しどろもどろ


02


「はーー、今日もいい天気だねーっ」
「そうですね…」


 流されるままルフィさんと海に出て数日。比較的穏やかな海で、意外とのんびり航海をして……ないな。初日から巨大魚に襲われたり、食糧も尽きてるし、毎日大変だった。


「こんなに気持ちいい日なのになァ、この船旅はひとまず遭難って事になるな!!」
「そうですね…」
「まさかこんな大渦にのまれるとは。迂闊だった」
「そう…ですね…」


 ──ゴオオオォォォオオオ


 大渦が、私達の船を巻き込みつつあった。








































 大渦にのまれる直前、いつの間にか樽の中にいたルフィさんに腕を掴まれて、一緒に樽の中に。
 そして今はたぶん海の上。
 大きな魚に丸[D:21534]みされたりしないかと不安が募るが、とりあえず暗闇の中、ずっと触れている他人の熱が冷えていないことをずっと確かめている。だからルフィさんと握りあった手が少し力んでしまうのは許してほしい。








































 それから暫くして、どうやらルフィさんは眠ってしまった様子で、今度はその寝相の悪さで樽を破壊しないかと不安になっていた。


 ──ゴンッ


 何かにぶつかる音がした。そして何かに吊り上げられるような感覚。人の声。
 どこかの船にでも拾われたらしい。
 ルフィさんの寝息がまだ聞こえる。手は握ったままだったから、それを少し引っ張ってみる。けれど起きてはくれず、樽の動きがまた変わった。人の声がさっきより近いし、足音もするから、直接どこかに運ばれてるみたいだ。
 どこかに運び込まれて、開けるかどうかと聞こえてくる。どうしようと思っていると、ルフィさんが突然立ち上がった。


「あ――っ!!よく寝た――っ!」


 バキィッ!頭から樽を壊し、大きく伸びをする。
 いきなり明るくなった視界に、目を細くした。眩しい…。


「何とか助かったみたいだなァ。目ェ回って死ぬかと思ったよ!いやぁ助かった助かった!なっ、#name1#!」
「は、はい…」


 そこで私とルフィさんは目前の人達に目線を向ける。


「誰だ?お前ら」
「「「てめェらが誰だ!」」」
「すみません…っ」


 三人が思いっきり突っ込んだ後、すぐに、


「さぼってんじゃないよ」


 ──ビュッ──ドゴォン!!


 その言葉と共に、金棒がもの凄い勢いで飛んできた。


「うわっ、おうっ」
「……っ……」


 そして私とルフィさんは樽ごと吹っ飛ばされて船から落ちてしまった。幸い、また海に落ちる事は回避できたけれど、あちこち躰を打って、痛みを感じながらも樽から這い出ると、一人の男の子がいる事に気付いた。


「あ、あの、大丈夫ですか?怪我はありませんか?」
「え、あ、はい。大丈夫、です」
「そ、そうですか…随分吹き飛ばされちゃいましたけど」


 ええ、実はあちこち痛いです。また痣できそう。


「はははは!大丈夫。なんか吃驚したけどな。俺はルフィ、此処何処だ?」
「この海岸は、海賊【金棒のアルビダ】様の休息地です。僕はその海賊船の雑用係、コビーといいます」


 へぇ、と頷いてから、自分も名乗らなければと思い出す。


「わ、私は、#name1#と申します」
「小船とかねェかな。俺達の奴、渦巻に呑まれちゃって」
「渦巻に遭ったんですか!?」
「あー、あれは吃驚したよ、まじで」
「のまれる直前まで笑ってましたよね、ルフィさん」


 驚いていたのか。わかりにくいにも程がある。


「普通死ぬんですけどね…こ…小船ならない事もないですが…」


 そう言ってコビーさんが見せてくれたのは…


「何だこりゃ。棺桶か?」


 棺桶って、ルフィさん…。


「一応、船です。僕が造った…」


 それはちょっと乗るのが不安になるチグハグでボロボロの小舟。2年かけて造り上げたらしい。何でも、2年前に釣りに行こうとして間違えて海賊船に乗り込んでしまったそうだ。それから今まで、殺さない代わりに航海士兼雑用として働けと言われた通りにしていたなんて、可哀想に。小船は、逃げ出したくて造ったらしいが、そんな勇気ないからどうせ一生雑用として生きていくんだなんて言い始めた。


「お前ドジで馬鹿だなー」
「ちょ、」
「そんな、身もふたもない…」
「嫌なら逃げればいいじゃん」
「ム、ムリですよ。ムリムリ、もしアルビダ様に見つかったらって考えると足が竦んで…怖くてとても…!」
「なんだその上根性無しか。俺お前嫌いだなー」


