いざ試験

 飯田くんとは別の組だった。少し残念だったが、同じ組になって潰し合うことになるよりは、と考え直す。

「頑張ってね!」
「ああ、そちらこそ。お互いベストを尽くそう!」

 健闘を祈り合って別れ、それぞれの試験会場へ。……会場まではまさかのバス移動だ。どんだけ広いのここ、ワクワクしてきた。我ながら気が早いとは思うけど、入学すればこの広大な施設で自分の実力を試すことができるのだ。
 そして、今日はその最初の一歩。


 試験場に到着する。眼の前に広がるのは、市街地を模した施設だ。本当に、人が居ないことを除けばありふれた町並みで、試験場ということを忘れそうになる。
 試験場内には既にロボットが配置されていた。早く始まらないかな、と考えながらその時を待つ────


『────ハイスタートー!』


 やけにサラッとした開始の合図にズッコケそうになった。
 だが合図は合図だ。迷いなく駆け出し、一番近くにいたロボットに蹴りを叩き込んだ。ゴグシャ、と音を立ててロボがひしゃげる。うーん、このロボおいくらかしら。

『どうしたぁ!? 実戦じゃカウントなんかねぇんだよ!! 走れ走れぇ!!』

 そんなプレゼント・マイクの声を背中で聞きながら、次なる目標へ。殴る蹴るはもちろん、個性を用いて動力部を取り除いたり、真っ二つにしたりしながら進む。
 全滅させようと思えば出来るけど、それは流石に……他の受験生に申し訳ないからね。これが試験じゃなかったら遠慮なくやったんだけど。

「よし、50P……」

 キリのいい所で一旦切り上げ、高いところへ登る。後は周りの状況を見て適度に動こう。ヒーローだもの。

 ……そんなことを考えていた矢先、眼下で一人の少女が瓦礫に足を取られて転んだ。今の転け方、マズくないか。
 その少女に迫るロボ。立てないのか、地面にお尻をついたまま後退る少女。こりゃいかん、助けねば。ロボの脳天────この表現が適切かどうかは分からない────に向かって降り立つと、グシャ、と音を立ててロボは動かなくなった。

「大丈夫ー?」
「っ、あ、ありがとう……」

 震えながらも礼を言う少女の前に跪いて、更に問う。

「怪我したの?」
「……足、痛めちゃって」

 左足首を押さえている手に自分の手をそっと重ねる。

「大丈夫? 少し見てもいい?」
「え、あ、うん……」

 よし、と一つ頷いて、『視る』。
 と言っても診ているわけでも、実際にただ見ただけで怪我の具合が分かるほど医療知識が豊富なわけでもない。私の個性を使っているのだ。

「……んー、折れてはなさそうだね。これくらいなら治せるよ、治そうか?」
「え、ほ、本当に?! 治癒系の個性なの?!」
「まあ大体そんな感じ!」

 実際は真逆もいいところだけど。

「あ、何かデメリットとか……」
「強いていえば、私がちょっと疲れるくらいかな。でも大した労力じゃないから、気にしないでオッケー!」

 サムズアップして笑顔で言えば、少女はあからさまにホッとした。私はそのまま手を翳し、『反転』させた『エネルギー』を流し込む。ポウ、と手元が淡く光った直後、少女の表情が変わるのを見た。

「どう? まだ痛む?」
「い、いや、全然……」

 どこか呆然としていた表情が、じわじわと喜色に変わっていく。少女はパッと立ち上がって、トントンと足を踏み鳴らした。

「すごい、すごいよ。普通に歩ける! さっきまで、立ってるだけでも痛かったのに……!」

 きっとさっきまでは半信半疑で、藁にも縋る思いだったのだろう。その想像を逆に裏切っていくスタイルです。

「それは良かった。じゃあ、私行くけど、もう怪我しないようにね。お互い頑張ろう!」
「うん! ありがとう!」

 手を振り合って分かれる。彼女が合格出来るかどうかは分からないが、せめて治したことが無駄にならなければいいな、と思った。

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