新しい住人
その日は桑島さんが一人で町に行っていたので、残された私と獪岳さんは日が落ちてくると一緒に夕飯の仕込みを始めていた。
あまりお喋りが好きではなさそうな獪岳さんに合わせて私も黙々と作業をしていたけど、この静かな空間は意外にも居心地悪くはない。
大根を切る時のまな板を叩く包丁だったり、お米を炊いている釜から吹き出す煙なんかの小さな音だけが台所内で響いていた。
「−二人ともここに居ったか」
突然、台所に響く張りのある声に私も獪岳さんも誰が訪れたのか分かって「おかえりなさい」を言う為に振り返った。私達の目線の先には声の主である桑島さんと、その後ろで身を小さくさせている見慣れない一人の男の子がいた。
見知らぬ少年を連れている桑島さんに、私達は驚きと戸惑いで言葉も出ず唖然と二人を見ることしか出来ないでいると、気にした様子もなく桑島さんは言葉を続ける。
「今日からこやつもこの屋敷で生活する。皐月、急ですまんがこやつの分の夕餉も頼む」
「は、はい。かしこまりました」
「これ、お主も自分の名くらい自分で言わんか!」
「うぇっ!?…あ、あ我妻…善逸、です…」
桑島さんに背を押され前に立たされた少年は、おどおどとした様子で視線を彷徨わせながら小さく名乗った。
「明日から善逸も稽古に参加させる。獪岳、兄弟子として色々面倒を見てやってくれ」
「はい、先生」
それから桑島さんは土埃で汚れている我妻君と言った少年を連れて浴室へ向かい、台所を後にして行った。
二人の姿が台所から見えなくなるまで私達は、なんとなくその場から動かなかった。
姿が見えなくなった後はお互い話すこともなく夕食の支度に戻ったけど、私は自分の作業をやりながら新しい住人となる先程の男の子のことが気になっていた。
「−…ぃ、−−ぉいっ!」
「っ!!どうしたんですか、獪岳さん?」
「…どうしたはテメェの方だろ」
そう言って獪岳さんは吹きこぼれる味噌汁の鍋を火から下ろす。