「そうだ、いえでしよう」

思い立ったが吉日。
××は鍵を持って部屋を出る。
昨晩の事を思い出し、顔から火が出るように真っ赤になる。
キャリーバッグとポーチを持ち、ポケットの中の盗聴器を取り出して机に置く。
紙にメモをして準備万端。

『家出します。探さないでください』

まるで探せといわんばかりのメモに××は満足気に息を吐く。

「ばいばい」

こうして××は折原邸を後にした。






『××、初潮おめでとう!私には分からない感覚だが、腹は痛くないのか?』
「ふつかめだからまだちょっといたい。おなかっていうよりこしあたりかな」
『薬はあるか!?』
「おりはらさんにもらったものがまだあるわ」

腰の痛みは昨晩の情事からか、生理からかは分からなかったが、まだ少し痛む、と伝えた。昼中、××は池袋中央公園に来ていた。仕事中の黒バイクを捕まえて話し込む。

『そうか…しかしお目出度いな。××が成長していくにつれてなんだか私は複雑な感情に塗れていくよ』
「セルティ、おかあさんみたい」

ふふ、と笑ってセルティを見る。
人間ならば痛感するであろうこともセルティには分からない。なんだか不思議な気持ちになって、思わずメールで報告したのだ。

『それで、どうして引き止めたんだ?』
「セルティ…わたしね…おりはらさんとからだをかさねたの…」
『は?』
「つまりセック…もがもが」

疑問符を浮かべていたセルティだが、理解するが早く、ぶわっとヘルメットの隙間から靄が溢れて××の口を塞いだ。

『!?!?!?な、なっ!!!!』
「もがー」
『犯罪だぞ!?ロリコンなのか!?臨也はロリコンなのか!?』
「ぷはっ……××あいてならはんざいしゃになってもいいっていってたわ」
「―――…っ、」

くらり、とベンチに倒れるように座り込む。

『な、な、なんてことだ!××が汚れた!おおお折原臨也の所為で!!』
「おおげさねぇ」
『痛くなかったか!?じゃなくて、その腰の痛みはヤバくないか!?し、新羅のところにっ!!』
「おちついて、セルティ」

混乱しているセルティを宥めるように抱きしめる。

「わたしね、うれしかったの。きょひされるこのよであのひとがわたしのまっくらなせかいにきぼうのひかりをくれた。もうただのどうきょにんじゃない。とくべつなそんざいなんだっておもえて、とてもうれしかった」
『××…』
「だから、ね?あまりあのひとをおこらないであげて?」
「怒っているというより私は呆れているのだが…そうか。××、良かったな」
「えへへ…」
『そういえば此処で何をしているんだ?臨也は一緒じゃないのか?』
「それが、」

少し俯いて、

「いえでしてきちゃった」

申し訳なさそうに笑った。






ぱち、とスイッチを入れると部屋の電気が灯る。

『何もない部屋で悪いが、ゆっくり寛いでくれ』
「ありがとう」
『新羅にちょっと言ってくる』

ぱたん、と扉が閉められる。
客間に通された××はそわそわと落ち着かない様子で周りを見渡す。扉の向こうでは新羅の声がして、すこし安堵した。身につけていたポーチから携帯を取り出して電源を切る。家出なのだからこうしておかなくちゃ。

「ひろいきゃくま…あ、ゲームがある」

ジェンガを手に取り、積み上げてから抜いて、再び積み上げていく。

「これたのしいわね。おりはらさんにもらったおかねで……おりはらさん、に…」

ぽた、ぽたた。

「あ、あれ?あれ…?」

拭っても拭っても拭いきれない涙に困ったように笑う。

「あれ…?なんで、なんで…」

いつも行動が裏目に出て、困るのはいつも自分だった。いつもいつも考えるままに行動していた。抜け出したかった。このメビウスの輪から。

「いらっしゃい、××ちゃん」

ビクリと身体を震わせ、ごしごしと目尻を擦る。

「しんら!おじゃましてます!」
「君の保護者は一体何をしてるんだい?いつまでも此処に居る訳にはいかないだろう?」
「そうですね。まんがきっさにでもいこうかとおもってます」
「漫画喫茶はあまりお勧めしないね。君はお金もあることだし、ビジネスホテルにでも行った方がいいんじゃないかな。場所によっては温泉もあるよ」
「ビジネスホテルですか…かんがえておきます」

ジェンガを片付けて、ソファに腰掛ける。

『珈琲でいいか?ブラックの』
「おかまいなく」

向かい側の椅子に腰掛ける新羅に××が話を切り出す。

「じゃましてわるいわね」
「本当だよ!僕らの愛の巣に土足で踏みにじるような行動―――いたたた痛い痛いよセルティ!ボディはやめよう!?」
『まったく』

珈琲を煎れに行くセルティに苦笑して、

「××、セルティの顔を立てて1泊はさせてあげるけど明日からはホテルに泊まるんだよ?あ、変なホテルじゃなくてビジネスホテルね。××のことは子供のように思ってるから、特にセルティが」
「ありがとうございます」
「しかしまあ、臨也がね…遂にやっちゃったか、って感じだよ。犯罪同然のことは今までやってきてるけど、こうも露骨になるとは」
「やっぱりそういうにんしきなんですね」

小さく笑って、でも…と続ける。

「やさしくしてくれました。あいをかんじたっていうか」
「はっ、優しく、か。臨也に聞かせてやりたいね!それで、××ちゃんは明日からどうするつもりだい?」
「しずおさんにたよってみようかと。なにかアドバイスをくれるかもしれません」
「君の人脈は臨也によって把握されているから、あまりそちらに頼らない方がいいと思うけどね。あとは話す程度なら来良の生徒とか」
「! それはいいかんがえですね!」

再び会ってみようか。あの2人に。
もう1人にも会ってみたいな。

『杏里ちゃん達に会うのかい?』
「セルティ、コーヒーありがとね」
『ああ。それで?』
「あいにいきます。きちんとおはなししたいから」
『××、気分転換にチャットしないか?』
「あっ、まって!セルティ、しんら、これやりたい!」

そう言って指差したのは先程いじっていたジェンガだった。

『あんなのでいいのか?ゲームなら今、魔界で聖剣師と闘うRPGモノがあるぞ』
「セルティと一緒に聖剣師を倒してやってよ。今まで惨敗なんだ」
『し、新羅!!』

そのやりとりに××はくすりと笑って、

「いいですよ」
『ほ、本当か!ありがとう××!やった、これでセーブ後のバトル地獄から抜け出せる!』

物凄く喜ぶセルティに××はくすくすと笑いっ放しだった。



翌日、そう言って私は出てきたのだ


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