しどろもどろ


出航01


「ほら#name1#!こっちこっち!」
「マキノさん…っ、やっぱり私、山に戻ります…っ」


 頭に被った帽子を押さえながら言う。


「ここまで来て何言ってるの!#name1#さんだってルフィの見送りしたいんでしょう?」
「それは、そうですけど…」


 マキノさんが迎えに来てくれて、追い返すことなんてできずに一緒に山を降りてきたけれど、港が近づいてきてやっぱり引き返したくなってきた私の手をマキノさんが引っぱってずるずると連れて行かれる。


「あ、#name1#ちょっと待ってて」
「はい…」


 マキノさんが入って行ったのは酒場。久しぶりに見た。基本フーシャ村には来ないから…。
 辺りを見回すけれど、人気は無い。帽子の位置をなんとなく直す。
 色は黒のニット帽であるが、薄い生地で風通しもよく、今の季節でも使える。
 ただ……兎の耳が垂れるように布が伸びている。


「ほらこれ!」


 出てきたマキノさんが大きな袋を持っていて、差し出されたので受け取る。


「食料ですか…?」
「そう、これを乗せたら出航って言ってたから、ルフィに渡してあげて?」
「ぇ、うぅ…」
「さ、急いで急いでー」


 マキノさんに背を押されて、腕に抱いた食料を落とさないように抱きしめて歩き出す。マキノさんの笑顔には弱いんだ、昔っから。
 でも、やっぱり港には人がたくさんいて、尻込みしてしまう。……ええい、ここまで来たらちゃんとお見送りして、それから山に逃げ帰ろう。


「ルフィさん…!」
「ん?おおっ、#name1#!」
「はい、マキノさんから。食料だそうですよ」


 小舟で胡座をかいていたルフィさんに食料を手渡す。
 彼はずっと笑顔だ。


「元気でやれよ!」
「大物になって来い!」
「頑張れよ!」


 口々にルフィさんへと激励の言葉を投げる皆も笑顔だし、私も笑って見送らないと。
 そう思い、口を開く。


「る、ルフィさ……」
「#name1#」


 言葉を遮られ、きょとんとルフィさんを見つめる。


「またな」


 何時もの様に、ニッと笑った。
 【また】と言われて、自分の顔が緩むのがわかった。


「はいっ、また…!」


 そう言って、小舟から離れる。
 じんわりと目頭が熱くなり、何かが込み上げて来るがそれを無理矢理押し留めた。


「んじゃ、行って来る!」
「…いってらっしゃい」


 手を振って、離れて行く小舟を見送る。
 やっぱり、寂しい。ぎゅっと強張る顔を、まだ笑顔で留めなければと思っていた時、


「#name1#」
「、何ですか…?マキノさ、」


 マキノさんに呼ばれて振り返る。


「元気でね」
「へ…?」


 ふりかえりざまに抱き締められ、間抜けな声が出る。
 え、何、元気でねって。
 不意に、お腹に何か回った。何か、というか、もう見なくてもそれがなんだかわかるくらい、何度もその感触を味わった気がするのだけど。
 でも、まさかと思って顔を後ろに向けた。
 後ろから…伸びて、私のお腹にぐるぐると……。
 私の後ろは海だ。


「…!?」


 遅れて、あ!?と思った時には、ぐん、後ろに引かれて目の前にいたマキノさんが、村の皆が、離れて行く。
 だが、実際に離れて行っているのは私だ。


「ルフィ!#name1#を宜しくね!」
「ちゃんと護れよー!」


 マキノさんを筆頭に、皆が叫ぶ。
 驚愕に目を見開いた時、背中に衝撃が。


「任せろ!!」


 鼓膜を震わす大声。
 それは、頭上からした。


「…………」


 状況整理が出来なくて、開いた口が塞がらない。
 躰に幾重も回る腕は、私を抱き締めるルフィさんの腕。


「…?……ルフィさん……?」


 疑問符ばかりが浮かんで、名前を呼んで振り返る。


「しっしっし!」


 見上げた先にある顔は笑顔で。
 私は疑問符を浮かべていた顔を引っ込めて、ルフィさんの拘束から逃れて船の縁に立とうとした。


「あっ!お前何してんだ馬鹿!」
「島に戻ります…!見送りはさっきしたでしょう、離して、くだ、さい…!」
「嫌だ!」


 ルフィさんの腕を外そうと掴んだり、船の縁を掴んで躰を引き寄せようとしてみたけれど、ルフィさんの腕は伸びるばかりで外れない。


「#name1#!一緒に海賊やろう!」


 あぁ…小さい頃は【一緒に海賊をやろう】という台詞を何度も聞いた。けれど成長と共に減っていき、最近ではまったく聞かなくなった。
 大きくなってそんなこと忘れてしまったのだろうと思っていたのだけど。小さい頃に言ってたことなんてそんなものだ。そう思っていたのに。
 縁から手が外れると、またルフィさんの胸に私の背中がぶつかった。
 でもだからって諦めたら後々面倒なことになる。それはだめだ。


「わ、私なんかが行っても足手纏いにしかならないって何度も言いましたよね…!」
「だから俺が護るって何度も言った…!」
「思い切り足手纏いじゃないですか…!嫌ですよ私は…!行きません…!」
「俺がお前といたいんだ!」
「私だって一緒にいたいですけど……それとこれとは別の話で…ルフィさん後ろ…!」


 ルフィさんを見ていると、背後の海が膨れ上がった。波が荒くなって、小舟が揺れる。


「#name1#、俺に掴まってろ!」
「…っえ、ぁ」


 咄嗟に言われた通りルフィさんの腰にしがみつく。


「出たな近海の主!」
「っ…」


 そして海から現れたのは、大きな鰐のような顔をしたウツボ。ただ、大きさがおかしい。
 ギョロリとした目を見て、声も出ない。


「10年鍛えた俺の技を見ろ!」


 「ゴムゴムの」という言葉でルフィさんの右腕が後ろへ引かれる。
 伸びた!知っているが、どうしても反応してしまう。


「ピストル!!」


 目をぎゅっと瞑りそうになるのを我慢して、薄目でウツボを見る。右ストレートを食らったウツボは、吹っ飛んだ。
 大きな音と盛大な水飛沫を上げて海へと沈んでいく。私は水飛沫を受けながら船に手を付いて項垂れた。


「どうした?」
「落ち込んでいるんです…出航していきなりこんな…」


 あれを倒したルフィさんを見て、感じたのは安堵ではなく、先行きの不安。


「そんな落ち込むなよ。倒したじゃんか」
「私は吃驚して声も出ませんでしたよ…」
「#name1#つえーじゃんか。大丈夫だって」


 項垂れる私の前にしゃがみ込んだルフィさんが顔を覗き込んでくる。


「…海賊になるには、覚悟が必要でしょう…?私には、その覚悟が足りないんです……ともあれルフィさん…びしょ濡れですよ……帰りませんか…?」
「帰らねぇよ!」


 水を滴らせながらいいツッコミを入れるルフィさん。
 海賊になる覚悟がないのも本当。だけど…ここで見送る勇気もない。
 私は結局、遠くなっていくフーシャ村を見送ることにした。


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