鶴だの猫だのもう古い、時代は犬だ。
万事屋の仕事はとにかく儲からない。儲からないというか、そもそも仕事がない。
仕事の内容だとか相手の経済状況だとかで依頼料を都度決めているのだが、高額な依頼料がもらえるような大層な仕事なんかになるともう、滅多にあるものではない。しかも、報酬を踏み倒されることもザラだ。これがもし単に金を払うのを惜しんでのことならば追い掛けてぶちのめして何がなんでも払わせるところだが、事情があって金を払えなくなってしまった者もいる。時には結果的にタダ働きになることも少なくなかった。
仕事がなければ金も入ってこず、家賃の支払いは滞り、今日食うものを買うことすら出来ない。
そんな常に火の車どころか家屋全焼して炭しか残っていないような生活だが、自堕落な自分にはこのくらいがちょうど良いと思っていた。もし家族でもいればまた違う生活を送っていたかも知れないが、生憎そんなものはいない。
家賃なんてまあ払わなくてもどうにかなる。お登勢はうるさいが。
食事に関しても、元々頑丈だから少しくらい抜いたところで気にならない。そもそも幼少期には常に腹を空かせているような状態だったのだ、慣れている。
物欲もないし。せいぜい毎週のジャンプくらいで。
酒とギャンブルは好きだが、金がなければやりようがない。最低限甘いものさえあればなんとかなる。
さてそんな生活なので、毎日決まった時間に起きるという習慣がない。仕事もない、金もない、食うものもないとなれば、後は寝るしかないのである。
その日も、坂田銀時は当たり前のように昼前まで惰眠を貪っていた。それを邪魔したのはチャイムの音だ。
ピンポーン、と壊れかけのひずんだチャイムの音は、来客を知らせるもの。客は生命線だ。反射的に目を覚まし、「はいはい、今出ますよォ」と玄関に向かって声を張り上げ、ボリボリと脇腹を掻きながら向かう。
万事屋の玄関はガラス戸だ。その向こうに透けて見える人影を見て、内心首を傾げる。随分と小さな影だった。
子どもだろうか。全くないわけではないが、ガキがここに来るのは少し珍しいな、と考えながら戸を開ける。
その向こうにいたのは、案の定子どもだ。
黒い短髪に、地球人では早々お目にかかれない金色の瞳。その容貌は異常なまでに整っており、きちんと髪や服装を整えればさぞモテるだろうな、と考える。
着物の色や髪の短さからして一見少年のようだが、よくよく見れば少女であるとすぐに分かった。
少女はじっ、と銀時を見上げてくる。その眼差しの真っ直ぐさと言ったら、ただ目の前に立っているだけで、己のすべてを見透かされるような気さえしてくる程だった。
この少女に対してやましいことなど何もないのに、ついついたじろいでしまう。
────いや落ち着け、何を気圧されてんだ俺は。
頭を振ってから、改めて向き直る。
「えーっと、万事屋銀ちゃんですけど……。依頼か?」
訊ねる、と。少女はキュッと一度唇を引き結んでから、覚悟を窺わせる表情で、声高にこう告げた。
「────以前助けていただいた犬です! 恩返しに来ました!」
……………………………はい?