しい呼び名

ボロボロと涙を流すボクにラギー先輩はハイエナの耳と尾をぴこぴこ動かして慌てふためく。

「なんで泣いてっ、えっ!?」
「すびばせん…勝手に涙が出るんです…」
「よく分からないけど、ハンカチどうぞッス」
「う゛う…ありがとです…」

ぐずぐずと泣きながらハンカチを受け取って、涙を拭う。

そろそろ目元が真っ赤になりそうだ。

ビスケットブラウンの癖毛を揺らして、心配そうに顔を覗き込んでくるラギー先輩。
ブルーグレーの垂れ目がボクのことをじっと見つめる。

これだから、ラギー・かわいい・ブッチ先輩は…!
くそかわなんだよ…!!
萌えて床をゴロゴロ転がる事をぐっと堪えたボクを誰か褒めてほしい。

「見ない顔だけど…何処の寮生ッスか?」
「………此処です」
「え?噂の二人目!?」

噂ってなんだよ。
そういうものは大抵、悪い噂って相場が決まってるんだ。
期待しない方が身の為だ、とボクは「はぁ…」と気の抜けた返事をした。

「初めまして!オレ、サバナクロー寮生二年 ラギー・ブッチ!会えて嬉しいッス!」

光属性特有の眩しさに目を細めて、握手を交わす。

「どうも…ガクです」
「ガク…じゃあガッくんッスね!」
「…ガッくん……?」

瞬時につけられたこの世界での二つ目のあだ名に目を見開き驚く。

「あれ?嫌ッスか…?」
「い…嫌じゃ、ないけど…」
「けど?」
「…う、うれしい…です」
「やった!じゃあガッくん!よろしくッス!」

握手をしたままの片手をぶんぶんと振って喜ぶラギー先輩。
申し訳なさにすんすんと鼻を啜って何とか涙を止める。
ラギー先輩なら、慣れたら泣かなくなる…かも知れない。
まだ分からないけど…、そうじゃないとボクの涙が枯れてしまう!

「ラギー先輩、その書類…何処まで持っていくんですか…?」
「この先にある角の倉庫代わりになってる部屋ッス」
「そんな部屋があるんですね…」

流石、名前がオンボロ寮なだけあるなぁ、と納得する。

「この後うちの寮、見学しに来る?」

……なんで?

「えっと、それは良いんですけど…多分、また泣いちゃうと思います…」
「バスタオルなら何枚でも貸してあげるッスよ」

そうじゃない。
いや、有難いけど。

「じゃ、じゃあ…お言葉に甘えて…お邪魔します?」
「みんなきっと大歓迎ッスよ〜」

るんるんなラギー先輩に、ボクはまた涙が溢れて流れてしまう。

「え?ま、また…!?」
「すみません…すぐ止まると思うので…」

やばい。
優しくされるとすぐ泣いてしまう体質になっている気がする。
ボクに優しくしちゃダメです、懐いてしまうので。
チョロさには定評のあるボクです。

「ああ、もう…服まで濡れてるじゃないッスか〜…着替えは?」
「へ、部屋に…あります…学園長さんが新品をボクに回してくれました…」
「学園長が?」
「…? はい」
「へぇ…」

これは学園長さんの株を若干上げたのでは?とボクの中のセンサーが反応した。
今度、何か買ってもらおう。

ボクの部屋の前に辿り着き、それぞれ別行動に移る。

「じゃあ…着替えてきます」
「オレは書類を置いたら戻ってくるッス!」
「すみません、ハンカチ洗濯して返します…!本当、すぐ戻りますので…!」
「気にしなくていいッスよ。ごゆっくり〜」

部屋に入り扉を閉め、殺風景で白い室内を眺めて思い切りベッドにダイブした。

「うう〜…おうちかえりたいぃぃ…」

あんなにも嫌で嫌で逃げたかったいつもの日常が、恋しくて恋しくて堪らない。
いわゆる、ホームシックになっていた。
駄々っ子のようにいやいやと足をバタバタと動かす。

「はぁ〜〜〜…着替えるかぁ…」

学園長から貰った服にもそもそと着替えて、着ていた服と借りたハンカチを洗濯かごに入れる。
全身鏡の前で変なところは無いだろうかと念入りにチェックし、待たせてはいけないと替えのハンカチを持って部屋を出た。

「あれ、早かったッス……ね…?」

ラギー先輩の語尾に疑問符がついたのは、恐らくボクが着ている服の所為だろう。

「どうですか…?お気に入りの…シリーズなんですけど…」
「シシシッ、いいんじゃないッスか?どーん!ばばーん!って感じで」

オタクに優しい表現をありがとうございます。

「それに今日が何曜日か分かりやすくて良いッスよ」

そう。
ボクが今着ている服は、文字が入った一般的にいう”おもしろTシャツ”に分類されるもので。
どどーん、と大きく縦に筆文字で「火曜日」と書かれている。

「こういうの好きなんです…えへへ…」
「自己紹介して回るよりある意味分かりやすくていいんじゃないッスかね」
「そうですかね…?」

分かりやすいならいいか。
めんどくさいの嫌だし。

「じゃあ、えっと…案内お願いしても…?」
「勿論!着いて来るッスよ〜!」

上機嫌なラギー先輩の隣を歩くボクは、サバナクロー寮でボロボロに泣く決心をする。
そしてラギー先輩に遅れをとらぬよう歩くも、この人歩くの速いな!?と、人生で初めて己の足の短さを呪ったのだった。



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