# 04 오이카와


及川徹はおちゃらけた言動や端正な外見のせいでどうも誤解を受けがちではあるが、その実ストイックを形にしたような子供だ。
サーブ、レシーブ、ブロック、トス。どれも練習量は他の部員よりずば抜けている自信があったし、そして、1番上手い自覚があった。北川第一という強豪校で主将を務めきった自負もある。
岩泉と共に青葉城西へ進学を果たした及川は、これからは自分達の時代だとなんの迷いもなく思っていた。……だから、それを見た時の衝撃は、ちょっと言葉では言い表せない。
それは、なんてことない日常の中唐突に現れた。
通学バスの中、いつものようにバレーに関連するネット動画を漁る。プロのスーパープレイ集、大学生の草試合、ストレッチのハウツー動画。大抵は既に見終えていて、そろそろ新しいバレー動画は出てきていないかななんてスクロールをかけて。
そしてそれを、見つけてしまった。

再生の三角形を押したのは半ば無意識だった。サムネイルの少年のオーバートスフォームが、とびきり美しかったから。そして、そのシルエットが、どう見ても年下の男の子のものだったから。
動画が始まる。柔らかな陽光のそそぐどこかの廊下の片隅。真っ白な壁面に相対し、ダダン、ダダン、と壁打ちをする明るい髪色をした幼い少年が映る。オーバー、アンダー、オーバー。背後から撮影されているため、容貌は不明だが、小柄な少年だ。小学生かもしれない。壁打ちはやがてダダダダン、ダダダダンと音を変える。壁面を2枚と、床を使った多重反射の壁打ちだ。それを右回し左回しと交互に繰り返していく。高低差も付けてバリエーションも更に増やし、回転もかけて戻りのコースをコントロールし。そしてそれらの壁打ちを、殆ど最初の位置から動かずに。

(なにこれ)

ぶつんと些か唐突に場面が切り替わる。バレーコートを9分割。ブロック分けされたそれぞれの中央にペットボトルが置かれている。続いて、先程とは別の少年の後ろ姿。壁打ちの少年よりは背が高いが、それでもまだまだ未発達な子供の体。どうやったものか、少年の背後上方にセットされたカメラは、助走をつけた少年の伸びやかなトスを映した。黒髪が宙に散らばる。ジャンプサーブは、吸い込まれるように向こうコートのエンドライン際ブロックに打ち込まれ、力強い音と共にペットボトルを薙ぎ倒す。反対側も同様に。異様な静けさを感じてしまうのは、打球音が芯に響くような轟音であるからなのと、チーム練習だったら感じる筈の人の気配、空間に誰か仲間のいる気配が微塵も感じ取れないからだ。ひたすらに、ボールの音と彼のシューズが床を擦る音しかない世界。
その後も、レシーブ、ブロック、アタックの練習が次々と映されていく。全て1人だけの練習風景だが、どれも小中学生とは思えない高度さで、まるで何かのスポーツ教材ビデオのようだ。
動画の残り時間が1分を切った時、パッと急に内容が変わった。さっきまで頑なに同じ画面に映らなかった2人の子供が、揃って同じコートの中に立っている。少々カメラが遠いのと、斜め後方からの撮影ということもあり、やはり2人の顔は見えないが、音からして相手コートにも誰かいるようであり、2on2の動画らしかった。
ブロック、スパイク、拾って、トス。立ち上がりが早い、基本がしっかりしたフォーム。子供の体躯で披露されるのに違和感を覚えるほど高レベルなプレー。積み上げた練習の大切さを背中で語っているような。相手スパイクを、まるで読んでいたかのようにコート後方で小柄な子供が綺麗に拾い、黒髪の子供がセッティングのフォームに入って、

「——え?」

ぎゅん、と、小柄な方がレフトに走り込んだ。てっきりそっちにトスがあがるものだと、なかなか無茶な速攻をするものだと、セッターである及川はなんとかそう先を読み、——そこから1秒でライトに回り込んだ彼が、大きな音を立てて相手コートにスパイクを打ち込んだのを見て、呼吸が止まった。
画面はフッと黒くなり、オススメ動画がズラッと並ぶ。再生が終わったのだ。
震える指で、動画詳細をクリックした。
動画タイトルは『1人で練習している君へ』
投稿者コメントはたった1行『1人で練習していた僕より』

「…………」

降りるべきバス停を通り過ぎてしまったことに及川は気付けなかった。
ただただ瞳孔の開いた瞳で携帯の画面を眺め続ける。
及川徹、16歳。
初めて、才能というものについて考えた。