菊田、気づく
――俺には好きな奴がいる。
なんて、そんなガキみたいな言葉は多分俺にはもう似合わない。年齢の問題だけでなく、俺の立場や周りからのイメージ的にも。
「菊田部長、そろそろ」
「ん、わかった……ほら、お前らもいくぞ」
もうそんな時間か、と予定表にある会議室の番号を確認し、なにやら別作業に集中しているらしい数人の部下にも声をかける。一人は「はい」とだけ返事をしてすでに用意していたらしい資料を手に持ち立ち上がり、もう一人は声をかけられてようやく時間に気がついたというように慌てて机の上の物をかき集めていた。
「慌てなくていいから、ゆっくりこい」
別にお偉いさんの来る会議でもあるまいし。そう言って笑う俺をみて、少し恥ずかしそうに俯いた部下――そう、彼女こそが、俺の想い人だったりするわけで。
一回りほど歳下の部下に想いを寄せるとはいかがなものか……と、自分でも思う。しかしまぁなんだ、好きになってしまったものは仕様が無いもので、ひとまずハラスメントなんかは起こさないように気をつけて接するのが今の俺にできる精一杯だ。昨今はほら、飯に誘うだけでセクハラになってしまうようなご時世だし。
本当は、飯どころかなんだってしてやりたいしさせて欲しい。そんな年甲斐もない欲なんて持ってるもんだから、諦めるなんて、とてもとても。……そんな風に考えていた、つい最近までは。
そう、最近までは。
「手伝う」
隣に立っていたもう一人、有古力松がそう声をかける。ぶっきらぼうにも思えるたった一言なのに、追随するように差し出された手は何処となく優しい。それが、有古自身の性格のためだけでは無いだろうことに俺は気がついていた。
(――同じ、だからな)
一挙手一投足を追ってしまう目線も、名前を呼ぶ声にこもる熱も。
きっと、秘めている想いも、同じで……。
違うのは、それが分不相応かそうじゃないかくらい。
立ち並ぶ二人を振り返る。身長差はあれど、年も近い、同期で、仲も良くて……周りから「似合いの二人だ」なんて言われていてもおかしくない二人だと、俺も思う。
(……眩しいな)
若さというのはそれだけで。
そこに俺のような奴が入る余地がないこと、自分でも嫌というほどわかっている。わかっているからこそ、俺は、それを見守っていたいと……そうするべきだと思ってもいるのだ。
(応援してやらないと、なぁ)
尊いものを見るように俺は目を細めた。締め付けられるような胸の痛みからは、目を逸らして。