暗闇の中にぼんやりと浮かび上がるスマートフォンのライトを、布団の中で目を瞬かせた少女はぼんやりと仰ぎ見た。
わざと最終列車に乗り込み、後日来る予定だった線に間違えて乗ってしまったのだと、タクシーで街中のホテルまで行くだけの余裕はないため何とかここで休ませてほしいと嘘をついて、駅員に泣きついたのは彼女の発案だった。
駅で一晩休ませてもらってゆっくり話を聞けたらラッキー、その程度のつもりだったのに、人の良さそうな駅員が近隣の寺院に連絡を取ってくれ、一晩の宿を借りられたのはまさに僥倖としか言い様がない。
小さな部屋に男女一緒に押し込むことを、やはり人の良さそうな年配の住職は申し訳なさそうに詫びてくれたが、今の状況ではそれはむしろ好都合だ。
しかもそこは地域で一番古い寺院で、山の怒りに触れたいくつかの事故の、犠牲者達を埋葬した場所でもあった。
ここまで上手く事が運べば、誰の日頃の行いが良かったのかと勘ぐりたくもなってくる。
今の自分達は同じ学校の、地質学を学ぶ学生という設定だ。年末年始の休業を利用し、昔から大規模な山崩れを何度も起こしているこの地域の、対策や現状を見に来たと、そういうことになっていた。
途中の本屋でそれなりに見えそうな資料を買い込む彼女に、女は敵に回したくないと冗談めかして言った明るい青年は、今は布団をかぶり膝を抱えて携帯を見つめ、静かに涙を流している。
「……何かありましたか」
「んーにゃ。生きてただけ」
「生きてただけですか」
「うん。あと、夜までは猶予ありそっかな」
穏やかに答えてそのまま枕に倒れ込む彼に、つい今しがたまでいびきをかいていたはずの青年が手を差し出す。
渡されたスマフォの画面を眺めて、怪我とかしてんじゃねえよ、と不機嫌そうな声が呟いたが、すぐに突き返すと、布団を巻き込んで再び丸くなった。
「寝ろよ」
「そうよ。起きたら動き回らなきゃならないんだから。あいつらが本当に助かるかどうかは私達の肩にかかってるんだからね。移動中もソレ見続けでしょ。さっさと休みなさい」
少女の逆隣から寝ぼけた響き混じりの叱責が飛んだが、その声にもどこか安堵が滲んでいる。
疑う余裕もなくここまで来て、それでも間に合わなかったらというのが、何よりの恐怖だった。
実際のところ、画面の中の出来事は今でも半信半疑だ。それでいいのだろう。完全に信じてしまったら逆にいけないのだと思う。そういうルールが、このゲームの中には存在している。
だから、彼らは半分小説を読むような気持ちで、誰かに弄ばれているような少しの抵抗感を抱えたまま、この不可思議に踊らされている。
信じているのは画面の中の出来事じゃない。
彼らと必ずまた会えるということ、それだけだ。
「おやすみ。がんばれ」
潜り込んだ布団の中、掠れる声で呟いて。
10時間ぶりくらいにスマフォから意識を遠ざける。
眠気は待ちくたびれたように性急に、彼の思考に重い蓋を落とした。