病は気からってよく言うけど実際のところどうなの?
◼︎
「えぇ…本当…?分かった。じゃあ、私行くよ。うん、任せて」
そう言って私は携帯を閉じた。手の中にある携帯をしばし見つめてから「よし」と小さく気合を入れてエコバッグと財布を持って家を出た。
「おー…、本当に鍵あった」
大江戸スーパーで買い物を済ませ、向かった先は万事屋銀ちゃん。看板の裏側の隅に鍵を隠しているという新八くんの情報を得て探してみると本当に見つかった。それを使って中に入らせてもらう。
「お邪魔しまーす」
そろりと静かに玄関を開ける。万事屋の中は物静かでなんだか不思議な感じだ。
玄関を閉じ、上がらせてもらう。エコバッグは一度台所に置いて、居間に入る。定春くんは…と思ったら開けっ放しの和室から大きな顔を覗かせてきた。私の姿に気づくと珍しく静かに擦り寄ってきた。うん、良い子だな。
「…銀さんを診ててくれたんだね」
小さい声で定春くんにそう話しかけると、また嬉しそうに小さく鳴いては尻尾をパタパタ振った。良いなぁ、私もペット飼いたくなってきた。
そんなことを思いながら和室を除くと、膨らみのある布団が一式。頭の方に出ている真っ白いクルクルを見て、そっと回り込み家主の顔を確認した。苦しいのか少ししかめっ面で目を閉ざしていた。
「ーー今日これから隣町まで仕事があるんですけど、銀さんが体調崩してしまって…。様子見るのお願いできませんか…?名前さん以外にまともな人がいなくって…」
パン屋のバイトが終わって家に着いたと同時に新八くんから電話が掛かってきた。あのちゃらんぽらんが珍しく体調崩すとか言うのでその看病を受け持つことに。
「…熱い」
そっと汗ばんだ前髪の隙間に手を差し込んで額の熱さを確かめた。近くを見ると氷嚢が転がっていて、もう緩い。…替えないとな。
「!」
「わ、ごめんなさい…!起こしました?」
「…アリ?なんで名前…?」
離そうとした手を熱い何かに掴まれて。それが銀さんの手である事はすぐに分かった。
薄く目を開いた銀さんは私の姿を捉えると僅かに目を見開かせ、手を自分の目元に宛てた。
「…ヤベー、名前の幻覚見えるわー」
「ヤベーですね。幻覚なので早く寝てください」
「ンなわけねェだろ。…なんでここにいんの?」
「新八くんに頼まれたんです」
「ぱっつぁんナイスアシストだ俺もう5日間くらい調子悪いからよろしくな名前」
「それだけ元気あれば大丈夫そうですね。お邪魔しましたー」
「やだよーもっと面倒見てー」
「子どもかお前は」
氷嚢の中の氷を入れ替えて銀さんの額に再度乗せる。
「あー…きもちーわ…」
「そりゃようございました。ご飯は食べれます?」
「あー…いらねェ…」
なるべく心配をかけさせまいとしているのだろう。いつもの調子のように聞こえるが、時折目を伏せる時や小さい溜息はかなりしんどそうに見えた。
薬は…近くにあったお盆に開封済みの薬のゴミとコップがあったのでもう飲んだようだ。
「何か要るものありますか?」
「…んー?」
目元に腕を乗せながら怠そうに返事をする銀さん。とりあえずもう寝かせたほうが良さそうな気がして、私はお盆を片付けようとそれらに手を伸ばした。
「おまえ」
「……そうですか」
まぁ、予想外の返答ではなかった。
銀さんの側に座って熱い手を握る。予想だにしなかった行動だったのか、銀さんが跳ね起きた。
「え、…えっ!?」
「なんですか」
「マジでか」
「外、寒かったんです。ちょっとあっためてください」
「…しゃーねーなァ可愛い名前ちゃんのお願いだし、聞いてやるよ」
そうぶっきらぼうに言い放った銀さんはまた布団に寝転ぶと、私の手を握り返して目を瞑った。
手の力が緩まった頃、その手を布団の中に戻す。そこで私は先ほどの銀さんの目を思い出した。熱に浮かされた時ほど嫌な記憶が色々とこみ上げてくることがある。さっきの銀さんの目はそれらに怯えているように見えた。
「大丈夫ですよ。みんな居ます」
あなたの代わりに可愛い弟分たちが頑張って働いています。だから、今はゆっくり休んでください。思わず銀さんの頭を撫でそうになったが、その手を膝の上に降ろす。起こしちゃうかもしれないしね。
元気になったらすぐ食べられるようにおかゆでも作っておこうか。
「名前…」
「はい?」
名前を呼ばれて顔を上げる。なんだ、起きてたのか。
名前を呼んだっきり返事がなく、銀さんの顔覗き見ると規則正しく呼吸を繰り返していた。
…なんだ、寝言か。寝言で人の名前呼ぶとかそんな人本当に居るんだ…。逆になんか感心した。
「…好きだ」
ーー心臓が止まったかと思った。
もしかして、本当は起きてる?と思って顔を覗いてみるが、両目はしっかり閉じられたまま。寝言で告白だなんてなんだか面白おかしっくってつい小さく笑ってしまった。
「…私もです、銀さん」
まぁ、聞いてもいないだろう。と思ってそっとつぶやいてみる。我ながらずるい人間だ。こういうときだけしか素直になれないだなんて。
そそくさと立ち上がろうとしたところに手首に熱いものに掴まれて、そのまま引っ張られバランスを崩す。
「…今のマジ?大マジ?」
「ちょっ!!?起きてたんかい!!」
床に背中を打ち付け驚いて見上げると目の前には先ほど寝込んでいたはずの銀さん。急激に恥ずかしさが増して顔が熱くなる。
「えっと、その、あの、」
「やっべェ…夢みてェ…」
「んっ」
熱い銀さんの唇が私の首筋を這い、触れたところから熱が入り込むようにじわりじわりと熱くなっていく。急すぎる展開に心臓が煩いくらいに暴れ狂った。
流石に病人相手に殴り飛ばすことができず、私はただただ身を小さくして銀さんがそれをやめてくれるのを待つ。しかしそれが良くなかったらしく、銀さんの手が私の着物の合わせ目にかかった。
「っ、ちょっとタンマ銀さん!」
それ以上はこちらも耐えられず、合わせ目にある手を掴む。途端に銀さんの熱い体が私の上にのしかかってきた。
「お、おもっ…!銀さん…っ!…あれ?…銀さん…?」
問いかけても返事は無かった。代わりに聞こえるのは寝息だけ。
「………え?」
頭上でのしっとした音が聞こえたかと思えば、視界の中に定春くんが入ってきた。定春くんは銀さんの寝間着の襟元を食むとずりずりと私の上から引き摺り下ろし、布団の上に転がしてくれた。
銀さんといえば為すがままにされていて一向に目を覚ます気配がない。
「…え、本気で寝ぼけてたやつ…?」
緊張したじゃんかボケェェエエエエ!!
脈打つ心臓を押さえつけてぐったりうな垂れた。タチ悪いったら。
銀さんに触られたところがすごく熱いのは多分それだけ彼の熱が高かったから、ということにしておく。
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