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ありがとう
「この際、二章は巻き込まれる前提で考えて……基盤となる一章をどう乗り切るか。これが一番の問題ね。主人公達と違う中学校に通えたら問題ないんだけど、それは両親と相談しないといけない案件で……」
ジョットに秘密を明かしたら、なんだか吹っ切れた。
そこからぶつぶつと計画を練っていると、きょとんとしたジョットの表情が視界に入った。
「どうしたの?」
じっと見つめてくるジョットの視線に、不思議になって首を傾げる。
やがて彼は、ふっと力無く笑った。
「いや……祈里は強いな」
「え? そう?」
「ああ」
どういうところが強いのか気になるけど、彼は穏やかな微笑で多くを語ろうとしない。
まぁ、いっか。ちょっと照れくさいけど。
「あ。そういえばジョット君は――」
「ジョットでいい。祈里にくん≠ナ呼ばれると……なんというか、むず
「……え。むず痒いって……そんなに嫌だったの?」
ショックから石化しかけると、ジョットは笑って私の頭を撫でた。
「それで、呼んでくれるか?」
頭を撫でたその手で、すっと頬を撫でる。
彼は今、子供なのに……妙に色っぽい微笑みを見せた。
心臓が跳ねて、一瞬だけ息を止めてしまったけど、なんとか頷く。
「わ、わかった。えっと……ジョット?」
名前を声に出すと、ジョットは頬を淡く染めて笑った。
「ふっ、ははっ! 顔が赤いぜ。大丈夫か?」
「えっ!? ……うわ、あっつ。え、なんで!?」
両手で頬に触れると本当に熱かった。
うわあぁぁ。このタイミングで、これはない。恥ずかしいというかなんと言うか……。
というか、何で赤くなってるの? あれか、美形が目の前にいるからか。
「……ないわぁ」
「何が?」
「……いろいろと」
両手で顔を覆って、くぐもった声で返す。
「どうしてオレを見ないんだ」
それをこのタイミングで指摘するのは酷い。
無言を貫き通していると、ジョットが私の手を掴んで開かせた。
上目遣いになってしまうけど、恐る恐るジョットを見ると……今度はジョットが頬を赤らめていた。
……何その反応。余計に恥ずかしくなるんですけど。
「……あー……そうだ。さっき何て言おうとしたんだ?」
ジョットは私から視線を逸らして、話を戻す。
このタイミングでそれ? まぁ、いいけど。
「……えっと。ジョットはホームステイが終わったら、どうするのかなぁって」
「どうって?」
「ほら、ジョットはイタリア人のハーフで、イタリアに住んでいるしょう? イタリアと言ったらボンゴレファミリーがあるし……」
一番心配していることを言った。
ジョットがもう一度ボンゴレファミリーに入るのかもしれないと思ったら、嫌だった。
だって、今のボンゴレは危険だ。五章で出てくる亡霊絡みで大変だから。
「……そうだな。いっそのこと、こっちに移住するか」
「え? ……移住って……本気?」
「前世では日本に骨を埋めたんだ。別に大したことじゃない」
いや、大したことだよ。人生は長いんだから、旅に出るとかあってもいいのに。
とはいえ、私の前世はそんなに長くなかった気がする。最期の瞬間を覚えてないから当然だけど。
「それは……ご家族と話し合ってね」
「祈里は嫌か? オレがこっちに移住するのは」
しょぼん、とした顔で私を見下ろすジョット。
どうしてこのタイミングで小動物のような表情と仕草をするのかなぁ。
「……嫌じゃない」
小さく答えると、ジョットは嬉しそうにはにかんで私に抱きついた。
「えっ……えっ? ジョット? え、なんっ!?」
「はははっ、やっぱり祈里はいいな」
何がいいのか理解できない。
でも、これだけはわかる。
ジョットは私が何者であっても受け入れてくれる。
私が転生者で、この世界を読者という形で
――やっぱりジョットは、全てを包み込む大空だ。
話せてよかった。私は安心感から、笑顔を浮かべて言った。
ありがとう――って。
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