個性をそこまで使うことなく、運の味方もあって何とか第2種目までは勝ち残った。ようやく昼休憩となり、周りを見渡す余裕も出てきた。
さすがに12万人まで収容可能という専用の会場は圧巻だった。至る所でプロヒーローも見かけたし、今年は例年の5倍の人員を確保して警備に臨むというのは本当だったらしい。出久くんと思う轟くんとのちょっとしたゴタゴタを目撃してしまい、食堂へ行く時間がなさそうだったので売店で焼きそばとたこ焼きを買って観覧席に向かうとチアガールに扮したクラスメイトたちが目に入った。

「どうしたのその服」
「チアリーディングをするようにと上鳴さんと峰田さんが相澤先生から言われたそうですの。苗字さんの分も用意してありますわ」

わたしの問いかけには八百万さんが答えてくれた。彼女の言葉に従って、受け取った衣装に着替え、買ってきたばかりでまだ温かいたこ焼きを頬張る。

「第3種目、緊張しますわね」
「名前ちゃん、ちゃっかり残ったね。やると思ってたよー!」

両サイドから同時に聞こえてきた言葉は、頬に手を当て、対策を考えているような八百万さんとポンポンを振り回しながら明るく言う透ちゃんとのもの。2人にそれぞれ返事をしながら、レクリエーションの借り物競走へ目をやる。ちょうどお題が発表されてすぐのようだ。

「あ、あの子に騎馬戦でハチマキ取られたんだよね。悔しいなあ」
「物間くんか。あの個性、びっくりしたね」
「ていうか名前ちゃんが騎馬戦で最強すぎてわたしは心が折れそうになったよ」
「確かに。轟さんは初めから苗字さんには近付くなと仰っていましたわ」

B組の拳藤さんの大きな拳に掴まれた物間くんを見ながら透ちゃんが苦々しげに呟いた。中盤はかなり注目を浴びていたけれど結局は爆豪くんによってはちまきを奪い取られていた物間くん。爆豪くんの個性をコピーしてすぐにわたしの元へも一度やってきたけれど、個性の相性が悪いと他の人のところへ行ってしまった。

「でも、わたし騎馬戦で何にもしてないんだよね。次で何とか挽回しないと」
「まあ、みんな名前ちゃんには近づけないから他でやり合ってたもんね」
「それだけ圧倒的な力をお持ちなのですわ。正直、わたしも苗字さんの攻略法が思い付きませんもの」
「…ありがとう八百万さん」

そう、せっかく第3種目出場まで取り付けたのにわたしは全然活躍していないのだ。第1種目では先頭集団を走り、地雷原でみんながスピードダウンしたところで上位3人に追いつき、そのまま4位でゴールした。地雷を踏み抜いたところで常に個性が発動しているから物理的なダメージはないし、大きな音も特に不快というわけではなかった。それにあの時は自分の前の3人を追い抜こうと必死だったし。
問題は次だ。自分の個性のこともあって誰と組むかを迷っているうちに仲の良い子たちはチームを決めてしまっていた。幸いにも話しかけてきてくれた普通科の女の子と2人でチームを組むことにはなったけれど、第2種目では透ちゃんに言われた通り、わたしの個性を知っているA組の生徒は最初からわたしとの戦いは避けていたし、みんなの目的は1000万ポイントを持った出久くんに集中していた。B組の子たちもわたしと少しやり合ったら他でポイントを稼いだ方が効率的だと言って相手はしてくれなかったし、普通科の心操くんも話しかけにはきたものの、わたしの返事に首を傾げ、特に何もせず去って行ってしまった。
わたしも出久くんの1000万ポイントを取りたい気持ちはあったが、対人で個性を使うことがこわくて尻込みしていたのだ。近くへ行ったはいいが、それ以上が出来ず結局は時間切れになり、自分のポイントを取られなかったからこそ5位に入賞。そのまま第3種目出場が決まってしまったのだ。正直なところ、見せ場らしい見せ場は作れなかった。
結果発表後、心操くんとチームを組んでいた尾白くんと庄田くんはそれぞれ棄権し、そのタイミングでわたしとチームを組んでいた普通科の霧ヶ峰さんも「これ以上体力が持ちません」とあっさりリタイアしてしまった。

「それにしても名前ちゃんと組んでた子、何の個性だったの?」
「霧散だって。だからわたしの個性のことを聞いても組んでくれたの」
「霧散?消え去るんですの?」
「ダメージ受けたら身体が霧になるんだって。それで、時間が経つと元どおり。だけど攻めの手段がないし、霧になっちゃうと騎馬としても役に立てないからってチーム組む人がいなかったんだって」

あまりにあっけない幕引きだった。ミッドナイトからの説得や第1種目で敗退となった生徒たちからのブーイングを受けながらも個性を使ってその場から消えてしまった彼女を思い、苦笑する。でも霧ヶ峰さんがいてくれてよかった。まさかこんなに残ることになるなんて思わなかった。改めてトーナメント表を見て小さく唸る。

「それにしても…なんでわたしがシード権…?」

第1戦の最終対決である麗日、爆豪と並んだ文字の横にある苗字という名前に深く溜息を吐いた。どちらと当たっても嫌だなあ。