一度開き直った人間のウザさったらもうすごいよね

◼︎


「今日から銀さんは本気でオメーのすっげー鈍感な妹チャンを落としに行きまーす。ハイ、これ決定!」


銀さんが私の兄が眠る墓前でなんとも奇妙な宣誓発言をしてから数週間。

今日も今日とてパン屋のバイトをして、気付けばもう上がる時間となった。身の回りの片付けを始めていると、売り場から奥さんがウキウキした足取りで私の元へやって来る。
それだけで何を言われるかはすぐにわかった。

「名前ちゃんお疲れ様。今日も来てるわよ、カ・レ・シ」
「いや、付き合ってません」
「よォ名前。未来の旦那様が迎えに来てやったぞ」
「いや、付き合ってもいません」

売り場から厨房に向かって片手を上げる銀さん。「いつもウチの名前が世話になってるな」なんてパン屋の奥さんと会話を弾ませてるバカを放って、帰りの身支度するべく店内の奥へ。
否定する時間が無駄だと今更ながら悟った。

「お疲れさん」

裏の勝手口を出ればすぐ横に銀さんが壁に背を預けるようにして立っていた。

「…毎日毎日、懲りないですね」
「あたりめーだろ?なんてったって未来の名前の旦那様なんだしな」
「だから誰がだよ」

コイツホントよくもいけしゃあしゃあと…。

私の荷物を当たり前かのように手に取り、代わりに頭にヘルメットを乗せてきた銀さんの背中を見て、本人に気付かれないように小さな小さな溜息をついた。


……ぶっちゃけた話、タイミングが分からない。


恥ずかしながらこの歳までロクな恋愛もしてきた事がなかった私。
生まれて初めて人を好きになったのは良いけれど、相手はあのちゃらんぽらんだし、なんか兄さんに"妹を落とす"なんて、既に落ちているようなモノなのに宣誓されるし、周りは何故か押せ押せモードだし。
私の中の妙なプライドが「ハイ落ちましたー」なんて素直に言わせてくれず、結局どうしたら良いのか分からない状況になってしまった。
え?バカ?それ言うな。

「今日夜バイト無いだろ?メシ食ってく?」
「あ、ハイ…。じゃあ、スーパー寄ってもらえますか?手ぶらじゃ悪いので」
「気にすんなっての。…あ、そういやイチゴ牛乳切らしてたわ」
「それは自分で買え」

それに、私が素直になれない理由はそれだけではない。



「今日の晩御飯はなんの予定ですか?」
「…ん?」
「…今日の晩御飯!なんの予定ですか?それに合わせて材料買いますけど」

大江戸スーパーに到着して籠を手に取る。後ろについてくる銀さんに晩御飯のメニューを聞いたのだが、ちゃんと聞いていなかったらしく振り返ってもう一度問うた。すると今度は顎に手を当てて何やら考え事を始める。

「…ちげーな」
「は?」
「そこは何にしますか?にしてくんね?」
「テメー兄さんにあんな宣言したからってあんまっし調子乗ってっと白髪引っこ抜くぞクソ天パ」
「すみませんでした。名前ちゃんとスーパー来たらなんか新婚さん気分で浮かれてました。すみませんでした」

怯んだ銀さんを放って、とりあえず買っておいて間違いのなさそうな卵を買うべく卵コーナーへ向かうとする。
卵コーナーには見慣れた人物が先にいた。

「あら銀さん、名前ちゃん。こんなところで偶然ね」
「お妙ちゃん」

卵ひとパックを手にしていたのはお妙ちゃん。
この後その卵達がダークマター化するんだろうなぁと一瞬思ったのは内緒だ。私でもそんなこと言ったらブチ殺されそうだ。

「あ、そうそう、銀さん。こないだのおりょうちゃんの依頼の件ありがとうございました。お陰でストーカーが消え去ったみたいで」
「おー、そりゃよかったな」
「ついでに私のストーカーも何とかして欲しいくらいなんですけどね」
「そりゃ警察に相談だな」
「お妙ちゃんは僕が護る!!」
「あらあら九ちゃん。かつお節持ってきてくれた?」
「何を!ご安心をお妙さん!真選組局長、近藤勇が貴方の身を…ぶべら!?」
「オメーに悩まされとるんじゃボケェェエエエエ!!」

いや、嫉妬とかそういうものでは断じてないのだが、銀さんの身の周りには美女がとにかく多い。
お妙ちゃんや神楽ちゃんはもちろん、最近知り合った九兵衛さんに、

「ぎんっさァァアん!!今晩は私を料理してくれてもいいのよォオオ!!」
「っだァァアアア!喧しい!!ここスーパーだぞテメー!」
「銀時様。お登勢様から家賃の回収依頼で参りました」
「なんでンなところまで来るんだよ!!」
「お登勢様のためなら地平線の先まで銀時様を追いかけ家賃を巻き上げにゆきます」

さっちゃんに、スナックお登勢で働いているたまさん。

「む、騒がしいな。こんなところで何をしとるんじゃ主ら」
「あら、銀さん達じゃないかい。こんなところで奇遇だね」

新八くんにさっと説明してもらったのだが、どうやら吉原にも知り合いがいるらしい。お名前は知らないけれど、金髪美人に黒髪和装美女まで。

とにかく、銀さんの周りには美女が多いのだ。

「……分からない…」
「あぁ!?名前なんか言った!?」

なのに何故私を落とそうと?まさか男慣れしてないのを知った上で…?これが所謂遊びなのか…。銀さん、本当は女に困ってないんじゃ…?

……まぁ、そんな分からないことに時間を使っても仕方ない。きっと新八くんと神楽ちゃんが今頃お腹をすかせて万事屋で待っていてくれてるかもしれない。
ここは早いとこ買い物を済ませてあげないと、だ。
とりあえず懐から携帯を出す。

「…もしもし新八くん?」
『名前さん!どうしましたか?』
「今日晩御飯何にしますか?」
『………ハイ?』
「それ俺に言ってくんね!?俺に言ってくれないかな!?なんで新八なの!?」


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