# 01
日向は現在、ブラジルにてビーチの武者修行中である。
ビーチはあくまで自分の夢への第一歩。
1年間の準備期間と、2年何のビーチバレー生活の期間で次へとステップアップするつもりだ。
そして、その2年という期間ももうすぐ半分が過ぎようとしている。
ということで。
「そろそろどこのチームにするか決めねば…!」
そう決意したのだ。
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「はぁ〜どうしよっかなぁ、俺の今の立場だとそもそもトライアウトしてるチームじゃないとだし」
そう思って探すと、いくつかのチームが出てきた。
「MSBYか…確か木兎さんのところだ」
仲の良い先輩の入ったチームなどは大体知っている。
MSBYの公式サイトの選手プロフィールを確認する。
「えっ、セッターの宮さんもいるのか!片割れは…他のチームなのかな…。うわ、佐久早さんもいるし!」
そのあともトライアウトをしているチームをいくつか見たが、決まりそうもない。
実際の雰囲気を知りたい。
「…帰るか、一旦!」
一時帰国決定である。
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マスク、サングラス、帽子。
変装はバッチリだ。
なぜ変装をしているのかというと、単純に知り合いにバレたくないからだ。
いや、会いたい気持ちは満々なのだが、すぐにまたブラジルへ帰るので、今のモチベーションのままでいたいと思ったからだ。
(みんなに会うのは、あと半年後)
本日の会場は東京の、ある体育館だ。
第一試合に牛島、影山、星海のいるシュヴァイデンアドラーズと木兎、宮(侑)、佐久早のいるMSBYブラックジャッカル。第二試合もdivision1の上位のチームだ。
シュヴァイデンアドラーズ以外は全てトライアウトしているチームでもある。
今回はバレない程度に近くで見るため、少し奮発してアリーナがいいなぁとは思っていたが、完売だったので2階の自由席を取ることにした。
(入る前にチケット買うとして…、その前に腹ごしらえだ)
小腹が空いたので、外の出店をみる。
久々に日本食が食べたい。
と考えていると『おにぎり』という文字が目に入り、即決した。
人気のようで並んでいたが、もうすぐ日向の番だ。メニューを見て何にしようかなぁと考えていると、店の人から声がかかった。
「…何しとん?」
「え?」
メニューを見て悩んでいただけだが何かまずかっただろうか、と、その声の方を見ると
「えっ!?み、宮…さん!え、試合に出るのは、あれ!? ってかなんで気付いた!」
「治や。気付いたって…それ変装のつもりなんか?逆に怪しいわ」
治は相変わらずやなーと笑う。
「で、今ブラジルとちゃうん?」
「そうなんすけど…来年からまたこっちだからリーグの様子観とこうかなって」
「ほーん、熱心やねぇ」
「えへ、えへへ、そうですか?…って宮さんはバレーは…」
日向がそう切り出したところで、治は日向の後ろに並ぶ人たちをチラッとみる。
「ちょい待ち。あとこれだけ売ったら完売やねん。今日1人か?」
「うっす。誰にも言ってないんで…」
「ほな一緒にみようや。アリーナ2席なら取れるで。身内特権」
ドヤ顔で治は言い放った。
「か、神だ…!あざっす!!!」
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おにぎりはほんの数分で売り切れた。
ということで治と日向は会場内へと進む。
「で、宮さん今バレーやってないんですか?」
「おん。高校までで辞めるって決めててん。食いもん関係の仕事したくてな。てか、治でええで。おんなじ名字なんがおってややこしいやろ」
「あ、了解デス!でも、そっかぁ…リーグで戦えないのは残念ですけど、治さん夢叶えててすげーっ!」
「翔陽くんには負けるわぁ」
ははっと笑う治をみて、この人もこんな風に笑うんだなぁと日向は感動した。
入場口につくと、治が係の人に何やら話して、通される。
「MSBY側のアリーナエンド1番後ろの端っこやけど、ええ?」
「もちろんす!」
会場ではすでに第一試合のチーム、つまりシュヴァイデンアドラーズとMSBYブラックジャッカルがサーブ練習を始めている。
「うぉあ〜!懐かしいメンバーがたくさんいる…!」
「エンドやからサーブ練のときボールバンバン飛んでくるやろなぁ」
治と座席表を見ながら席を確認していると、突然大声が聞こえた。
「すません!危ねぇ!!」
その声に視線を移せば、シュヴァイデンアドラーズの選手のサーブがまぁ見事にホームランでコート外へ。しかもその先にいるのは小さな女の子。
日向は考えるよりも先に体が動いた。
「!」
その機敏な動きに治は驚く。
(はっ!高校の時も瞬発力ハンパなかったけど、さらにあげるってどゆことやねん)
一瞬の間に日向は女の子の前に行き、ボールの勢いを止めた完璧なレシーブをした。
それを見ていたシュヴァイデンアドラーズ側の選手だけでなく、ボールを追おうとしていたMSBY側の選手、そして客席の観客も日向に注目する。
明らかにしまったー!という顔をしている日向のを見て、治が「自分から目立ちに行ってるやん」と呟いた。
「きみ、大丈夫だった?」
「うん!お兄ちゃんありがとう!」
「なら良かった。ここボールたくさん飛んでくるから大人の人と一緒に通った方がいいよ」
「分かった!!」
女の子はテコテコと両親の元へ帰っていった。
「まぁ大体飛んでくるとしてもワンバンしてからだから、あんなにどストレートに飛んでくることなんかないけど…」
「悪かったな、どストレートで」
その声にギギギギと首鳴らしながら振り向く。
「…か、影山選手じゃないですかぁ〜、いやぁ君にしては珍しく?コースがずれちゃったようで?」
(俺は変装している、故に、バレない!)
