おかしなお菓子
ラギー先輩とジャックさんはそれぞれ用があるらしく、その場で解散となった。
いいのか?この方向音痴のボクを放っておいて。
どうなっても知らないぞ。
……学園の地図とかないのかな。
周りに誰も居ないことを確認して廊下の端で、一度閉じた青い電子データを展開させる。
「結局、ボクのログボは何処に…」
画面をタップして操作するもやはり受け取り箱はひとつしか見つからなくて。
深い溜息を吐いて壁に凭れると、ゴリッと何かが当たる音と硬い感触が。
「ごり…?」
尻のポケットに手を伸ばしその何かを手に取る。
「これは…グルーヴィーキャンディー?」
見覚えのあるそれはゲーム内で必須とも言えるキャンディーだった。
これボクが食べても問題ない感じですかね?
今、甘いものが食べたくて!
「いっただっきまーす!」
恐らく問題ないだろうと判断し、ぺりぺりと透明な包装紙を剥いでライオンの形をした飴を舐める。
うん、至って普通の甘い飴だ。
「ふむふむ、これがログボなら推しのグルーヴィーキャンディーも当然あるわけですよね?もしやランダム?トレーディングには慣れてるので問題ないんですけど…」
ガリガリと飴に歯を立てて削るように噛んでいく。
飴は舐めるものだとよく言われるけど、口内に異物があることを良しとしない人間なので我慢出来ないんです。
「ん?」
視線を感じて顔を上げると、廊下の端にレオナ先輩が突っ立っていた。
「あれ?レオナ先輩サボッてたんじゃ…」
相手に聞こえないよう小声で呟き、ぼんやりと眺めていればずんずんと近付いて来るレオナ先輩。
え、なに、こわっ…えっえっ!?
威圧感半端ない!!
傍まで寄って来てボクを睨むように見るレオナ先輩。
「ひぇ…な、なんでしょ……」
「―――か」
「……え?」
「高いところは好きかって聞いたんだ」
「…ええと、はい。木登りが得意なので…」
実はアクティブなオタクなんです。
木登り限定で。
「着いてこい」
「ひゃい!」
言われるがままにその後を静かに着いて歩く。
ひぇぇ…こわい…。
ボク、なにした?
なにもしてないよね?
はっ…!もしやこのまま学園外に追放…!?
やだよ、やだやだ!
追放されたらモブですらいられないじゃん!
この後の出来事を想像して震え、内心 半泣きのまま前進すればレオナ先輩の背にぶつかってしまった。
「登れ」
「……はい?」
レオナ先輩が指差す方を見れば、そこには立派な大樹があった。
「ほぁ…すごい…おっきいですねぇ…」
「早くしろ」
「せ、急かさないでくださいよ…!」
幹の小さな穴に爪先を掛けて枝をよじ登り、何とか上まで登ることに成功する。
「はぁ…もう無茶振りばっかで、………ッ!」
顔を上げて、息を飲む。
そこに広がるは夕日に照らされた学園が一望できた。
風に揺れる草木、照らされ出来た静やかな影、夕方の眩しさ。
香るはずのないカレーの匂いがした気がして、急にあの頃が懐かしくなった。
ああ、なんて綺麗なんだろう。
「特等席だ」
「…いいんですか?ボクなんかに教えちゃって」
「さあな」
隣に登ってきたレオナ先輩は目を細めて素っ気なく呟く。
レオナ先輩って不思議な人だなぁ。
機嫌が良くなってゆらゆらと身体を揺らす。
そして、案の定。
「うわ、ッ…!?」
ずるりと大樹から滑り落ちる。
けれど、思っていたより身体への痛みがなかった。
「いてて…あれ?」
何だか背中に温もりを感じる…。
「重い。退け」
「!? ひぇええっ!すみませんすみません!」
どうやらレオナ先輩を下敷きにしていたらしい。
慌てて身体の上からおりて何度もぺこぺこと土下座する。
ボクなんかの価値の無いような土下座ですみません!
ごんごんと地に額をぶつけて、ふと思う。
レオナ先輩なら軽々と受け身を取れると思うんだけどなぁ。
まるでボクを守ろうとしているみたいだった。
もしかして。
グルーヴィーキャンディーの作用…?
「……まさか、ね」
それはない、と一蹴し、気の所為だろうと自己完結させた。