敵を倒してこそヒーロー

 人助けをしながらロボを倒していく。随分数は減ったが、全滅とはいかなそうなくらいには残ってるなぁ。……終了間際になったら、残ってる分を倒しておこうかな。ヴィランが町に残ってたら大変だし……あ、でもこのロボたち結構ボロボロだし、無事だった分は来年に使い回すのかも。それなら必要以上に壊すべきじゃないかなあ……。ヒーローとしての資質を示すなら全滅させるべきだろうけど……。
 ああ、もっと早く気が付くべきだった。もう既に、相当数のロボを木っ端微塵にしてしまっている。大変申し訳無い。
 仕方ない、今からでもなるべく「再利用」出来る形で倒していこう。



 もう何人目かの怪我を治してから、またビルの上まで戻ったその時、残り5分を知らせるプレゼントマイクの声がした。
 それと同時に、どこからか地響きに似た音が聞こえてくる。ゴゴゴゴ……と、低く唸るようなそれは実際に街を揺らした。ガタガタと窓ガラスが音を立て、街路樹がざわつく。

「んー?」

 音の元を調べようとグルリと周囲を見渡す……までもなかった。一際大きな破壊音が聞こえてきて、顔をそちらに向けると巨大な影がビルの壁面を削りながら歩いていたのだ。

 ただ歩くだけで街を壊す、そんな大きさだった。圧倒的脅威。試験開始直後には確実にいなかったはずだから、多分どこかに潜ませてあったのだろう。先程の地響きはあれが出て来る音か。

「思ったよりでっかいな……」

 他のロボとは明らかに違う。あれが各会場に一体いるという0Pロボで間違いない。

「うーん、……駄目だよね?」

 そう、駄目だ。

 街を壊して周るなんて、そんなヴィランは放っておけないよね、ヒーローだもの。

 ビルからビルへ飛び移り、最短コースで0Pの所へ。
 わあ、皆さん逃げ惑っていらっしゃる。ヒーローなら立ち向かわなきゃ……と思うが、あの大きさでは倒せる個性は限られるか。相手との力量差を測って適切な判断を下すこともヒーローには必要だ。

 皆が逃げる中、私は0Pロボに向かい合うようにして立ち塞がる。それを見た誰かが、「おい、逃げた方がいいぞ!」と叫ぶのに、にっこり笑みを返しておいた。

「ありがとう、優しいね。でも心配御無用!」

 そう、心配なんていらない。
 私が来たからにはもう大丈夫。
 ────そう思わせる存在、それがヒーロー。


「私に任せて!」


 宣言。
 手を翳す。まずは動きを止めよう。これ以上街を壊されたら困るから。

 人差し指を上へ向ける。巨大なロボの体が浮き上がる。


 手をパッと広げ────握る。

 途端、グシャ、と音を立てて、ロボがひしゃげた。バキン、と歪んで弾け飛んだ部品も空中で停止させ、街や人に被害が及ばないようにするのも忘れない。
 グシャグシャグシャ、丸めて、球状にしてようやく止める。浮かせていたそれをそっと地面に下ろし、さて、と周囲を見渡す。

「怪我した人いませんかー?」

 呆然とこちらを見ている受験生たちに問い掛けるが、誰も返事をしてくれない。どころか、反応すらない。悲しい。

「じゃあ、私もう行くね!」

 見たところ怪我人もいないようだし、大丈夫だろう。斜め後ろでへたり込んでいた少年は多分、腰を抜かしただけっぽいし。

 ……あ、しまった。なるべく再利用出来る形で倒すの、忘れてた。


 ***


 それからはまた、人助けとロボの破壊に勤しむ。再利用しやすいように、ロボはなるべく「解体」させてもらった。

 それにしても、今日だけで何人の怪我を治したんだか、最早分からないくらいだ。確か雄英高校にはリカバリーガールというヒーローがいるから、こんな怪我人続出の危険な入試が出来るんだろうけど……、それにしたって怪我し過ぎだと思う。
 というかこれ、ロボに効かないような個性持ちは不利だよね、そういう人はどうしてるんだろう。ロボは無理でも対人なら最強、みたいな個性ってあると思うんだけどなぁ。個性ごとに試験内容を変えるとか……ああでも、その不利を埋める努力をしてこそってところはあるかも。武術を習うとかさ。
 それに、個性ごととはいえ人によって試験内容が違ったら「不公平だ」とか言い出す人もいるだろうし。倒すのがロボじゃなくて人になったら、「中学生を人と戦わせるなんて」とか文句がきそう。何でもかんでも文句つける人っているよね。

 うーん、と頭を悩ませながら片手間に1Pロボを真っ二つにして、腕を怪我している少年に近付く。

「大丈夫?」

 話し掛けると、胡乱な目が返ってきた。なんだいその目は。

「……あんた、余裕だな」
「んん?」
「さっきから人助けばっかして……。まあ、あのデカブツ簡単に倒せる強個性なら、余裕で当然か」

 えっなんか皮肉っぽい。個性にコンプレックスがあるタイプの人ですか。
 まあ、気にしないけどさ。

「そりゃ、強個性になるように頑張ってきたからね! 独学で武術も学んだし、筋トレも走り込みも毎日欠かさなかったしね! 血ヘド吐きながらやりましたとも」
「……武術? あの個性で?」
「メンタルや体調で突然個性のコントロールが効かなくなった事例とかあるし、相手に個性を使わせないような個性だってあるからね! 学んで損はないよ! いつ如何なる状況にも、対応してこそヒーロー!」

 因みに血反吐の話は本当だ。マジで吐きまくった。死ななかったのは奇跡だと思う。

 努めて明るく爽やかに言い切ると、少年はポカンとしていた。やがて、じわじわと悔しそうな表情になる。

「……あー、クソ……。悪い、全然ポイント取れなくて、イライラして、八つ当たりした」
「別にいいよ〜! ……戦闘に向いてない個性なの?」
「まあ、どっちかと言うと後方支援型かな」
「じゃあ編入制度の利用狙ってる感じ?」

 雄英には他科への編入制度がある。在学中、きちんとヒーロー科に入れるだけの実力を示すことが出来れば、普通科に入学した後でヒーロー科に編入することも可能なのだ。
 私は彼が、今回の入試は無理でも、この制度を利用してヒーロー科に来るのではと考えていた。

「……何でそう思う?」
「目が諦めてないから!」

 そう、この少年はずっとギラついた目をしている。ポイントが取れなくてイライラしてたのは本当だろうけど、諦めている人の目には見えなかった。
 患部に手を翳して、反転エネルギーを流し込む。見る見るうちに治っていく怪我に、少年が目を丸くする。

「君みたいな人、私結構好きだよ! ────じゃあね! また会おう! ……受かったらね!」

 そうして立ち上がり、さあまた人助けに行こうかというところで、試験終了の声が響いた。

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