「は?何言ってんだ日向ボケ」
「バレてんのかい!」
「お前、何やってんだ?ブラジルはどうした?」
「ちょっと偵察だよテイサツ!ってかお前早く戻れよ!アップの途中だろ!」
日向が影山の背中を押し、アップに戻す。
「翔陽くん、ちゅんでバレよったな」
「こんなはずでは…」
「あれ見てみ」
治に指を差された方をみると、影山がこちらに指を刺しながら牛島と星海に伝えているのがわかる。
「あいつ…!」
「あとこっちもや」
再び指を刺された方をみると、木兎が手を振り、侑がガン見している。
「…治さん、俺もうマスクとかとってもいいですかね?」
「ええよ、正味最初から意味なしてへんからな」
:
「チームなんとなく決めとるんか?」
試合を見ながら、治が話しかける。
「とりあえずトライアウトしてるとこなんですけど…MSBYが1番有力ですかね、強いし」
「正セッターが性格ポンコツやけどな」
その言葉が聞こえたのかテレパシーなのか、侑がサーブ前に治を睨む。
「はは…」
「まぁ確かに安定したチームではあるな。ベテラン勢も元日本代表おるし」
そのあとも治とボチボチ話しながら、試合はフルセット3-2でシュヴァイデンアドラーズが勝利した。
「この後の試合も見るん?」
「はい!次の2チームも候補なので!」
「ほな俺もみてこかな。その前に便所行ってくるわ」
「はーい!…トイレには気をつけてくださいね…、試合会場のトイレは曲者に出会いますよ…!」
「なに言うてんねん」
笑いながら、トイレへと向かう治。
日向は、買ったおにぎりを食べた。
「うっっっっま!なにこれ!」
久々の日本食は染みた。
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(治さん遅いな…ウンコか…?それとも曲者にあったか…)
「お待たせ翔陽くん」
「おかえりなさ、い?」
日向はじーっと治の方をみる。
「?どしたん?」
「失礼します」
そう言い、日向は治がかぶっていた帽子を取る。
その下に現れたのは治の銀髪ではなく、金髪。
「セッターのほッむぐ!」
「声でかいねん!だまれや!」
「宮さんの方が大きいです…」
現れたのは治ではなく、先ほどまで試合に出ていた、片割れの侑だった。
「なにしてんすか、セッターの宮さん」
「侑でええて。いやな、さっきのレシーブ見てビビッときてん。翔陽くん今移籍先さがしとんやろ?」
「そうですけど…」
「うちおいでや!年近いのも多いし、オールラウンダーな選手なら大歓迎やで」
「!」
まさかの所属選手直々の勧誘に驚く日向。
「おい」
そこに地を這うような声が響く。
「げ、サム…」
「お前いきなし帽子とったと思ったらなに勧誘しとんねん…さっさと行けやメンバー探しとんで」
不満げに侑は、その場を去った。「翔陽くんよく考えてな!絶対きてな!」と言い残して。
「…大丈夫か?」
「え!はい!ダイジョウブです…。ただ、選手直々に言われると思わなくて」
しかも、初対面で下手くそって真っ向から言われた相手だったから…とヘラヘラと言う日向に、治はポンポンと頭を撫でる。
「?」
「俺もあいつも…、翔陽くんのことは注目しとんで?」
「ヘァ!?」
「なんやねんその声。ほんまおもろいわぁ」
その後、2試合目を2人で観戦し、会場を出た。
「…治さん、おれ、決めました!」
「そか。来年、どこ選んでもユニ姿みんの楽しみにしとんで」
「ハイ!決まったら治さんのおにぎり食べさせてください!」
「フッフ、たらふく食べさせたるわ」
日向がどこを選んだかがわかるのは半年後。
お土産におにぎりをいくつかもらった日向は、再びブラジルへ帰るのだった。
:
おまけ1
「なんっでお前が俺を差し置いて翔陽くんと連絡先交換しとんねん!」
「別にええやろ」
「教えろや」
「嫌やわ」
おまけ2
「日向翔陽はなんで日本にいるんだ?」
「なんか偵察らしいです」
「あぁ、日本に帰ってきた時こっちのリーグに入るからか」
(((一緒のチーム…いいな)))