それは誰の謀でもなく、言葉にすれば縁と呼ぶしかない、つまり本当に他に言葉を選びようもないほどに運命的な、ただの偶然だった。
一週間の日程を終えたWC、3位決定戦と決勝を終えた4人ばかりか既に敗退し出番を終えていた2人までもが揃って、よりにもよって初日に集い合ったその場所で顔を合わせたのだから、顎が落ちても仕方がない。
「皆さんも迷子ですか」
表情を選び兼ねていつも通り、淡々とした口調で声を発すると、安定のムードメイカーが「黒子っち、迷子っスか!」と盛大に噴き出した。
ここで皆が顔を合わせたのはほんの数日前だ。固く凍てついていた空気の氷解を感じて、少し笑う。
「お前と一緒にするな。これから合流するところなのだよ」
「はぐれたのはさつきだっつーの」
「室ちん水買いに行ったから待ってた〜」
「ちょっとウロウロして戻るとこだったっス」
ウロウロするようなコンディションではなかったはずだが……。
強がりかも知れない言葉は誰も拾い上げず、穏やかな手が労うようにその背を一つ、叩いた。
振り向いた黄瀬は何の含みも見せずご機嫌に目を細める。
「赤司っちは?」
「誠凛が会場を出たという話を聞いたから、上手くすればテツヤを捕まえられるかと思って出てきたんだ。京都に戻れば早々会うことも出来ないからな」
「そうですか。ではこれは赤司君が引き寄せた偶然なんですね、さすがです」
「相変わらず人外なのだよ」
「超能力の域だよね〜」
「つーか、ねーよ。こえーよ」
ひとしきり和やかな空気が流れて、最後に沈黙が降りた。
別に嫌な雰囲気ではない。立ち去り難いが発するべき言葉もない、そんな居心地の悪さだけが、間に横たわっていた。
そもそも明確な形で喧嘩別れをしていたわけでもなく、仲直りしようというのも違う。わだかまりは本気でぶつかり合ったコートの中に置いてきた。かと言って、全部終わったからじゃあ、と仲良しこよしを演じるような関係でもない。
誰も動こうとしない中、紫原がバッグから引っ張り出したポテトチップスを開ける音だけがガサガサと周囲に散り広がる。
後になって何度も考えた。 この時の、何が引き金であったのか。
誰がそれを、呼んだのか。
風に乗って届くその微かな雑音に、何か違う気配が混じったと感じたのはほんの一瞬だった。
次の瞬間には視覚を忘れさせるほどの衝撃を持って、頭の中に何かが叩きつけられている。
声を発することも出来ない。
音というものが暴力であることを、その日彼らは始めて知った。