新しい住人

その日は桑島さんが一人で町に行っていたので、残された私と獪岳さんは日が落ちてくると一緒に夕飯の仕込みを始めていた。

あまりお喋りが好きではなさそうな獪岳さんに合わせて私も黙々と作業をしていたけど、この静かな空間は意外にも居心地悪くはない。
大根を切る時のまな板を叩く包丁だったり、お米を炊いている釜から吹き出す煙なんかの小さな音だけが台所内で響いていた。

「−二人ともここに居ったか」

突然、台所に響く張りのある声に私も獪岳さんも誰が訪れたのか分かって「おかえりなさい」を言う為に振り返った。私達の目線の先には声の主である桑島さんと、その後ろで身を小さくさせている見慣れない一人の男の子がいた。
見知らぬ少年を連れている桑島さんに、私達は驚きと戸惑いで言葉も出ず唖然と二人を見ることしか出来ないでいると、気にした様子もなく桑島さんは言葉を続ける。

「今日からこやつもこの屋敷で生活する。皐月、急ですまんがこやつの分の夕餉も頼む」
「は、はい。かしこまりました」
「これ、お主も自分の名くらい自分で言わんか!」
「うぇっ!?…あ、あ我妻…善逸、です…」

桑島さんに背を押され前に立たされた少年は、おどおどとした様子で視線を彷徨わせながら小さく名乗った。

「明日から善逸も稽古に参加させる。獪岳、兄弟子として色々面倒を見てやってくれ」
「はい、先生」

それから桑島さんは土埃で汚れている我妻君と言った少年を連れて浴室へ向かい、台所を後にして行った。

二人の姿が台所から見えなくなるまで私達は、なんとなくその場から動かなかった。
姿が見えなくなった後はお互い話すこともなく夕食の支度に戻ったけど、私は自分の作業をやりながら新しい住人となる先程の男の子のことが気になっていた。

「−…ぃ、−−ぉいっ!」
「っ!!どうしたんですか、獪岳さん?」
「…どうしたはテメェの方だろ」

そう言って獪岳さんは吹きこぼれる味噌汁の鍋を火から下ろす。どうやら私がぼんやりしている間に味噌汁が沸騰してしまっていたみたい。獪岳さんは呆れた目で私を見たけどそれ以上何かを言う訳でもなく、やりかけだったお夕飯の支度へと静かに戻った。

私は正直、桑島さんが先程連れてきた男の子のことが何故かとても気になって仕方なかったが、また上の空で獪岳さんに迷惑をかけることになるのは嫌だったのでその後のお夕飯の支度は集中して行った。


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WギャアァァァアーーーっW


「…また我妻くんが悲鳴あげてる」

我妻くんが来てから早二週間。
彼が稽古に参加するようになってから毎日劈くような悲鳴がお屋敷中に響き渡っていた。最初はとてもびっくりして怪我でもしたのかと様子を見に行ったりしていたけれど、四日も続けば不思議と慣れてくるもので今では気にせずに過ごせている。

二週間一緒に生活して気付いたことは、我妻善逸という少年はとても怖がりさんだということ。

お稽古中はよく彼の悲鳴や叫び声が聞こえてくるし、泣き叫びながら桑島さんから逃げている場面を見ることはもはや日常茶飯事でもある。こんな調子で彼は鬼狩りになれるのだろうか?と初めは思っていたぐらいに我妻くんはとても臆病だった。

そんな彼はお稽古が終わると決まって泣きながら私の所へとやってくる『皐月ちゃぁ〜〜〜んっ!』ほら、今日も来た。

「皐月ちゃぁ〜ん、今日も疲れたよぉ〜…!」
「お疲れ様、我妻くん」

全身ボロボロな様子で訪れた我妻くんは今日も今日とて涙を流しながら洗濯物を干す私のところへと来た。

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