[ book mark ]
少年達のメモリーズ
不良生徒の制裁から二日後。
今日は、並盛中とヒスイ中のボクシング部交流試合の日だ。
風紀委員がこの前の不良生徒の制圧に向かっているが、今頃終わっているだろう。
「お前が原因で一般生徒、しかも並盛中の活動を立て直そうとする生徒が病院に
風紀委員長である雲雀恭弥の根城、応接室。
腕を組んで
「今回は僕の落ち度だと認めるよ」
「そうか。それで? これからどうするつもりだ。被害に遭った生徒はボクシング部の部長であり主将。今日が交流試合の日だというのに、並盛中の評判が落ち、またしても風紀が乱れる」
自分の非を認めるのはいい。だが、落とし前はしっかりしてもらわなければ困る。
「それに、借りを返せないのは本意ではないだろう」
オレの説教に、恭弥は渋面を作る。
恭弥は風紀委員長。ボクシング部に加担することは難しいが――
「草壁から聞いたが、入部すれば、自分のできることなら何でもするそうだ。これを機に関係を断つのも一つの手だ」
そこまで言うと、恭弥は席から立った。
どうやら行く気になったようだ。
「行くよ」
「……オレも?」
「当たり前だよ」
……横暴なのは今に始まったことではない。仕方ないが、付き合うか。
嘆息し、恭弥とともに学校を出ることにした。
「あっ、あの……!」
校舎を出ると、校門の前に一人の少女がいた。
かわいらしい顔立ちの彼女は、幼馴染と同い年ぐらいだろう。
「雲雀さんですかっ?」
「……君は?」
「笹川京子です。お兄ちゃんのことでお願いがあって……」
……笹川了平の妹か。まったく似ていない。というか想像できないくらい差がある。
「そのお願いは、ボクシング部の交流試合のことか?」
オレの言葉に、笹川京子は目を丸くして頷く。
「心配ない。これから向かうところだ」
そう言えば、笹川京子は希望を見出した顔で安堵した。
ヒスイ中に到着し、交流試合の会場である部室に行くと、すでに到着していた並盛中のボクシング部員が恭弥を見て青ざめる。同時にオレを見て安堵を浮かべた。
恭弥は会場に入るなり、リングの上に立つ。
唖然と誰もが声を出せずにいる――その時だった。
「委員長!」
草壁の声が聞こえた。まさか彼がここに来るとは思わなかったが、その奥からゆっくり来ている笹川了平の姿を見つけて納得した。
面倒見のいい草壁のことだ。わざわざ送ったのだろう。
「どうしたの? 来ないの? これ試合でしょ」
淡々と言う恭弥に答えられる者はもちろん、まともに声を出せる者さえいなかった。
だが、笹川了平の声で金縛りがとける。
「友達のいない黒髪ではないか! なぜここにいる……?」
困惑する笹川了平に、恭弥は涼やかな視線で反応を楽しむように微笑を浮かべる。
「キミ、言ったんだってね」
「な、何をだ?」
「ボクシング部員になれば、自分のできることは何でもする……そこの草壁に、そう言ったんだよね」
「くさかべ……?」
今まで草壁を雲雀恭弥だと認識していたのだ。混乱に拍車がかかって当然だ。
しかし、雲雀は構わず言葉を続ける。
「いいよ。ボクシング部に入っても」
「それはまことか!」
「ただし……」
喜びにあふれた笹川了平だが――
「この試合が終わったら、僕はボクシング部をやめる」
恭弥の宣言に、笑顔のまま固まった。
「そして、キミは二度と雲雀恭弥をボクシング部に入れようとしない。言ったんだよね。できることはなんでもするって」
「………………」
「委員長! それではあまりにも……」
たまらず声を上げた草壁だったが、彼を制するように笹川了平が手を上げた。
「わかった」
ただ一言。それが静かな衝撃となって周囲に広がっていく。
話は終わり、やることは一つ。
「さぁ……始めようか」
ヒスイ中ボクシング部は、創部以来、最大の恐怖を刻まれることになった。
下校時間。諸々の事後処理を終わらせて家路につく。
今日は一際疲れたな、と思っていると――
「……!」
ある後ろ姿を見つけた。
腰まで真っ直ぐ伸びた漆黒の髪は、今時珍しいだろう。
アジアンビューティーな美髪と、年齢にしてはやや高い身長の少女は――
「祈里」
声をかけると、少女は立ち止まって振り返った。
色白美肌に小顔。さくらんぼ色の唇は瑞々しく潤い、小振りの鼻の筋は整っている。
瞳の色は黒。穏やかさと凛とした意思を秘める目付きだが、オレを見ると温かい雰囲気を帯びる。
「あ、ジョット。お疲れ様」
柔らかな笑顔で
オレと同じ転生者だが、オレと違ってこの世界の人間ではなかった。
その世界で、この世界が少年漫画の世界なのだと知ったそうだ。
実際、オレの前世を的確に言い当てた。殺伐とした未来も知っているのも心強い。
「今日は大荷物だな」
「春キャベツでロールキャベツを作ろうと思って」
「それはおいしそうだ」
日本の食文化は進んでいる。イタリアは硬水だった分、軟水で回っている日本ではスープがおいしい。
楽しみだと笑みを返しながら、重い方のスーパーの袋を取る。
「あっ」
「これくらい持たせてくれ。というか、一人でふた袋はつらくなかったか?」
「大丈夫。これでも体力あるし」
それは知っている。彼女は地元の総合武道館で優秀な実力を磨いたのだから。
「無理だけはするなよ」
「うん。ありがとう」
嬉しそうにはにかむ祈里の笑顔に、心臓が締めつけられた。
初めて出会った頃から、祈里の隣は居心地が良かった。
再会して居候するようになり、それ以上の感情が芽生えたのだが……。
「……こっちこそ」
祈里は気づかない。オレが
信頼しきった彼女の表情に頬が熱くなった気がして、そっと目を
「いつもうまい食事をありがとう」
「どういたしまして」
ふふっと軽やかな笑声を奏でた祈里と並んで歩く。
温かな心地に満たされる中、互いの学校での出来事を語り合いながら帰宅した。
prev / next