秋の思い出

「皐月、大丈夫か?」
「あ、はい。私はなんとも……あ!獪岳さんがあの人に殴られて怪我をっ…!」
「これくらい何ともねーよ」
「良くないです!」

桑島さんに声をかけられて答えてる途中で、獪岳さんが商家の彼に殴られていたことを思い出した。
獪岳さんは平気だと言うけれど、唇の端が切れて血が滲んでいる。

「…ふむ。皐月、獪岳の手当てをしてあげなさい」
「なっ!?先生!この程度、俺はなんともー…っ!」
「今はなんて事なくてもじゃ、獪岳」
「っ―――!」

師である桑島さんに言われてしまえば言い返すことも出来ないのか、獪岳さんは不満な表情で押し黙る。
私は桑島さんに言われた通りに獪岳さんの傷を手当する為、獪岳さんを連れてお屋敷に戻った。

「つぅっ―…!」
「あ、…ごめんなさい。沁みましたか?」
「っべつに…、いいからさっさとしろ」
「あ、はい」

出来るだけ沁みないように消毒綿を当てたつもりだったけれど沁みてしまったらしい、獪岳さんは一瞬ではあったけど顔を顰めた。それを見て咄嗟に謝罪の言葉を言い消毒綿を持つ腕を引く。
だけど、獪岳さんはすぐにいつものしかめっ面へと戻り手当ての催促してきたので、私はまた消毒綿を獪岳さんの口の端に優しく押し当てた。

獪岳さんの傷の手当てをしながら、先程の事を思い返す。

「…あの、獪岳さん」
「……ンだよ」
「さっきは、庇ってくれてありがとうございます」
「…―!」

商家の彼が怒って私に腕を振り上げた時、獪岳さんは私のこと身を挺して守ってくれようとした。
直後に桑島さんが現れて、商家の彼が破門になったりと色々あってちゃんとお礼が言えてなかったので、今更だとは思うけれど私は獪岳さんに感謝の言葉を伝えた。
すると獪岳さんは舌打ちをして「…もうあんな真似すんじゃねぇ」と言い私から顔を背けた。

獪岳さんの不器用な優しさに、胸が温かくなる思いを感じて笑みがこぼれる。
ほらやっぱり、獪岳さんはとっても優しい人だ。



▲▲▲



商家の彼が破門となった件の日以降、桑島さんの厳しい修行に根を上げたお弟子さんが一人、また一人とお屋敷を去って行ってしまった。

今日もまた一人、まとめた荷物を持ってお屋敷の門をくぐり離れていく背中を、切ない気持ちで見送る。

ついにこのお屋敷には桑島さんと私、獪岳さんの三人だけになってしまった。

とうとう今しがた去っていった彼の背中が見えなくなって、止まっていた門前の掃除を再開する。

うだるような暑さだった夏もやっと過ぎ去り、過ごしやすい秋口の涼しい気温となった今、青々としていた葉が赤や黄に染まって辺りに散らばっていた。
箒でそれらをかき集めるとそこそこな大きさの落葉の山が出来上がる。

「………焼き芋食べたいな」

落ち葉の山を見て、ふと思ったことが口からこぼれる。

白雪家に居た時はこの時期になると、枯葉や落葉を集めて落葉焚きをして芋を焼いていた。
程よく火の通ったさつまいもはとっても甘くて、哉雅さんと乙羽さんと三人で食べたあの秋の日の温かな思い出が蘇る。

思い出にふけていると後ろから土を踏む音がして振り返って見ると、そこには獪岳さんがいた。

「あ、獪岳さん!今からお出かけですか?」
「ああ」
「でしたら、お昼は外で食べてきますか?」
「…いや、昼までには戻る」
「了解です!気をつけて行ってきてくださいね」
「…………」

午前の修行を終えたらしい様子の獪岳さんは外行きの着物に着替えていて、今日はこれから出かけてくるみたい。
外に出るなら昼食は食べてくるのかと思って聞いてみたら、お昼までには帰ってこれるそうなので、お昼ご飯はいつも通り三人分用意しよう。

しっかり者の獪岳さんだから大丈夫だとは思っているけど、一応、気をつけての一言をつけて送り出しの言葉を伝えた。
だけど、獪岳さんは何の返事もせずただ黙って私を見てくる。
なんだろう?何か変なこと言っちゃったかな?

「獪岳さん?どうかしましたか?」
「………なんでもねぇ、行ってくる」
「?はい、行ってらっしゃい」

獪岳さんの気に障ることを言ってしまったのかと思ったけど、何もなかったかのように獪岳さんは門を潜って出かけて行ってしまった。
なんだったんだろう?ヘンな獪岳さん。



ーーーー



門前の掃き掃除の後はお屋敷内の掃除をしていたら、あっという間にお昼前頃になっていた。

台所で昼食の支度を進めていたら丁度ご飯が炊き上がったくらいの時間に、出かけていた獪岳さんが先程言った通りお昼前に帰ってきた。

「獪岳さん!おかえりなさい。」
「……ん。」
「なんですか?」
「…やる」
「??」

帰ってきて早々、獪岳さんは手に持っていた包みを押し付けるように私に差し出してきた。獪岳さんにお使いを頼んだ覚えがなかったので、包みの中身には全く見当がつかないけれどとりあえず受け取ってみる。

「わ、さつまいもだ!」
「……食いたかったんだろ」
「ほぇ!?もしかして今朝の独り言を聞いて、わざわざ買ってきてくれたんですか?」
「…いらねぇなら返せ」
「いる!いります!!」

包みの中はさつまいもが入っていた。
今朝、何気なく独りごちた言葉がすぐに叶うと思わず驚いていると、いらないと思われたのか獪岳さんに取り返されそうになったので急いで胸に抱き抱える。

「おやつに三人で食べましょうね」
「…好きにしろ」


その日食べた焼き芋の味は、白雪家で食べた焼き芋と同じで温かくとても甘く感じた。

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