繋がらない位置


【黒バス腐】繋がらない位置【黒子受け】

「青峰君と一緒に試合に出なくてもいいのなら、その話お受けします」
たかが一介の中学生が何をふざけたことを。そう一蹴されると思っていたのに。
「ふむ……その期間は三年間ですか?」
「そうなるかもしれませんし、もしかしたらすぐに一緒に出たいと、我儘を言うかもしれません」
駄目元で言った無茶な要求だったのに。
「わかりました。その条件で構いませんよ」
「……ただの我儘なのに、いいんですか?」
「ええ。君は君の才能を甘く見すぎています。何も青峰君だけに対して発揮されるものではないのだと自覚した方がいい。どれだけの戦力になるか、私は理解しているつもりです。そもそも、青峰君のあの態度を見ている限りでは試合を選り好みするのではないかと思いますので、青峰君不在の試合で君が出てくれるのであれば好都合です」
絶対に断られるだろうと思って発した要求は、黒子の予想に反してあっさりと受け入れられた。





各校から集められたスポーツ推薦で入学が確定している新一年生。その始めての顔合わせの日。
しかしそんな場面だというのに、青峰が出席する事は無く。
監督も主将も、桃井も黒子も、それに関して言えば全く驚かなかったが、もうすぐチームメイトになる人達にしてみればあまりにも不誠実で不真面目な態度に、一気に不信感が沸いたようだ。
まあ、当り前といえば当り前だが。
それでも彼は不動のエースで、その決定に反論する人間が一人もいないのだから、彼の空しさも理解できてしまう。
「なあ。青峰には君がここにおる事言うてもええんか?」
「いいですけど、言っても彼が興味を持つとは思えませんが?」
「ああ、そこは気にせんといて。ただのワシの好奇心やし」
そう言って携帯電話を取り出した彼のメールの相手はまあ、青峰なのだろう。
一体何が主将の興味をひいたのか、随分と楽しそうだ。
「え、テツくん、青峰くんに会うの?」
「まさか。逃げますよ」
「何で?」
「今僕キセキの世代から逃げ回ってるんで」
「何してんの君等」
「会いたくないんです」
「ああ、せやから一緒に試合したないって言うたんか」
「いえ違います」
「違うんかいな」
「彼と一緒に試合するのが嫌なだけです」
彼を嫌いになった訳でも、顔を見るのが嫌になった訳でもない。
ただ、彼とバスケを繋ぐものを見るのに苦痛を感じるようになってしまっただけだ。彼がどうして荒れたのか、その要因を知っているから、責めるつもりはないし、寧ろ感情的には同意すら覚える。でも、彼等と一緒に出る試合は、どうしてもつまらなくて。
バスケそのものを嫌いにはなりたくなかったから、距離を取った。

