やっぱり無理」

ハロウィーン。
それは毎年10月31日、あの世に行ったゴ−ストがこの世に帰ってくる日のこと。
この世にとどまっているゴーストだけではなく、全てのゴーストが10月31日のハロウィーンにこの世にやってくると言われている。
生者は現世に出向いたゴーストをもてなすために、豪華な飾り付けやごちそうを用意する。
それから、おそろしげなゴーストやモンスターに仮装することも大切である。
イタズラ好きのゴーストは、たいてい菓子を供えてやれば退散する。
しかし中には手に負えない悪さをする悪霊が紛れている場合もある。
なので、目には目を、歯には歯を、ゴーストにはゴーストを。
仮装は悪霊を逆に怖がらせて追い払う魔除けの意味を持つ装束でもある―――…というのは大昔の話で、現在は楽しいからコスプレをしているだけらしい。
これがリリア先輩から聞いた、ハロウィーンのお話。






食堂から何とか抜け出したボクは、ユウくんと共にのんびりと学園内を散策していた。
誰かとエンカウントして泣き出すといけないので付き添いとして来てくれたのである。

「コスプレか…」

一時期やってたなぁ。
もうデータも消したし、やる事もないと思っていたけれど。
どうにかこのイベントを回避することは出来ないものか…。

「ガクさんは…何か仮装をするんですか?」
「ひえっ…か、仮装…ですか…」

不意打ちで話しかけるのやめてほしい…!
ボクは言い淀みながら声を絞り出す。

「出来れば…何もしたくないなぁ」
「…それは無理かと」
「デスヨネ…」

そもそもクオリティの高い衣装なんて用意できるのか?
服飾専門の人が居るなら別だけど、ボクはそんな細かい作業なんて出来ないし。
……いや、前言撤回。
此処の人たちは何が何でも全力で楽しむ奴らばかりなんだった。
ということは衣装も問題ないだろう。

「そうだな…吸血鬼とか…?地味ハロウィンっていうものが地元では流行ってたりしますけど…」
「地味、なんですか?」
「仮装する対象が…地味って意味ですね」

納得したのか頷くユウくん。

「検索すればすぐに……あ!!ボクのスマホが!!!」

常にといって良い程、普段から触れていた物が無いことに今更ながら気付いたボクは悲鳴をあげた。

「あの、これですか…?」
「そう!それです!!一体何処に…?」
「廊下に落ちていました」
「そ、そうですか…ありがとうございます…」

ユウくんから受け取ったスマホをじろじろと見つめる。
画面は割れてないし、パッと見は無事のようで。
しかし、問題は中身である。

「何も壊れていませんように…!!」

電源ボタンを長押ししてスマホを起動させる。
暫く待つと、ゲームを起動していないのにも関わらず、ログイン時のBGMが脳内に流れた。

「……は?うそ、え?バグった…?」

そして『ツイステッドワンダーランド』というタイトルコールが脳内で響き渡る。



……どういうことなんです?



ボクがスマホから顔を上げると、そこには青色背景に白文字で統一された電子データが空中に表示されていた。

うわーーー!!
これ近未来SF系アニメでよく見るやつだーー!!!

「ゆ、ユウくん…これ、見えてる?音楽なにか聴こえてる?」
「空中には何もありません…音楽も特には…」

不思議そうに首を傾げるユウくん。
ギギギ、と鈍い動きで顔を戻して正面の青い電子データを見た。

いやいやいや…嘘でしょ。
こんなの本当にただのSFじゃん。
ファンタジー要素はこの世界に来たってことだけでもう充分なのに!

「あの、えーっと…ちょっと忘れもの思い出したから…寮に戻るね!ユウくん、付き添ってくれてありがとう!」
「はい。あっ…道、そっちではなく…反対ですよ」
「おっと…」

方向音痴がバレてしまった。
改めて深くお辞儀をして、ボクはオンボロ寮に向かって駆け出した。






オンボロ寮まで走り、ボクは廊下の壁に凭れてずるずるとその場に座り込んだ。

「もう勘弁してよぉ…」

誰に言うわけでもなく、独り言を呟く。
顔を上げれば先程と同じ青色の電子データが視界に広がっていた。
この現象の考えられる原因を探り、すぐに察した。

「もしかして、これ…トリップ特典?い、いらね〜〜!」

…とはいえ、何か重要な事柄が載っているかもしれない、とデータに目を通す。
手を伸ばし空中に表示されているメニューをタップすれば、きちんとメニューのツリーが表示された。

「触れるのか…外でやったらただの不審者だな…」

小さく唸りながら、文字を読んでいく。

「えっと、なになに?”Login bonus for today's life.”……今日の分の人生のログインボーナス?…マジで?生きてるだけでログボ貰えんの?そりゃあ一度は考えたことありますけど…えぇぇ……」

実際、この身に起きてみると戸惑うぞ、これ。
しかしこの状況で何が貰えるっていうんだ…?

「えーっと、受け取りは…これか。”Please chant when you receive it.”ってことは…詠唱すればいいのかな…」

こほん、とひとつ咳払いをして「Receive!」と単語を口にする。
すると眼前に光が広がり、ボクはその眩しさに瞼をぎゅっと瞑った。

「……、…?」

おずおずと目を開けて周りの様子を確認する。

「何も変わってない…ログボは?ま、まさか…手の込んだドッキリ…?」

何だか先程の事が急に恥ずかしくなってきて、耳まで真っ赤になったボクはまるで茹でダコのようだった。

「はぁ…、はっず。何でボクも疑わずにやっちゃったのか…後悔しかない。誰も居なくて良かっ……」

手で自身をぱたぱたと扇いで熱を冷まそうと風を送っていると、視界の端に何かが見えてボクの言葉は途中で途切れた。

「あの、ええと…何も見てないんで。どうぞ続けて下さいッス…」

何かの資料を抱えたまま視線を逸らしているラギー・ブッチがそこに居た。
ボクは乾いた笑みを浮かべながら、二重の意味で涙を溢れさせてぽろぽろと涙を流して泣いた。




Title:鬼と佐保姫



「やっぱり無理」

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