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3人目の両親
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自分の前を歩く、その人の背中に錯覚しそうに
なりながらも妃奈希は後を追う。
「あのっ!」
意を決した妃奈希は、思いきって声をかけた。
「ん?」
彼が振り向く。
その顔を見て一瞬顔を歪めた妃奈希は、
カーディガンの裾をぎゅっと握って俯いた。
「あの…おはよう、ございます」
「うん、おはよう。妃奈希」
妃奈希は弾かれたように顔を上げた。
「私、蓮水妃奈希です。始めまし、て…」
緊張からか声を詰まらせてしまった妃奈希。
そんな妃奈希に、彼は笑いかけてと言った。
「初めましてじゃないよ」
「え…?」
そしてふんわりと笑うと再び歩きだす。
二人は裏庭の一画にある小さな温室の中で
足を止めた。
「これって、イングリッシュ・ガーデン…?」
目の前にある薔薇の花に手を伸ばし、
妃奈希はぽつり、と呟いた。
それは、ネイサン・フォレスト・ガーデンにある薔薇。
妃奈希が最も慣れ親しんだ薔薇の名前だ。
「そう。それはキミのいたコートにある薔薇を
株分けしてもらったものなんだよ」
「株分け…?」
「うん。キミに会ったその日にね、
記念にもらったんだ」
妃奈希には会った記憶などない。
しかし目の前にいるこの人が嘘をついているとも
思えないし、それにこれは確かに自分のコートに
あったイングリッシュ・ガーデンだ。
「改めて自己紹介しようか。僕は水沢修吾。
キミのお父さん、景吾(ケイゴ)の弟だ」
そう言って修吾は右手を差し出す。
(みずさわ…しゅうご…。お父さんの…弟…)
妃奈希はゆっくりとその手を握り返した。
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