人生は出たとこ勝負

桜咲く、いつぞや見たような澄み渡る青い空の日。黒子テツヤは新たに始まる、そう、あらゆる意味で新たに始まる高校生と言う学校生活へ一歩を踏み出す。
 真新しい、そう、あらゆる意味で真新しい制服に身を包み。立派な門から見上げた校舎は、ボロ……、いや、古めかしくも歴史の重みを感じさせる威厳ある佇まい。間違っても新設の学校には見えない。
 おかしい、なぜ自分はここにいるのか。本当なら昨年新設された私立高校に行くはずだったのに、今いるのは進学校としても有名な歴史ある公立高。なぜだ。門柱にデカデカと、達筆な筆文字で彫られているのは。

『秀徳高等学校』

 本当に、なぜ自分はここに居るのか。暫し立ち止まり、門の高校名と校舎を緩慢に見比べていた黒子。そろそろ両脇を通り過ぎて行く、キラキラと輝いた笑顔の新入生達がまばらになってきた。これは不味い。絶望に打ちひしがれるのは後にして、速やかにクラスを確認して教室へ行かねば。
 絶望、それを大げさと思うなかれ。黒子としては百歩譲って希望した私立校に落ちたとしても、この秀徳と桐皇学園には行きたくなかったのだ。切実に。まあ、どちらも元々の志望校より偏差値が高いけど。だからこそ、なぜ合格したかが分からない。
 それはともかく、なぜそこまで嫌かと言えば。会いたくない人物がそれぞれの高校に進学を決めていたからである。中学時代のカラフルな五人のチームメイト達、彼等とは絶対に同じ学校へ行くものかと硬く心に誓っていたというのに結果はコレである。
 まあ、自分の影の薄さならそうそう見つかることもないだろうと高を括り、開き直って教室へ踏み入れば。待ってましたとばかりに飛んで来た叫びに、そんな考えは一瞬で粉々に粉砕された。


「くっ! 黒子ぉおおおおお!! なぜお前が秀徳に居るのだよ!?」


 思わず黒子は目眩と共に天を仰いだ。叫んだのは、会いたくない元チームメイトその一である緑間真太郎である。わざわざ盛大な音を立てて、座っていた席から立ち上がり鬼気迫る形相で叫ぶ緑間。目立つ、異様に目立つ。初っ端からクラスメイト達に対し、妙な目立ち方をしてしまった。


「ちょっ! 緑間、いきなりどったの!?」
「煩い高尾! お前は黙っていろ」


 新たな人物がゲラゲラ笑いながら声を張り上げ、余計に喧しいことになってしまった。黒子は仕方ないので黙らせるために、緑間の元へ歩み寄る。


「静かにしてください、緑間くん」
「ぐっ!? いきなりっ、何を……っ」
「ブフォ!! 良い音したー! 緑間の脇腹に一撃入れるとはっ」
「ちょっと君も煩いです」
「ヒッ、すんません! かまえるのヤメテっ」

「く、くろ、こっ。貴様、なぜ……っ」
「色々と複雑な事情があるんです。察してください。というか、なぜボクが居ると分かったんですか?」
「どう察しろと言うのだよ! 掲示板に張り出されていたクラス編成を見れば分かるだろうがっ」
「チッ、迂闊でした。それはともかく君、頭良いんでしょう? 察してください」
「それとこれとは別なのだよ! それに、それ!!」
「それ?」
「なぜ、お前は! セーラー服を着ているのだよ!?」
「あぁ……、察してください」
「わかるかぁあああああああああああああああああ!!?!」











 そもそもの事の起こりは、中学三年の夏に遡る。全中三連覇という、黒子にとっては人生最悪だった日の翌日。酷い貧血と吐き気、そして強烈な腹の痛みが襲って来たのが始まり。昨日の今日だったから、精神的なものだろうと思ったのだが。現実は、そんな予想の遥か斜め上をぶっちぎって突き抜けるものだった。
 朝、下着に違和感を感じてトイレへ向かう。立っていられなかったので、ほぼ這いずりながらである。何とか辿り着いたそこで目にしたものは、絶対にあり得ないはずのものだった。ただでさえ貧血でフラフラな頭が真っ白になり、硬直したままソレを見つめることどれくらいだったか。ポタリと床に滴ったソレで我に帰り、黒子はパカリと大口を開けた。


「ぅえぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!? 何ですかこれわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!」


 下着を汚し、白い太股を伝い床に落ちたのは紛れもない鮮血。大混乱に陥った黒子は、更に何やら叫んでいたと思うが記憶にない。声を聞きつけた母親がすっ飛んで来たようだが、その辺りも記憶が曖昧である。
 覚えているのはアレコレ処理を済ませ、居間のソファに座りテーブル越しに両親と向かい合っているところから。


「お、おお、お母さんっ、これは、ボクは……っ」
「落ち着きなさい、テツヤさん。おめでとう、これで立派に女性になりましたね今日はお赤飯です。随分と遅くて心配しましたが、良かった良かった」
「はっ? え゛っ、何を言って、ボクは男です!!」
「何を言っているのですか。テツヤさん、貴女は元から、列記とした、正真正銘、女の子です」
「っ、はぁああああああああああああああああああああああああ!!?!」
「ちゃんと初潮が来たではありませんか、それが何よりの証拠です。というか、いくら胸がぺったんこと言っても体の作りが違うでしょうに。具体的にはイチモツが……」
「アウトぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「あら、失礼」


 今日のこの日この時この瞬間まで、黒子は自分は男と信じて疑っていなかったのである。いや、本気で。確かにナニが無いなとは思っていたが、その辺のことに興味のなかった黒子は漠然と大人になれば出てくるのだろうとか思っていた。いや、マジで。

 無知とはかくも恐ろしいものか。

 なにしろ性的な興味を持ち始める頃には、既に黒子の頭の中はバスケバスケ、バスケ一色。その手の本やら何やらには、全く興味を持つことなくここまできてしまったのである。因みに、保健体育の授業は寝ていたので覚えていない。
 更に言うならば、小学校・中学校と男として登録されていたのだから尚更だ。しかも名前はテツヤ、立派に男の名前ではないか。生まれた時から女だったと言うならば、なぜそんな名前を付けたやら。


「テツヤさん。貴女は生まれた時は未熟児で、先生にも匙を投げられそうなくらい弱い子供でした」
「……で?」
「昔からよく言うでしょう、病弱な男の子供は女の子として、女の子供は男の子として育てれば丈夫になると。ですから名前も、力強いものにしてみました」
「そんな与太話を信じないでください!!」
「与太話とはなんですか! 子を案じる母の気持ちを、藁にも縋る思いだった母の気持ちを嘲笑うつもりですか!!」
「イエ、メッソウモゴザイマセン」
「宜しい。そんな訳で、今まで貴女を男の子として育てて来たのです」
「……oh」
「しかしですね、貴女が全く、これっぽっちも、疑問に思わず今日まで来たのは流石に驚きです」
「うっ……っ」
「いくらなんでも、中学生辺りになったら気づくと思ったんですけどねぇ」
「くっ……っ」
「まあ、おもいっきり初潮が遅れていたのもあるでしょうが……、いえ、気付かなかったせいでしょうかねぇ? それも」
「ううううううううううぅ」
「でも、男子に交じってバスケットボールをするぐらい丈夫になったのです。これを期に、ぜひ女の子として生きてください」
「え゛っ!? いきなりそれは無理ですよ!! 中身は今でも男です! 体は違っても男ですーー!!」
「今年で中学も最後ですし丁度良いでしょう。これからの半年ちょっとで意識改革をしますよ」
「はいぃいいいい!?」
「だって、男の子じゃつまらないじゃないの。女の子だとお洒落のさせ甲斐があるというものです!!」
「おもいっきり私情ーー!!」
「煩いですよ。だいたい貴女だって今さら男としてなんて無理でしょう」
「うっ」
「はい、では決まりです。これから学校へ行くのもアレでしょうから、ある程度休んでて構いません。先生にはちゃんとお話しておきますからね。ただし、受験生なんですから勉強はしてもらいます」
「あう、あー、えーと、うー……、ハイ」
「では早速、母はお洋服の買い出しに行って参ります。体調が戻ったらテツヤさんも一緒に行きましょうね、下着を選びに」
「ぅえぇえええええええええええええええええええ!!?!」


