知ってる?空腹って体の細胞が若返るらしいよ
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侍の国。私の住む国がそんな風に呼ばれていたのはもう今は昔の話…という前説はとりあえず真面目で眼鏡かけてる文系男子みたいな人にやってもらうとして。
私、苗字名前はこのかぶき町の住人である。パン屋、カラオケ屋、キャバクラをシフト制で働いているから、職業は云わばフリーターというやつになる。朝方の6時にやってきたのはそのうちの1つのパン屋さん。
「おはよーございます」
パン屋の従業員入り口の勝手口から入店するとこのパン屋の店主とその奥さんが調理場から顔を出した。2人はこのパン屋の二階に住んでいて、早朝からの仕込みをやっている。
「おはよー名前ちゃん!
「今日はいい餡が入ったよ!」
「お!じゃぁ、あんぱんですね!」
なんて他愛もない話をしながら働くのが私の日常。
「そろそろお店開けるから表開けるのお願いしてもいいー?」
「はーい」
手元の仕込み作業が終わり、生地を焼き窯に入れると、ちょうど良いタイミングで奥さんから開店を頼まれた。
最後にもう一度焼き時間を確認して、ちょっと建て付けの悪い店の扉を開きに行った。
「ん?」
ガラリと力任せに扉を開くと店前の地べたに赤いのが。
よく見れば赤いチャイナ服を着た女の子のようだ。髪色は赤みのあるピンク色で、手には何故か紫色の傘を持っていた。
「大丈夫…?」
軽く彼女の肩を叩けば、びくりと盛大に体を震わせ、青色の瞳をかっぴらいて私の顔を見た。
「め、メシをぉおおお…」
それだけ言うとまた地面にぱたりと伏せた。
…これ、どうするの?
「んまァァアアアア!!これなにアルか!?」
「パンの耳」
「パンの…耳アルか?なんで?パンは耳あるのかネ?でもどっちでもいいネ!腹満たせれば耳だろうが指だろうが構わないネ!!!」
「いや、指はいろいろとNGじゃないかな…」
ちょっと片言な彼女を店前にある腰掛けに座らせ、サンドイッチを作るときに出てくるパンの耳をぶら下げてみればものすごい形相でパンの耳に食いついた。
「うふふ、よく食べる子だね」
「んまァァアアアア」と叫ぶ彼女の近くに奥さんが牛乳を置く。くりくりの青色の瞳がぎょろりとそれを見つめては素早く手に取り、文字通り胃に流し込む勢いでそれを飲み込んだ。
「あなた、名前は?」
「名を聞く時はまず自分から名乗りやがれって銀ちゃんがいつも言ってるネ」
「…苗字名前デス。あなたのお名前は?」
死にかけていたところを恵んでやったのにそれときたら彼女の態度にうっかり顳に青筋が出る。いかん、大人になれ名前。
「神楽!銀ちゃんの所で働いてるネ!でも銀ちゃんいつもお給料くれないし、最近仕事も無いしでロクにメシが食えなかったアル!」
あぐあぐとパンの耳をひたすら食す神楽ちゃんの発言に私も奥さんも思わず耳を疑った。
この年で働いてるの…?いや、でも人様の生活には口を挟む権利もないのだけれど。
「給料もらえないって…どんだけブラックなの…」
「あらあら。そしたら毎朝ウチんとこ来なさいな。パンの耳でよかったらあげるわよ」
「ほんとアルかー!!定春も喜ぶネ!!!」
「うほー!」と少女らしからぬ叫び声で牛乳を飲み干した。
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