あの事件の翌日、新聞ではエンデヴァーさんの功績が称えられていた。ヒーロー殺し逮捕、エンデヴァーお見事、という華やかなタイトルに反してエンデヴァーさんはあまり嬉しそうではなかった。あえて聞かなかったからわたしも何も知らないけれど、ただ一つわかることはエンデヴァーさんが現場に駆けつけたときすでにヒーロー殺しには闘う力など残っていなかったということ。

「なんか、わたしだけなのに職場体験続けていただいてありがとうございます」
「何を言っている。苗字くんのためにやっているわけではない。俺のすることは変わらない」

エンデヴァーさんはダンベルを持つわたしを横目で見て口ひげを触りながら、そう言った。そう、本当に何も変わっていない。町へ出ることもあるけれど、ここ数日は大きな事故や事件もなくほとんどの時間を事務所のサイドキックの方たちとのトレーニングに充てている。トレーニングといっても個性を使うわけではなく、主に体力増強。マシンを使った筋トレや、対人での組手など。これに関してはエンデヴァーさんの意向ではなく相澤先生からの指示だと聞いた。もしわたしの個性が暴走した場合、エンデヴァーさんやサイドキックの方がダメージを負うことはなくても、建物や一般人を巻き込む可能性が捨てきれないかららしい。前科がある身としては何も言えないし、もともと基礎がまだ出来ていない自覚もあるのでトレーニング自体は非常に有意義な時間だ。それに身体を動かしていれば無駄なことを考えずにすむ。
ここ最近、毎日のように聞く言葉がある。『英雄回帰』というヒーロー殺しステインの思想だ。
――ヒーローとは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなくてはならない。現代のヒーローとは英雄を騙るニセモノ。
週刊誌が取り上げ、夕方のニュースでも放映された。そして必ず最後には歯を出して笑うオールマイトの姿も映る。インターネットではステインが自らの口でその思想を語っている動画がアップされては消され、の繰り返し。あの場にいて動画を撮ることができるなんて、ある意味すごいと思う。わたしたちの守るべき一般人なんて所詮その程度なのか。

「エンデヴァーさん、ヒーローって何なんでしょう」
「…君が目指しているものではないのか」

どきり、とした。わたしは何と言ってほしかったのだろう。

「明日には焦凍も戻る。今日はここまでにして、少し考えるといい」