 暗転。











「あの時は説明されても混乱に拍車がかかるばかりでしたよ、えぇ。淡々と語る母の横で、父が頭を抱えていたのが妙に印象に残ってます」

「……」
「ブッ、フッ……っ、っ……フヒッ、くっ……っ」


 入学式と簡単なホームルームでその日は終わり、速攻でマジバへと連れて来られた黒子。連れて来たのは勿論、緑間真太郎である。そして緑間とチームメイトであるという高尾和成も一緒。説明が面倒臭い黒子は、部活はどうしたと聞いてみたが。本日は体育館が使えないので休みと言われてしまい諦めた。
 黒子がバニラシェイクを啜り、遠い目をしながら淡々と語った内容は緑間が絶句るするには十分な破壊力。一人、笑いのツボに入った者がいたがそれはスルーしておく。
 緑間からすれば、正に青天の霹靂というやつである。今日のこの日まで、黒子を男と思って疑いもしていなかったのだから。言われてみれば、線も細いし、筋肉もつかないし、体力もない。女と言われればそうかも知れないと思えてくる。
 しかし、しかしだ。中学時代に黒子は男として男バスに所属していたのである。勿論、着替えなども同じ更衣室で行なっていた。見た目に反して中身は男前な黒子、そりゃもうおもいっきりよくすっぱりと肌を晒して着替えていたのである。緑間達の目の前で。話しが本当なら、いや、実際に女生徒として秀徳に入ったのだから事実なのだろう。

 つまり、あれだ、女の子が、自分の前で堂々と……?

 そこまで思い至って、緑間の顔が盛大に赤くなる。顔どころから耳から首から真っ赤である。それを目敏く見つけた高尾が、爆笑しながら声をかけた。


「ちょっ、緑間。ブハッ、なに想像した訳? このムッツリ!」
「な、何を言うのだよ! 別に、中学時代に一緒に着替えていたことなど、思い出していないのだよ!!」
「えっ!! それマジで!?」
「マジです。だってボク、男でしたから」
「イヤイヤイヤ、女の子だった訳だし。つーか、それで緑間達は気付かなかったんか!?」
「ぐ、気付かなかったのだよ」
「マジでぇえええええ!! 裸見たのに!?」
「大声で叫ぶな!!」
「当時はぺったんこでしたからねぇ、ボク」
「はい?」
「ぶっちゃければ胸が」
「ブフォオオオオオオオオオオオ!?」
「さらっとぶっちゃけるな、馬鹿者!!」
「初潮が来たせいか女と認識したせいか、どんどん育って今はこのとーり」
「ちょおぉおおおおおお!! 黒子ってば大胆!?」
「持ち上げるんじゃねーのだよぉおおおおおおお!?」
「あ、偽乳じゃないですよ。触ってみます?」
「ぜひ!!」
「馬鹿者ぉおおおお!! 高尾、死ねっ!!!!」
「いでっ!? 冗談、冗談だって!!」

