶。
 どうしてなのかわからないけれど、望んでいた転生を果たしたのは素直に喜んだ。
 嬉しくて、今度こそ大切な家族と一緒に生きていくのだと心に決めた。

 けれど、少しくじけそうになる時もある。
 体調が回復した途端に、両親のスパルタ教育が再開したのだ。
 両親から出された課題である外国語を和訳したり、日本語を外国語に翻訳したり。

 お父さんは、世界一有名な科学者で技術者。
 お母さんは、情報・機械・電子工学のエキスパート。
 二人揃って天才だからかな。育児にも妥協だきょうしない。

 とはいえ、二人の気持ちもわからなくはない。
 天才である二人は、いろんな意味で狙われやすい。
 そんな両親の弱みになる私は、人質や誘拐の可能性を防ぐために鍛えられている。
 私を守ろうとしている両親の愛情を知っているから、私も頑張ろうと思えるのだ。


 そうして転生の自覚を得て数年で、私は驚くべき現実を知ったのだった。



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