JOY4(テスト期間)とすれ違う
月曜日、やっとの思いで仕事を終えた私は定時よりは少し遅い時間で会社を出た。
コンビニで適当に飲み物とお弁当を見繕ってから、重い体を引きずって歩いて、やっとのことでマンションに上がり込む。
エレベーターで、買った炭酸水のキャップを捻れば、レモンの香料のにおいが広がった。
ひとくち炭酸水を口に含めば、口内を刺激する二酸化炭素が少しきつくて涙目になってしまった。
賑やかな笑い声が遠くで聞こえる。学生さんかなあ、元気だなあ……
ぼんやりとしはじめた思考を遮ったのは、エレベーターが止まった時の、一瞬の浮遊感。
扉が開くと、先程はっきりとは聞こえなかった男の子の声が聞き取れた。
「アッハッハッハッ! 金時ー、おんしゃぁやっぱり馬鹿やきー」
「っせーよ! 俺ァ毎回こううまいことヤマ張ってやれてんだからさぁ、別にいーだろーがよ」
ああ、テストの話かな。うんうん、学生の本分は勉強だからね。今だけだからがんばってね。
そう心の中で応援しながら、私は廊下を歩く。
「銀時、毎回それではいい加減限界が来る。今のうちからちゃんと勉強する習慣をつけないと、あれだぞ」
「あれってなんだよ。おめーは俺の母ちゃんかよ」
一瞬、どきりとした。聞き覚えのある、耳が覚えていたこの声。顔をあげると、昨日のやや残念な美青年と、丁度すれ違うところだった。
「今日だって、貴様一人だけファミコンをずっとやっていただろう、マリカー延々とやってただろう、羨ましい」
「ファミコンじゃねーよ」
「金時は下手くそじゃったがなあ」
昨日の、そうかすれた声が彼を呼び止めようとするけれどあまりにも小さくて、そんな会話に夢中になっていた彼には届きはしなかった。
……まあ、いっか。ちょっとこっちが迷惑しただけだし。わざわざ声をかける程でもない。
きんとき、と呼ばれた彼が背の高い子を殴って蹴る姿を横目で見ながら、私は家の鍵を鞄から取り出して、扉を開ける。
中に入った瞬間、私はふと気になって、ぼそりと呟いた。
「……ファミコン世代って、いつだっけ?」
彼らの笑い声は、扉の閉まる音で掻き消された。
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