でも、同じ学校に進学する事が決まった以上、いつまでもそんな事は言ってられないこともわかっていた。





バスケ以外は気が合わないと、青峰も黒子も互いに自覚している。
でもだからといってバスケを介さなければ青峰との関係が成り立たないのかというと、そういう訳でも無い。
寧ろ、燻っている青峰の相手をできるのは黒子と桃井くらいなので、学校ではどうしても一緒にいる時間は増えた。
最初は同じ学校に進学した黒子に驚いていたが、君と一緒に試合に出るつもりはありません、と言ったら、複雑そうな顔をしながらも彼は、そうかよ、と言ってそれ以上は何も言及しなかった。
青峰とすれ違い始めた時の事は、思い出すと今でも辛い。けれど、青峰の気持ちが理解出来ないかというとそういう訳でもないので、彼を責めることもできなかった。
誰だって、競い合える相手がいなければつまらなくなってしまうだろう。ましてや試合放棄なんてされれば、モチベーションを維持する事は出来ない。当然のことだ。
だからといって今の青峰の行動が正しいのかと言えば肯定は出来ない。しかし、否定するだけの理由も無い以上は何も言う権利は無い。
だから、彼と共に試合に出る事を避けた。
やる気の無い選手と共に試合に出れば今度は黒子のモチベーションが下がるし、同時に、攻撃力の高さを踏まえれば青峰のモチベーションも下げることになる。双方共にダメージを受けるなら出ないほうが楽でいい。そんな黒子の我儘をあっさりと受け入れた監督と主将だが、チームメンバーがそれを受け入れる事は無いだろう。
そう思っていた黒子の予想は(良くも悪くも)裏切られ、青峰と黒子の同時投入は決して行わないという決定は新しいチームであっさりと受け入れられた。桐皇学園の方針は実力が全て。圧倒的な才能を持つ青峰がどれだけ態度が悪かろうと、レギュラーとして名を連ねる事についての文句が出ないのもそのためだ。黒子の才能の種類も、チームに投入した場合の戦力も入部時点で監督と主将が全員に説明し、実際に披露した為に文句が上がる事は無かった。
そう、青峰と黒子に対する不信感を一掃するために行われた一度だけ試合形式の練習(それは随分と久しぶりに青峰とのコンビネーションを意識しての試合だった)。圧倒的な実力を見せ付けた帝光中出身の二人の能力に、言葉を無くしたのは彼等を知らないチームメイト達だけではなかった。主将である今吉や監督ですら、予測以上の試合結果を絶賛した程だ。
ぴたりと止んだ不満の声。そうなると、桐皇学園という居場所は黒子にしても青峰にしても随分と居心地の良い場所だった。余計な干渉は無いし、詮索もしない(恐らく今吉がそれ等をしないよう言い包めたのだろうが)。
過干渉を嫌う青峰にはこれ以上の学校は無いだろうなと、いつにも増して過酷な練習風景を眺めながら他人事のように思う(ちなみに黒子は体力切れのため休憩中だ。そして青峰はいつもの如く練習には参加していない)。
果たしてこれが最善の選択肢なのかはわからないが、高校では、キセキの世代と呼ばれる天才五人はそれぞれ別の学校へと進学した。それはつまり公式戦では必ず相対する事を示しており、それは彼等にしてみれば最高の舞台だろう。そもそも彼等が同じチームに揃ってしまったことが異常だったのだ。好敵手足りえる五人が、たった五人しかいない同レベルの選手が、一つのチームに所属していたその事実は、寧ろ勿体無いと考えるべきで。
去年までは敗北のはの字も考える必要が無かったが、今年はそれは有り得ない。
まずは目前に控えているI.H。まず真っ先にあたるのは秀徳に進んだ緑間だ。相手が彼ともなると勝敗の予測は立たないが、そもそもその予測が立たないという事態が懐かしくてなんだかしみじみしてしまう。
「随分楽しそうじゃねぇか」
立つ気力も無かったのでぼんやりと見上げると、制服姿のままの青峰。という事は練習に出るつもりで現れた訳ではないのだろうが、はて、一体何の用なのだろうか。
「楽しいというか、楽しみというか、ですね」
「何が」
「I.Hが。だって幾ら青峰くんとはいえ、そう簡単に赤司くんに勝てるとは思ってないでしょう?他にも黄瀬くん、紫原くん、緑間くんもいますし。敵なのかと思うと、去年とは違うんだなって、改めて実感してました」
ポジションという違いはあれど、才能だけで考えれば拮抗した能力を持つ五人。
互いにある程度手の内を把握している以上、簡単には勝てないだろう。ましてや相手にはあの赤司もいる事を考えれば、勝てるかすら不明だ。
こうなってくると勝敗を別けるのはチーム全体の能力だが、それを元に考えても、無冠の五将を三人そろえている洛山はあまりにも圧倒的だ。正直攻略ポイントが行方不明だ。
「赤司達はともかく、黄瀬に負ける訳ねぇだろ」
「どうでしょうね。黄瀬くんは、馬鹿ですけど、飲み込みは早いですし、もしかしたら次に会った時は圧倒的敗退をするかもしれませんよ?青峰くん程ではないとはいえ馬鹿ですけど」
「てめぇは俺に喧嘩売ってんのか黄瀬に喧嘩売ってんのかどっちだ」
「両方に決まってるじゃないですか」
バスケに青春を賭けているとは言った所で、どう足掻いても学生の本分は勉強だ。現実逃避をしたところで、もうすぐ試験が迫っている事実からは逃げられない。
と、そこまで考えて青峰が体育館を訪れた理由を理解した。
「桃井さんなら偵察に行ってて不在ですよ」
「ちっ……使えねぇ」
「優秀で優しい幼馴染相手になんて事言うんですか。赤司くんに言いつけますよ」
「何でそこで赤司なんだよ!」
「僕が言った所で君は反省しませんし、桃井さんが言っても同じでしょうし。今吉先輩に言ってもらってもいいですけど絶対聞き流すでしょうから。でも、幾ら青峰くんとはいえ赤司くんの言葉を聞き逃すほど馬鹿ではないでしょう?流石に」
色々問題のあるだろう発言に息を呑んだのは多分チームメイト達だ。
青峰は黒子には手を上げないし、発言もある程度気をつけている様子があるが、それ以外のチームメイトには容赦は無い。黒子か桃井がいる場面ならある程度のところで彼等が止めるが、いない場面では容赦の無い性格に拍車がかかったように攻撃的だ。発言も。行動も。
「それとも緑間くんの方がいいですか?確かに距離感からしてみれば彼の方がいいんですけど、僕、緑間くん苦手なんですよね」
「俺も苦手だって知ってるだろお前」
「だからいいんじゃないですか」
「つかお前、うちにいる事あいつらに言ったのかよ」
「?言ってませんよ?聞かれてませんし」
天才から逃げ続けた半年間。その間は本当に誰にも会わなかったし、誰とも連絡を取らなかった。高校に進学してからは部活三昧で、会っている暇が無いし、そもそも今更どんな顔をして会えというのだろうか。
彼等にしてみても、理不尽な理由で避け続けた黒子のことなど見限っていてもおかしくない。紫原と緑間は早々に興味を失っていても驚かないし、黄瀬にしても逃げた人間へ好意を持ち続ける程黒子への興味は強いものではないだろう。
「…………お前も相変わらずアホだな」
「君にだけはそんな事言われる筋合い無いんですけど。というか喧嘩売ってます?買いますよ?」
「お前が俺に勝てる訳ねぇだろ」
「僕一人とは言って無いじゃないですか」
「へぇ。誰に頼るんだよ」
若干不機嫌になった青峰に、笑って、立ち上がる。そろそろ体力も回復したから練習に戻るべきだろう。いつまでも青峰がいては練習に集中できない部員も多いみたいだし。
「とりあえず赤司くんに相談から始めます」
「俺を殺す気か!つか赤司とは連絡取ってんのかよ」
「いえ。でも、赤司くんなら大よそは予測して推測して、何事も無かったかのように受け答えしてくれるでしょうから」
決して外れることの無い予測と推測。味方であり友人であった時には心強かったその要素も、今となっては脅威でしかない。
恐らく黒子が桐皇に進学したことも知っているだろう。知らなかったとしても、その可能性は視野に入れているはずだし、可能性一つでも彼の中に芽生えたなら、それは確実性を持ってして対処される。故に、赤司相手に楽観的な可能性を期待する事が無駄だ。
「楽しみですね、I.H」
「別に」





