irregular

一度閉じ、そして再び開き見たスレッドの高揚しきった流れを、高尾は呆然と目で辿った。

「何……」

 慌てて報告を書き込もうとするのに、何度やってもエラーが表示される。どうやっても、どうやっても。今、今知らせなければならないのに。

「何しようとしてんだお前……! あいつらに何見せてんだ、どこに連れてこうとしてんだよ! ありえねえだろ、黒子ここにいんだぞ!!」

 混乱で言葉もなくなっている火神の腕の中、泥にまみれ、白いジャージの至るところを血で染めて。
 固く目を閉ざした黒子は、見た目には生きているのかどうかも怪しかった。どうやったらたった1日でここまで削り取れるのかと思うほどに痩せ細り、衰弱して、昨日コートで走り回っていた姿は見る影もない。
 筋肉が付いていなければとっくに骨と皮だっただろう。適当に固定しただけの足の傷は見ても状態がわからない有様で、聞いていた足首以外にも酷い殴打痕が体中に散っていた。
 乾ききった唇に震えて定まらない手で水を含ませようとしていた火神は、唇から漏れて顎に伝った液体を泣きそうな目で追う。

 GPSで大よその居場所はわかるはずだ。
 連絡を受けたリコが周囲の大人に助けを求めてくれているはずだったが、病院につくまで黒子が生きていてくれるのか、高尾にはわからなかった。わからないと言うしかないような状態だった。
 何が消耗せずにいられる、だ。信じたのが馬鹿だった。変な場所に連れ込まれて、化物に追い回されて、何もないわけがないのだ。

 死なないでくれ、と祈る。
 大して親しいわけでもない。話だって碌にしたことがない。
 だけどそれなりに尊敬していた。友人が浅からぬ感情を向ける相手だとも知っている。地味で存在感もないくせに、本当にたくさんの人に大切に思われていることも。

「お前、何がしたいんだよ……!!」

 少女は、変わらず目の前に立っていた。先ほどよりよほど近い位置に。だけどもう、怖いと思う余裕はなかった。
 黒子だけを捕らえて。黒子だけを手放して。目的は何だ。友達に会いたいだけじゃなかったのか。
 踊らされて、幻を見せられている無様な天才達をどこに導こうと言うのか。
 黒子を庇うようにして見上げる先で、少女は首を傾げる。
 折れるようにがくりと90度以上傾いたそれに、火神がヒッと竦み上がる。
 血の色に濁った瞳がばさばさの髪の隙間から黒子を見て、彼を守るように抱きしめる火神を見て、高尾を見て。


 そして異形の少女は、その唇を、開いた。