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秘密を明かす

 翌日の正午。
 どうやって自分の前世を話せばいいのか悩んでいると、ジョットが声をかけた。

「祈里、どうした? 表情が暗いぞ」

 部屋で勉強会をしていたとき、ジョットに指摘された。
 言うなら、このタイミングがいいと思う。でも、どうやって……。

「……祈里、何か隠していることはないか?」

 ジョットの的確な質問に、無意識に口を引き結ぶ。
 うつむいた私は深呼吸を一つして、ジョットを見据える。
 彼も、いつになく真剣な顔をしていた。

「ボンゴレリング。マーレリング。アルコバレーノのおしゃぶり。……知ってる?」

 私が挙げた単語に、ジョットはゆっくり目をみはった。

「……祈里も……前世を持っているのか?」
「そうだけど……ジョット君とは違う。私の前世は、この世界じゃないの」

 眉を寄せるジョットの表情は促しているように見えて、私は続けた。

「私の前世は平成時代。その世界ではある本があったの。……その本は、この世界の物語を描いたものだった。私はそれを愛読していたから、最後まで覚えてる」
「……その本は、どんなものなんだ?」
「落ちこぼれの少年がマフィアのボスに鍛えられる内容だけど、最初はギャグ系で、徐々にバトル系の物語に発展していく。いわゆる主人公の成長記録だよ」

 そこから大まかな内容を話した。
 落ちこぼれの少年がマフィアのボスとして、殺し屋の赤ん坊に鍛えられる。その過程で友達に恵まれて、困難に立ち向かっていく。

「そのマフィアの名前は、ボンゴレファミリー。主人公は初代の直系で来孫にあたる少年で、唯一の10代目ボス候補」
「……ま、待ってくれ。それじゃあ、祈里は……」

 何が言いたいのかわかった。だから包み隠さずに告げた。

「……うん。この世界ではない地球――つまり異世界の人間だった。だから私は、あなたがボンゴレT世プリーモだと気づいた」

 まさに絶句という顔だ。
 気持ちは理解できるけど、深層まで理解できないのは心苦しい。それでも私は話を続けた。

「あなたは物語の過去に登場した。けど、現代にはいなかった」
「……どういうことだ?」
「この時代に生まれ変わって登場するなんてなかったってこと」

 カッと目を見張ったジョットは息を詰め、震える手で口を覆った。
 混乱しているように見える。実際、私も彼を見たとき取り乱しそうになったから。

「……私でも、あなたがこの時代に生まれ変わった理由がわからない。ただわかるのは、この世界は原作と違うってこと。証拠に、登場人物の一人――雲雀恭弥に女の子の幼馴染なんていなかった。たぶん、彼女も私と同じだと思う」

 確証はないけど、と付け足して、一旦区切る。
 ジョットにも考える時間は必要だ。でないと頭がパンクするから。
 そうして一分くらいが経過する頃、ジョットが重々しく口を開いた。

「その物語は……オレ達のせいで変わる可能性があるのか?」

 ジョットは想像以上に順応力があるようだ。
 しかも、その質問は一番の問題点でもある。

「確実に変わるよ。知識を持つ人が私以外にもいるなら、登場人物に関わる人もいるだろうし」
「祈里は関わりたいのか?」
「まさか。私は巻き込まれるのは嫌だよ。二章辺りから危険になるし、四章は黒幕のせいで未来が崩壊しかけて世界の危機だし。……そもそも、家族を巻き込みたくない。四章では、登場人物の親族や親しい人達、敵の組織に殺されてしまうから」

 目を伏せて、一番の懸念事項を息苦しさとともに吐き出す。
 再びジョットを見れば、彼は表情を固めて強張ってしまった。

「最後にはすべて元通りになるけど、私以外の転生者……イレギュラーがいたら、物語が狂いかねな……」

 ここまで言って、ハッと思い出す。
 二章では、主人公達が通う学校で強い人達が狙われると。
 一位に輝いているのは雲雀恭弥。
 将来はどうなるかわからないけど、現時点で彼に勝っている私は……。

「……うわぁ……どうしよう……」
「祈里? 顔色が……」

 片手で口を覆って、ショックを抑え込むけど……無理だ。
 ジョットに呼びかけられて顔を上げれば、彼は驚き顔を徐々に険しいものに変えた。

「祈里が巻き込まれることはあるのか」

 ……的確すぎる。これも超直感だとしたら、少し困ったなぁ。

「……二章で」
「その根拠は?」
「主人公達が通う中学校で、喧嘩が強い人が狙われるから。雲雀恭弥は、その学校で一位になるほど最強で有名だから……私、今のところ、あの子に勝ってるし……」

 ジョットは、これでもかというくらい目を見開く。

「回避できないのか?」
「……うん。ランキングを作る男の子がいて、その子が敵に捕まって……そのランキングをもとに狙ってくる。上位二十四人に入る人は漏れなく病院に送られるほど痛めつけられて、さらにカウントのために歯を抜かれるんだっけ……。えぐいよね……」

 口元を引きらせて遠い目で愚痴ぐちる。
 私は空笑いするけど、ジョットは深刻な顔を崩さない。

「だったら道場に通うのはやめた方がいいだろう」
「……やめられると思うの? 両親の仕事を考えると難しいよ」
「……そうだった」

 顔に手を当てて嘆息するジョット。
 そう。打つ手がないのだ。もし回避できたとしても、今度はヒロインを狙う殺し屋がいるし。雲雀恭弥と関りを持った今、狙われる確率は上昇したはずだし。

 でも――

「はぁー……まぁ、でも……その時にならないとわからないかな」
「……ずいぶんと楽観的だな」
「いや。考えすぎても仕方ないでしょう、これは。まだ何も起きていないんだから」

 ぐだぐだ考えても何も起きない。
 いつだって行動を起こさないと始まらないのだから。



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