暫くして、帝江が立ち上がった。


「うお!いきなり動くようになったな」


 歩き出そうとする帝江に、迷ったギンコは…


「あー…ま、食後の運動といきますか」


 立ち上がり、帝江の後をついて出口へ向かう。
 帝江は夜空を見上げている。その後ろに立ち、帝江が見る景色を同じように見上げてみる。


「おまえは空が好きだな」


 帝江は暇さえあれば空を見上げているような気がする。
 ギンコは首を捻った。


「ずーっと見上げて、首痛くならねぇか?」


 夜の森にホゥホゥと梟の鳴き声が響く。
 あの山のヌシは元気にやっているだろうか。
 屋根の下に戻り、水を飲む。


「今日も野宿か…」


 ぽつりと呟くと、帝江が振り返った。


「…の……」


──ポタッ


 口と水筒の隙間から水が零れた。慌てて口許を拭い、向き直る。


「い、今……【野宿】って言ったか?」
「の…じゅ、く…?」


 ギンコの言葉を反復させた帝江。




















 焚火の中に枝を放り込んでから、ギンコは碧の瞳で帝江を見る。
 まさか、帝江の第一声が【野宿】になろうとは。
 ギンコの背は暗い影を背負っていた。


「あー、今日はここで野宿にするか」
「人里もないな、野宿か…」
「森が広くてかなわんね、今日も野宿か」



(…俺のせいか……!)


 野宿野宿言い過ぎた。


「…帝江は野宿、嫌か?」


 真っ先に覚えたもんだから少々不安になって聞いてみる。
 が、また反応しなくなった。
 帝江にとりあえず、明日の野宿の心配はいらない事は伝えた。


「ま…、明日は漁村につくからな」


 頭をくしゃりと撫でたところで、地面から二人を包む淡い光りに気づいた二人。帝江は今度はジッと地面を見つめた。


(あぁ、光酒を見てるのか)


 ここは光脈筋にあたる。どうやら帝江にもギンコと同じように蟲や大地の下、底深くに輝く命の大河が見えているらしい。
 一緒に旅する帝江が自分と同じ世界を見ている事を嬉しく思う。
 しかしあまり長く光酒に魅入られてはいけない。


「帝江、それはあまり見るな。…帝江が見るのは上な」


 ギンコが空を指差したので、帝江も星空を見上げた。
 今日はよく星が見える。月の無い夜だ。


「…そっちの光りならいくら見てもかまわんよ」


 ぽん、と背中を軽く叩いて促せば、帝江は立ち上がり、森の遥か彼方、頭上に瞬く星の林の下に歩き出した。
 濃藍の空一面に浮かぶ、光りの洪水。
 その空を見上げる、帝江の長い灰色の髪がさらさらと風に靡く。
 澄んだ灰色の瞳が星空を映している。


(やっぱり…)


 その様子を、綺麗だな…と思いながら頬杖をついてぼんやりと帝江を見つめた。


「帝江」


 外套を脱いで被る。


「俺は寝るから…あんま…遠く行くなよ…?」


 自分は眠いので早々に目を閉じるが、帝江はギンコの隣でいつまでも、いつまでも星月夜の夜空を見つめていた。