この時の黒子と青峰の会話を聞いていた監督と主将が、可能な限り黒子の存在を隠匿する方向にすると言った時は何を馬鹿なと思った。
そもそも帝光中時代から、黒子が公式戦に出る事はほぼ無かった。それは黒子の特殊な能力のためでもあるし、その必要が無かったからだ。だから、天才がいるチームにおいて必須ではない戦力が投入されないことなど当り前なのに。なのに、彼等は、寧ろジョーカーという扱いで黒子という異能を隠した。天才相手にも。
負ける事はあっても、勝ち続ける以上青峰が天才相手の試合に出ない訳が無い。
そう思って迎えた決勝戦。
海常戦で肩を痛めてのまさかの青峰不在に、思わず笑いたくなった。
よりによって。
「よりによって赤司くんと戦うことになるとは思いませんでした」
互いにスタメンでの出場。I.Hでは互いに初出場となるが、まさかそれが決勝の舞台だなんて、他校の選手たちにどんな暴言を吐かれても仕方が無いな。
「やっぱり桐皇にいたね、テツヤ」
「お見通しですか」
「そうかもしれないと思っていただけだよ。真太郎や涼太には会ったのかい?」
「いいえ」
東京、神奈川と距離の近い同中出身者の名前に、首を振る。
すると赤司は何かよくないことを考えている時の表情で、笑った。
「お前の自己評価の低さは相変わらずだな。まあ、僕としてはその方がありがたいけれど」
「?何のことですか?」
「なんでもないよ」
ほぼ一年会っていないけれど、赤司は全く変わっていなかった。スタメンでの出場ということは、黒子を評価しての事だろうと思っているから、自己評価が低いつもりは無いのだが。
失礼ではあるが(とはいえ試合開始前に自分で言っていたが)、赤司が今吉を警戒して出てくる事は無い。青峰がいれば別だが、これで黒子も不在だったのなら、彼は姿を現す事すらなかったかもしれない。
出てきたのは、黒子がいるだろう可能性と、出場するだろう可能性を確信したからだ。
それくらいには黒子は自分の能力を把握しているつもりだが、赤司は一体何をさして自己評価が低いと言うのか。相変わらず読めない微笑。敵として、相見えるのは初めてだが、相変わらずのその空気に圧倒される。
まだ試合は始まっていないのに、圧倒的なその存在感に、今吉がぼそりと呟いた。
「あれで一年とかありえんわ」
チームメイトに指示を出す姿は一年前と何も変わらない。その異常な光景に、普通なら違和感を感じるべきなのだろうが、これでもし彼以外の誰かが四番ではなかったなら黒子は多分それにこそ違和感を感じただろう。染み付いた習慣というものは本当に怖い。
「一年とか二年とか三年とか、そんな事を考えていては負けますよ」
「わかっとるわそんくらい。まあ正直出てくると思ってへんかったけど」
「え、開始前に主将自分で出てくるだろうって言ったじゃないですか」
「かもしれんって言うただけや。せやかて今まで一回も出てないんやで?今まではベンチにもおらんかったんに、まさか青峰不在のうち相手に出てくるなんて思いもせんやろ」
「決勝の大舞台で出ないってどんだけ舐めてんすかあいつ」
「でも青峰おらんうちやったら負けるやろ」
ぐっ、と返す言葉に詰まったのは若松だ。
「こんな時の黒子じゃないですか!」
「いえ、そんなつもりではなかったのですが」
黒子が、青峰と共に試合に出たくないと言ったのは決してそういう意味ではない。ただの我儘だ。
「せや。黒子がおるから出てくるんや。それを忘れるんやないで」
どういう意味だろうと悩んだのは黒子だけだったらしく、他の面々は、一瞬緊張した面持ちで、同意を示した。
解せない。