桂くんが(誤)訪問


ゆっくりと時間は流れていく日曜日。

お気に入りの音楽を流して、気になっていた本を読む。手には安っぽい香りと口当たりの、飲み慣れたインスタントコーヒー。


こういう自分を取り戻せる時間がないと、きっと仕事に引きずられたままでだめになる。

そう思い切り羽を伸ばしていた時、その愛おしい空間が壊れる音がした。


好きな音楽に混ざっていく電子音で、完成された音の集まりが濁っていく。

まあなんてことは無い、ただのインターホンなのだけれど、この時間を邪魔するインターホンは大嫌いだ。憎むべし。


いやいやと立ち上がって、キッチンの手前に取り付けてあるモニターを覗く。

そこには、整った顔立ちをした黒髪を伸ばした男の子がこちらを見ていた。

パッと見は分からなかったけれど肩幅や、着ている服の色合いで、彼を男なのだと判断する。

おお、眼福。職場にはイケメンはいないから、こういう所でイケメンを見るだけで少し癒される気さえする私はきっともう危ないんだと思う。


画面越しに目が合い、私はボタンを急いで押して会話ができるようにした。




「はい」

「高杉、扉を開けてくれ。後から銀時と坂本もくる、銀時は出前のスイーツピザが食べたいそうだ」




唖然。

私はピザの具材がいかに甘い物ばかりが揃っているかしゃべり続ける彼に、口をポッカリと開けていたが、私は急いで答える。




「……高杉さんのお部屋はこのお隣ですけれども……」




そう言ってみれば、はっとした表情を見せる。




「やや、えー、すみません。しかしどっち隣が高杉君のお宅であるのかわからないんですが」

「右です」

「あの、それはどっち側から見てですか。僕側ですか、それとも」

「あなた側です! 番号と表札見てください!」




この人、めんどくさい……!

思わず大きな声が出てしまう。すると、扉を蹴破るような音がした。




「ヅラァ、隣に迷惑かけんな、こっちだ」




低いドスの効いた声がインターホン越しに響くと、長髪の男の子はこちらに頭を下げて去っていった。

何だったんだろう?

音楽にもう一度耳を傾けることにしたけれど、少しも集中出来ずに、気がつけばセットしたアルバムは最後の曲まで終わっていた。

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