# 02
「なんや、治。えらい怖い顔して。どないした」
人混みの先に見つけた、北さんが目を丸くして立っていた。周りに他の稲荷崎のメンバーが居ないことを聞けば、北さんは「ちょっと、手洗いに行ってきたんよ、もう少し先でみんな待っとるよ」と片手に持ったスマホを1度チェックした後、俺の先を歩き出す。
「随分、着替えに時間くったなぁ」
「…侑が翔陽くん、翔陽くんいって、なかなか着替えへんかったんです」
「な、何言うてん!!翔陽くん凄かったいいながら、俺は素早く着替えとったやないかい!」
こう、シュパッと!!とアホ丸出しな侑に俺はまた溜め息が漏れる。
「はよ着替えんと風邪ひいてまうで?試合なくても体調管理はしっかりせなあかん」と北さんの正論パンチをくらった侑はさっきとはまた違った声色でグッと唸った。
突き刺さった正論に胸元を抑える侑を見ながら、ざまぁと思うのは、しょうがない事だ。
「まぁ、翔陽くんは偉い面白い子やったな」
北さんが、周りのざわめきに掻き消されないくらいの声音でそう言った。
バッっと侑の目がキラキラし出す。
(うわ、きっしょ…)
「何しよるか分からへん、新しい物好きの侑には余計"ええもん"に見えたんやろな」
「せやねん!北さんも翔陽くん凄かったと思いますよね!?」
「おん、凄かったなぁ。ちっこいのによう飛ぶし。
ちゃんと考えながらコートに立っとる、それにまだまだ上を目指しとる、向上心の塊みたいな子やったわ」
「そやねん!!面白いくらい速いし!予想外なことばかりしよって引っ掻き回すし!」
その引っ掻き回されたのは、ついさっきの俺らやと、思いながらも治は口を噤んだ。
(なんや、北さんの言葉ひっかかるなぁ…)
まるで、コートの外で、何か会話をしたような_。
〜♪〜♪
スマホのメッセージを、告げる音が響く。
俺でも侑でもない。
ということは…。
「あ、俺や。すまん。_なんや、律儀な子やなぁ」
ポケットから出したスマホを見て、北さんがフッ、と…。
「サム…北さんが笑っとる」
「…おお、見えとる」
レアや、と呟く侑に俺も頷く。
縁起物でも見たような、そんな気分や。
ぼげーっと立ち尽くしとる俺らに北さんはなんや、2人して変な顔やぞというと、特に返信するでもなく、スマホをポケットに仕舞う。
好奇心は猫を殺すというが、北さんにそんな顔をさせるメッセージの相手が気になる。
「…返事、返さんでいいんですか??」
思わず、言ってしまった。
「ああ、ええねん、宿に帰ったら返すわ」
北さんはこっちが勝手に心配したんに、律儀な子やなぁと、また、笑う。
「だ、誰やろか、北さんが、あんな顔するんは!!」
コソッと侑が俺のジャージを掴んで耳打ちしてくる。
「知らん!自分が聞いたらええやろ!」
俺だって知りたいが、そんな勇気ないわ!
「お、皆おるな」
俺たちが最後みたいやな、という北さんはの声に釣られて前を見れば見慣れた面子が待っていた。
すっかり、会場から引き上げる準備ももう出来ている。
折りたたまれた横断幕に、薄れていた、負けた実感が少しだけ戻ってくる。
侑も同様のようで、さっきまで騒がしかったのが急に静かになった。
(煩いのも面倒臭いけど、普段からやかましいのが急に黙ると変な感じやな)
どう足掻いても、試合結果は覆らない。
俺らは敗北した。今年の春高は終いや。次に目指すのはIH。今のメンバーではない新たなチームで、また高みを目指す。
ぎゅっとポケットに突っ込んだ手を握りしめた。
アランくんがやっと、揃ったなと言うと、北さんは待たせてすまんな、と一言付け加え、、ほな、移動やと全員に聞こえるように声をかける。
ぞろぞろと動き出す集団に、周りの空気が揺れた。
「なんや、双子も一緒だったん?信介、そないトイレ混んどったんか?」
「少し、先で見つけたから一緒に来たんよ。俺も遅なって悪かったな、ちょっと烏野の10番とはなしこんでもうてな」
アランくんと北さんの話し声が聞こえる。
……烏野の10番と話し込んでいた????
「ききききき、北さん!!!10番って!!翔陽くん!!?」
「せや、日向翔陽くん。トイレで偶然、会ってな。試合とえらく雰囲気変わる子やったで、俺の顔見た瞬間にカチコチになってな、落ち着けんにちょっと話してたら遅なったわ」
北さんの言葉に侑が「俺もトイレに」と、方向転換しようとするのをジャージの首根っこを捕まえて阻止する。
行かせてや!と騒ぐが無視した。
ジタバタすればするほど、首元は閉まるが知らん。
無視や、無視。
アランくんがギョッとした顔でそれを見ている。
「お、治!侑の首締まっとるで!!」
「アランくんええんか??こいつ押えへんと、今からトイレに走ってくで?」
今からトイレに走ったところでもう居ないやろ、とはこのアホは考えとらんのか。
「話が弾んでな、連絡先交換したんや」
さっきのは、無事烏野に合流できたってメールやったわ。
そりゃ、よかったですね、と返すと、せやな、と北さん前を向いたまま答えた。
その横顔は穏やかで。
侑には次会った時、と言ったが、俺も今すぐ交換したくなった。
(明日は、チャンスあるやろか…)
あのオレンジ頭を見かけたら、絶対に連絡先を聞き出してやろうと、決めた、熱い冬が終わった日の話。
(治!!侑の首完全に閉まっとるぞ!!!)
(ま、待っ…とって…しょ、よ、く…)
(あつむーー!!!)
(なんや、賑やかやなぁ、お前ら)