 ケラケラと笑うルフィさん。


「え…えへ、えへへへ……」


 コビーさんショックで涙してますよ。
 私はコビーさんの気持ちわかる気がするな。


「でも…その通りです…ぼくにも樽で海を漂流するくらいの度胸があれば…」


 それは度胸とかじゃなくて無謀じゃないのかな。さっきコビーさんが言った通り、普通死ぬから。


「あの、ルフィさんたちはそこまでして海に出て、何をするんですか?」


 その質問に、ルフィさんは歯を剥き出しにして嬉しそうに笑う。


「俺はさ、海賊王になるんだ!」


 ルフィさんの夢は変わらない。


「え……、か!か!海賊王っていうのはこの世の全てを手に入れた者の称号ですよ!つまり富と名声と力の【ひとつなぎの大秘宝】……あの、【ワンピース】を目指すって事ですよ!?死にますよ!?」


 「世界中の海賊がその宝を狙っているんです」とコビーさんは叫ぶ。「俺も狙う」とルフィさんは主張する。


「ム…ムリです!絶対無理!!ムリムリムリ無理に決まってますよ!海賊王なんてこの大海賊時代の頂点に立つなんて出来る訳ないですよ!無理無理っ!」


 ゴン!と良い音と共にコビーさんは倒れた。


「る、ルフィさん…っ」
「痛いっ!!ど…どうして殴るんですか!!」
「なんとなくだ!!」
「ルフィさん…!すみません、大丈夫ですか…?コビーさん…」


 ルフィさんの名前を叱るように呼んだ後、コビーさんに近寄って殴られた額を見る。ああ、コブができてるじゃないか。


「え、あ、はい!あの、慣れてるので……えへへへ……」


 慣れてるって……そんな無理矢理浮かべた笑顔で言わないで下さい。眉が下がる。


「俺は死んでも良いんだ!」
「え?」
「俺がなるって決めたんだから。その為に戦って死ぬんなら、別に良い」


 力強く、ルフィさんが言い放つ。


「それに俺はやれそうな気がするんだけどなー、やっぱ難しいのかなー」
「難しいのは当たり前でしょう…」


 少し息を呑んだのに、今度は息を吐いた。


「……僕にも…やれるでしょうか…」


 コビーさんを見ると、泣いていた。


「し…死ぬ気なら…ぼくでも…海軍に入れるでしょうか…!」


 海軍…?


「ルフィさんや#name1#さんとは敵ですけど!海軍に入って偉くなって、悪い奴を取り締まるのが小さい頃からの僕の夢なんです!」


 「やれるでしょうか!?」と噛み付く様にルフィさんに聞くコビーさん。この際私が海賊に見られているという事は置いといて、このまま雑用で一生を終えるぐらいなら海軍に入る為に命を賭けて逃げ出すと言う。


「そしてアルビダ様…アルビダだって捕まえてやるんです!!」


 そう意気込んで言った時、傍にあったコビーさんの小舟が粉砕された。


「誰を捕まえるって!?コビー!」
「うわぁ!!」


 あ、さっきの女の人?


「このアタシから逃げられると思ってんのかい!?そいつらかい、お前の雇った賞金稼ぎってのは……。ロロノア・ゾロじゃなさそうだねェ。最期に聞いてやろうか……この海で一番美しいものは何だい…?コビー!」
「え…えへへ。そ、それは勿論……」
「誰だ、この厳ついオバサン」
「!」


 アルビダという女の人を指差して、失礼な事を言う。終いにはコビーさんまで、この海で一番厳ついクソババアだとか言っていた。確実に怒った女の人。そりゃあそうだ。いくらなんでも女性になんてこと。


「よく言った。さがってなコビー!#name1#!」


 コビーさんを後ろへ突き飛ばしたルフィさんは、私を背中へと移動させる。向かって来た女の人は、大きな金棒を振り下ろして来た。ゴン!と凄い音がして、ルフィさんの頭に金棒が叩き付けられる。


「ッ、…!」


 その光景に、大丈夫だとわかっていても顔を顰めてしまう。


「効かないねえっ!ゴムだから」


 笑ったルフィさん。


「ゴムゴムのピストル!」


 ルフィさんが女の人の顔を殴り飛ばした。
 女性の顔になんてことを!?


「…!!手が…手がのびたぞ!!」
「お頭!!アルビダ様が負けた!!化け物だ!!」


 女の人が負けた事で慌てる一味達に、ルフィさんは指を差す。


「コビーに一隻小船をやれ!こいつは海軍に入るんだ!黙って行かせろ」


 その言葉に、冷や汗を流しながら頷く一味の人達。
 これから敵になろうとしている相手のためにそんなことが言えてしまうルフィさん。


「しっしっしっ!」
「…ルフィさん…」


 コビーさんはまた涙を流していた。



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