それってつまりエスパー


「それで、お前は何が出来んの」

 見下ろした体躯は華奢で、小柄だ。そもそもいくつなのだろうか。言動からして見た目年齢の割に賢そうではあるのだが、この体格では出来ることは限られるだろう。
 少女は少しの間目を伏せた。

「……まず、最初にこれだけは言っておかなくちゃならねぇんだが、俺は天人あまんとだ」

 天人。
 宇宙から来た異種族のことを、この地球ではそう呼ぶ。天上から来訪した人々だから天人だ。安直で、何とも大層な呼び方だと思う。

 銀時は、ほんの数年前までその天人相手に戦争をしていた。別に天人そのものに恨みがあったわけではないが、当時はそうせざるを得ない理由があった。それも、もう過ぎた話だが。

 この少女はそのことを知っているのだろうか、と窺うとやはりその目は真っ直ぐこちらを見ていた。

「俺は人の心が読める」
「……ん?」
「だから全部知ってる」
「全部……」
「全部」

 コクリと少女は頷いた。

「……俺が誰かも?」
「攘夷四天王の一人、白夜叉」
「ちょ、やめてくんないその呼び方」
「甘いものが好き」
「おう……」
「俺のこと、すぐ男じゃなくて女だって気付いた」
「そりゃ、俺の股間センサーは誤魔化せないからね、うん」
「俺が天人だって聞いて、自分の過去を知ったら傷付くんじゃねーかなとか心配するお人好し」
「バッ、いや心配とか全然してねーよバカヤロー」
「照れ隠しが下手」
「うるせぇええええええ!!」

 ……なるほど、認めよう。確かにこの少女は銀時の心を読んでいるようだ。
 やべぇな隠し事出来ねぇじゃん、俺の恥ずかしい秘密もモロバレじゃん、とひっそり危機感を抱く。

「安心しろ、家賃滞納しときながら稼いだ金でパチンコ通ってる時点で既にお前は存在が恥ずかしい」
「すげぇ辛口なんだけど!! 何この子!! 俺に恩返しに来たんじゃねーの?!」
「俺ァ嘘は嫌いだ」
「正直であることが必ずしも良いことだと思うなよコノヤロー!! 時として嘘偽りのない本音が人を傷付けるんだよ!!」
「ごめんな、でも銀時がどんなダメ人間でも、俺の大切な恩人には変わりねぇから」
「その恩ってのに心当たりがねぇんだけど」
「それは自力で思い出してくれ」

 一番肝心なところなのだが、そこはバッサリと切り捨てられた。
 恩、と言われても。本当に、覚えがない。もしや直接助けたわけではなくて、何か間接的な……、いや、「自力で思い出せ」というからにはやはり銀時はこの少女に会ったことがあるのだろう。忘れているだけで。

「まあ、別に思い出さなくても勝手に恩返しするけどな」
「恩返しってそういうものだっけ? こんな押し売りみたいな感じでするもんだっけ?」
「で、何かやって欲しいことあるか?」

 やって欲しいこと。
 急に言われても思いつかない。そもそもこんな小さな子どもに何かやってもらわねばならない程切羽詰まってはいないのだ。

「……まあ、とりあえず家事でもやっとくから、何か思いついたら言ってくれ」
「あ、ちょっと待て」

 ソファから立ち上がろうとした少女に、本来一番最初に聞くべきだったことを忘れていたことを思い出して、制止する。少女は中腰の状態で動きを止め、銀時を見た。


「お前、名前は?」


 別に難しい質問ではなかったはずだ。

 ただ一言、名前を答えてくれればいいだけだった。
 それなのに、少女は何も言わずにニッコリと微笑んだだけで、何も言わない。そのまま立ち上がって、こちらに背中を向けると、台所までサッサと歩いて行ってしまった。

「…………ええー……」

 答えたくないのか、答えられないのか。
 どちらにせよ、面倒事に巻き込まれたには違いなかった。