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運命の出会い

 私の名前は、神永祈里。
 前世は、何の取柄とりえもない――趣味特技は小説の執筆――、ごく普通の一般人。
 そんな私が転生した先は、とんでもない世界だった。


 町の名前。町の名を冠する中学校や商店街、神社、河川敷、裏山、海岸……。
 この全ての頭に「並盛」という名称がついている。


 欲しいものがあれば大抵のものなら手に入れられる、並盛商店街。

 並盛駅から20分先には、夏になれば海開きで人が集まる、並盛海岸。

 8月になれば地域住民が賑やかに盛り上げる、並盛神社の夏祭り。

 並盛海岸へと流れ込む、並盛町と隣町をへだてる広々とした河川敷かせんしき、並盛川。

 駅前のバスから約一時間で、キャンプやハイキングなどの行楽に定評がある、並盛山。


 町の名前は――並盛町。
 何か特別なものがあるというわけでもない平均的な街並み。
 大なく小なく並がいい――という校歌が似合う場所。


 現実にはないはずの町名を知って、確信を持った。

 この世界は――少年漫画【家庭教師ヒットマンREBORN!】なのだと。
 私は漫画の世界に転生トリップしたのだと、知ってしまった。

 しかも、私の計算していた通りなら、主人公と同い年になるだろう年に生まれて……。



◇  ◆  ◇  ◆



 小学2年生になった私は、二度目の夏休みを迎えた。
 一週間で夏休みの宿題の半分が消化できた頃、久しぶりに両親が揃った。
 今までどちらか、もしくは二人とも家にいないことが多かったから嬉しかった。

 だが、予想外な出来事が起きた。

「今日からしばらくホームステイすることになった、ジョット・レオネッティ君だ」

 お父さんに紹介された男の子に、これでもかというほど驚く。

 ツンツンとした、太陽の光のような金髪。
 幼さのある、けれど凛とした橙色の瞳。
 10歳前後らしさのある将来が楽しみな顔立ちと色彩を見た瞬間、理解した。


 ――この子……ボンゴレT世プリーモだ。


 なんで!? この時代にいるはずのない偉人がいるなんて……!

「っ……あ、えっと……神永祈里、です」

 混乱する頭をフル回転させ、何とか平常心を取りつくろおうと挨拶する。
 けど、私らしくない様子に気付いたお母さんが心配そうに声をかける。

「祈里、どうしたの? 顔色が悪いわよ」

 お母さんが私の背中を撫でてくれる。
 その温もりで少し余裕を持てた私は、脳裏によぎった事実を虚構に混ぜた。

「ちょっと、学校の男の子を……思い出しちゃって……」
「学校で……何かあったの?」
「……ちょっと、嫌なことがあっただけ。えっと……ジョット君、だよね? よろしくね」
「あ……ああ。……よろしく」

 ぎこちなくうなずいたジョットに、少なからず受け入れてもらえたと思って肩の力を抜く。

「お父さん。ジョット君の部屋って、どこか決まってる?」
「二階の一室が空いているから、そこにしようと思うんだ。ジョット君、一人部屋でも大丈夫かい?」

 我が家には、私と両親と祖母のほかに、兄弟ができたとき用の部屋がある。
 お父さんが問えば、ジョットが「はい」と頷く。

叶恵かなえ、準備は?」
「ばっちりよ」
「ありがとう。じゃあ、案内してくるよ」

 お父さんがジョットを連れてリビングから出ていく。
 残された私は部屋に戻ろうかな、と思ったが……。

「祈里、学校で何があったか話してくれる?」

 お母さんに肩を掴まれて問いかけられた。
 やっぱり言うべきじゃなかったなぁ。

「男の子に……ね。ブスって言われて……」
「……は?」

 仕方なく、グサッと心に突き刺さったことを教えると、お母さんが今までにないくらい低い声を出した。

 ちょっ、怖いです。顔が般若みたいです。

「ほかには?」
「……根暗、とか」
「は?」
「ひえっ。ご、ごめんなさい!」

 思わず悲鳴を漏らしてしまった。
 これ以上は言えない。言ったらお母さんが魔王になりそうで怖い。
 とっさに謝ると、お母さんは私の両肩を掴んで、にこりと笑った。

「祈里が謝ることはないわ。それより、その子の名前は何ていうの?」
「……ごめんなさい。年上の人だったから……知らなくて……」

 これも本当のことだ。
 学校の上級生にからかわれた。だからその子の名前まで知らない。

 うつむき気味に答えると、お母さんは「だからさっき……」とつぶやいた。

「祈里、安心して。ジョット君は私の友達の子だから、そんな酷いこと言わないわ」
「……本当?」
「本当。そんな子だったら、うちにホームステイに迎え入れないわよ」

 きっぱりと言ったお母さんに、肩の力が抜けた。
 やっぱり私の両親は、私の味方でいてくれる。それがとても嬉しかった。

「お母さん、ありがとう」

 ふにゃり、はにかむ私に、お母さんは口に手を当てて顔をらした。

「ンッ、コホン。それでね、ジョット君にいろいろと教えてあげてほしいの。日本語や、これまで祈里が学んだ学校での勉強とか」
「ん、がんばる」

 両手をぐっと握って意気込みを見せると、お母さんは相好そうごうを崩して私の頭を撫でた。



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