「で、なぜお前は秀徳に来たのだよ? 噂では私立高校を狙っていると聞いたが」
「どこの噂ですか、それ」
「桃井と黄瀬なのだよ」
「あぁ、納得。確かに私立高校を狙ってましたし、そこ一本のつもりでした」
「それはまた大胆だねー、滑り止めとか考えんかったの?」
「そこ以外、行く気がなかったんですよ」
「ますます分からん。それでなぜ秀徳にいるのだよ」
「この制服を見てください」
「ん? 女子の制服は新しくなったんだよなー。妹ちゃんが可愛いって騒いでた」
「短めのセーラーに、ノビノビぴったりフィットでミニのジャンパースカート、大胆に入った両脇のスリットについたプリーツが絶妙のアクセント。少子化が進む昨今、スポーツ系の男子に人気はあるものの古い校舎とやぼったい昔のセーラーが女子に不人気だったので、女子の志願者増加を狙って新しくしたそうです」
「まったく、制服の有無で志望校を選ぶなど……」
「はい緑間、愚痴は後でね。黒子、続きどうぞ」
「この制服に母が食いついたんですよ」
「ブフォ!! つーか、え? 黒子のお袋さん、なんで秀徳の新しい制服知ってたん?」
「中学三年の大半を先程の理由で休んでいたので、母のお友達の息子さんが家庭教師をしてくれてたんです。その方が現秀徳生なんですよ」
「なるほど。んで、押し切られた訳ね」
「えぇ、受験だけはして落ちるつもりでした」
「なっ! 何をいってるのだよ!!」
「うへ、そんなに私立のとこ行きたかったんだ?」
「はい。だと言うのに、緑間くんの呪いで秀徳に合格してしまいまして。勿論、志望校にも受かりましたけど、私立と公立では……。後は察してください」
「あぁー、うん。ん? 緑間の呪い?」
「そうなんですよ、酷いです! 緑間くん!!」
「知らんのだよ!!」
「テストはマークシートだったじゃないですか。だから適当に鉛筆を転がしてただけだったんですよ、ボク」
「うはっ、マジか!?」
「む、まさか」
「そのまさかです。以前、緑間くんから貰った湯島天神のコロコロ鉛筆を転がしてました」
「え、えぇ? それ、マジで?」
「マジです。それだけで、元々の志望校より好成績で秀徳に受かるってどーいうことですかっ」
「人事を尽くした鉛筆だからな、当然なのだよ」
「ボクは人事を尽くしていません!!」
「威張って言うんじゃねーのだよ!! 他の受験生に土下座しろ!!」
「うえぇえええ、ちょっ、緑間! それオレも欲しい!!」
「高尾、貴様もうるせーのだよ! 誰がやるか!!」
「む、確かに失言でしたね。行きたかったのは秀徳じゃないんですけど、ないんですけど、反省します」
「二回繰り返したしっ、ブフォ、どんだけー!」
「緑間くんと、というか、あのカラフルな方々と同じとこには行きたくなかったので」
「な、なんだ、とっ……っ!?」
「グハッ! 緑間ってばちょー嫌われてるじゃん!!」
「黙れ高尾っ!!」
「まあ、こうなったものは仕方ありません。開き直りますよ、えぇ」
「な・げ・や・りっ、ブヒッ」


 不機嫌そうに音を立ててシェイクを啜る黒子、ショックを受けて硬直したまま動かない緑間、ひたすら笑い転げる高尾。それなりに賑わうマジバの店内で、そんな三人の姿は異様に目立っていたと言う。気付かぬのは本人達ばかりなり、であった。
 はてさて、色んな意味で将来の展望がひん曲ってしまった黒子のこれからがどうなることやら。神のみぞ知る、だろうか。


「ところでさー、テッちゃん」
「テッちゃんって、ボクですか?」
「そそ、テッちゃんさー、なんで真ちゃんのコロコロ鉛筆を使ったわけ?」
「気色の悪い呼び方をするんじゃねーのだよ!」
「それはたまたまです」
「へ?」
「無視をするな!!」
「真ちゃん、煩い」
「高尾ぉおおおおおおお!?」
「やる気なかったんで、当日の持ち物も適当だったんです。で、筆箱に入っていた鉛筆がそれだけだったので」
「ブフォオオオオオ!! なるほど」
「ふん、これも運命なのだよ」
「……嫌な運命ですね」
「ブハッ! ひでぇ!!」
「黒子ぉおおおおおおおおおお!?」










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やってしまった感が半端ないですが、一度やってみたかったんです秀徳in黒子。

なぜ黒子くんが女の子かと言えば。
そのまま入っちゃうと秀徳無双になりそうだなー、選手になれない方が良いよなー。
などと言う、妙な考えでこうなりました。
そこまで気にすることないんですよね、途中で気付きました。

これ、続きをどうしましょうかねぇ。
中途半端なネタはあるにはあるんですが……。
需要があるようなら書くにしましょうか、無い可能性の方が高い気がしますけどね(-_-;)