「お疲れ様、士郎くん」
とある倉庫の荷物の整理をしている途中に労いの言葉が士郎にかけられる。士郎は振り向かずに、「ありがとうございます」と言葉のみで礼を返す。
「そんなに根を詰めすぎると倒れちゃうよ? 休憩しない?」
「いえ、これぐらいなんともないですよ」
「なら、いいけど」
そう言って後ろにいる彼は、倉庫の中央にある巨大なテーブルと囲むように置かれたソファの一つに座る。
「士郎くんはさ、これからどうするの?」
「これから……といいますと?」
「そうだね……例えば、人理が修復された後、カルデアが解体された時とか、君はどうするんだい?」
士郎はそれを聞いて、頭を悩ませる。
今の自分はカルデアのスタッフの一員だ。同時に、異世界の住人でもある。本来ならば下の世界に戻らなくてはならないところを、世界の修正が働かない事をいいことにここの手伝いをしている。しかし、その目的が失われたら?
「そうですね……その時は、元の世界に戻る方法を探すためにここを出て行きますね」
「そして、正義の味方を目指すかい?」
「……はい」
このカルデアに存在する英霊エミヤ。己の未来の可能性にして理想の果てに抑止の守護者になった正義の味方の末路の姿。その姿が頭を過ぎる。
「例え、世界と契約することになってもかい?」
「……それは多分、俺の魔術の師匠が許さないですね」
「じゃあ、どうやって正義の味方になるんだい?」
「そうですね……きっと、あてのない道を彷徨う事になると思います。俺自身も正義の味方にどうすればなれるのかと問われると、何も答えられないです。けれど、これが俺の理想なので、いつか……叶えたいんです」
「……そうかい」
そういって、男はソファーから立ち上がる。
「あの、そういえばあなたは」
そう答えた瞬間、世界が変わった。
地獄を見た。
これから来るべき地獄を見た。かつて理想を遂げると誓った時に見た、未来の地獄を見た。
「……!?」
正義の味方。自分の理想。その果てに待っているもの。
(この理想は、間違いじゃない)
だから地獄を歩み続ける。
そう思った瞬間、再び世界は元の倉庫へと戻る。その時には士郎以外誰もいなかった。
「?」
士郎は不思議に思いながらも荷物の整理を終わらせ、部屋を出る。
部屋の名前は『ロストルーム』。
カルデアの片隅にある、忘れ去られた部屋。
「頑張りすぎないでね、士郎くん」
ふんわりとオレンジ色の髪をなびかせた白衣の男は、誰もいない部屋でそう呟いた。