××はホテルの一室にて休んでいた。日頃の疲れをとる為にシャワーを浴びたばかりだ。

「ふう…」

小さく息を吐いて身嗜みを整える。
髪の水分をタオルで抜きながら携帯の電源を入れた。

「うわ…」

そこに映し出された、折原臨也の文字。

着信
折原臨也
折原臨也
折原臨也
折原臨也
折原臨也
折原臨也
折原臨也
……

ちょっと連絡するくらい大丈夫よね。
発信ボタンを押そうとした時、電話が掛かってきて慌てて発信ボタンを押した。

「も、もしもし」
『やっと出てくれた。今何処に居るの?』
「おしえません」
『ふうん。GPSで居場所特定されても良いんだ?』
「……いけぶくろえきのちかくにあるビジネスホテルです」
『何でそんなところに…。まあいいや。迎えに行ってあげるよ』
「けっこうです」
『反抗的だね。もしかしてセックスしたのが恥ずかしくなった?』
「………」
『あれ?図星?ふうん』
「おりはらさんはそのデリカシーのなさをなおしたほうがいいですよ」
『はは。善処するよ』

左手に携帯を持ち変えて、それで、と続ける。

「ほんとうにくるんですか?わたし、まんがきっさでほんをよみたいんですけど」
『その余裕はどこから来るのやら。迎えに行くからホテルのロビーで待ってて。大体15分くらいかな』
「わかりました」

ピッと通話を切る。どうやら逃亡2日目にして早くも捕まるらしい。

「はあ…またせいかつぎゃくもどりだわ」

静雄さんにむしょうに会いたい。
追い掛け回してくれないだろうか。
…電話してみようかな。
携帯に手を掛けて、電話帳から静雄を探す。

RRRR…

RRRR…

『××か』
「こんにちは、しずおさん。いまおしごとですか?」
『いや、休憩中だ。どうした?』
「ん…なんとなくこえがききたくなって」
『なんだそりゃ。そうだ、お前、私生活の方は大丈夫か?ノミ蟲の野郎に何もされてねえだろうな』
「…すこしてをだされたくらいです。ぜっさんいえでちゅうです」
『ノミ蟲潰す』

潰す潰す、と電話口で唱えながら何かをへし折る音が聞こえた。

『迎えに行くか?』
「いえ、だいじょうぶです。もうすこしでおりはらさんがむかえにくるので」
『これ以上何かされそうになったら大声あげるんだぞ。お前、ジム通ってたよな?何の為だと思ってるんだ』
「わかってます。おもいっきりけります」

何処を、とは言わないが伝わったようで、よし、と頷いた様子が浮かぶ。

「では、また」
『おう』

無機質な機械音が響く。
携帯を閉じて荷物をキャリーバッグに詰め込んで、ロビーへと向かう。
温泉、入っておけば良かったかな、なんて思いながら。






「お待たせ」

颯爽とタクシーからおりてきた臨也に、ぺこりとお辞儀をする。

「荷物これで全部?」
「はい」
「後ろ乗って」

荷物を持ってくれるという細かな気遣いを受け、後部座席に乗り込んだ。

「さっき乗ったマンションの近くのデパートまで」
「マンションじゃなくて良いんですね?分かりました」

そう言ってタクシーは出発する。
何故、デパート?と首を傾げていると臨也はそっと手を重ねてきた。鼓動が速くなる。

「事務所の珈琲が切れちゃってね。今晩のご飯は××ちゃんの好きな鍋だよ」
「わあい…」

正直、素直に喜べなかった。何故なら、昨晩新羅の所に泊まった時も鍋だったのだから。

「あっ…らいらがくえん、いくのわすれてた…!」

当初の予定を思い出して愕然とする××。

「帝人くんに会いに行くのかい?」
「はい…」
「明日で良いじゃない」
「そうですね。そうします」

程なくしてデパートに辿り着いた2人はタクシーからおりて、臨也はお金を払う。

「珈琲と野菜を買おう。他に欲しい物あるかい?」
「いえ、ありません」
「じゃあ早速」

ガラゴロと押していたキャリーバッグを臨也が受け取り、押す。

「おりはらさん、かばんくらいじぶんでおしますよ」
「××ちゃん、野菜持ってくれる?」
「えっ、いいですけど」
「重い方を持つのは男の義務だよ」
「そうですかー…」

そう言ってぽいぽいとカゴに野菜を入れていく。××はそのカートを押す。

「××ちゃん、白菜取って」
「はい」

綺麗そうな白菜をカゴに入れて、あとは何がありますか?と訊ねる。

「大体は入れたかな。××ちゃん、お菓子は?」
「じゃあチョコレートをひとつ」
「これでいい?」

板チョコを持ってきた臨也に頷く。

「レジ行くよ」
「せかせかいかずにまってくださいよぉ」






「××ちゃん、おいで」

夜、鍋も食べ終え、ゆっくり休憩していた時、臨也に呼ばれた。こてん、と首を傾げて傍に近寄る。ぎゅっと抱きしめられ、あわあわと慌てる。

「嫌だったら嫌って言ってね」
「はあ」

撫でられ、その心地好さに目を細める。悪い気分ではなかった。温かく優しいその腕に抱かれ、臨也に凭れ掛かる。

「何で逃げたの?」
「はずかしかったから」
「俺は寂しかったよ」
「すみません…」
「もう逃げないでね」
「おりはらさんしだいです」
「××ちゃんお風呂上がりだから良い匂いがする」

すんすんと鼻をひくつかせる臨也。
何だか変態くさいその行動に××は乾いた笑みを浮かべた。

「明日居なくなってたら流石に許さないからね」
「わたしはここにいます」
「絶対だよ」
「はい」

ごろん、とキングサイズのベッドに2人で寝転がると、スプリングが軋んだ。

「お休み、××ちゃん」
「おやすみなさい、おりはらさん」

次第に睡魔が襲い掛かり、××は眠りに誘われた。



さようなら抜け出した日々


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