物事には何事もタイミングってやつがある

◼︎


「…お、お妙ちゃん?」

単刀直入に言おう。迷子になった。

だってここのお屋敷大きいんだもんんんん!何がどこにあるのかさっぱり分かんないよ!こんなうろちょろしててお妙ちゃんに何かあったらどうしよう…!
ひたすら敷地内をうろうろしていると人かの声が聞こえてきた。あっちだ!

「!」

声の方向に向かっていると明かりが見えてきた。人の声も次第に聞こえてきて、お妙ちゃん以外に何人かいるようだ。

…て、あれ……銀さん…だ。
人物を認識した時、縁側に座っていた銀さんが不意にお妙ちゃんの手を取った。

「ーーあんな男とは別れて、俺とつき合っちゃいなよ」
「…、!」


目が離せなかった。


ひゅっと飲んだ息に思わず手で口元を押さえたのだが、庭には何故か土方さんもいたらしく私に気付いてバッ顔を上げて此方を見た。

途端に真っ青になって滝のごとく冷や汗をダラダラ流し始めた。

あ、ヤバイ。

「え…名前…チャン?」

言わないで!と必死に土方さんにジェスチャーしたものの、伝わらず。土方さんは私の名前をぎごちなさそうに言葉にした。

「え…名前…?」
「…名前ちゃん…!?」

「…えーと…」

土方さんの呼びかけに銀さんとお妙ちゃんも私に気付いたらしく、2人もぎごちなく此方を見て、皆して固まった。
それでも銀さんの手は相変わらずお妙ちゃんの手を握ったままで、それを見たらなんだか心がズキリと痛んだ。

なにか、なにか言わねば。

「お、」
「何やってんだてめェはァアアアア!!」
「ごばァアア!?」

ようやく絞り出して出てきた声が「お邪魔しました」の「お」だったのに、その後の声は土方さんと銀さんの騒ぎ声で掻き消された。銀さんは土方さんに頭を鷲掴みにされて床に叩きつけられた。

…あー、なんだろう、修羅場?私はゆっくりゆっくり後ずさった。





最悪だ。まじで最悪なことが起きた。

名前とのデートの日にうっかり事故って土方くんと身体が入れ替わっちまってから数日。

元に戻るためには、事故の衝撃で行方不明になった俺の半分の魂を回収しなければならないことになった。

ようやく手掛かりを見つけたと思いきや、俺の魂の半分は猫の死体の中に入っちまったのを土方くんの魂が見たらしい。
俺の魂で生き返った猫は化け猫と化し、さらにはお妙が飼っていることが判明。

化け猫を飼っているばけもの…いや、お妙から化け猫取り返すためになんとかあらゆる手立てを講じ、俺の身体に入った土方くんが化け猫をお妙から引き剥がす作戦として、まさかのくせェナンパ作戦に出やがった。


しかしその場には何故か一番聞かれたくねェ名前がいて血の気が引いた。

「名前は!?どこ行った!?」
「あァ!?さっきそこに…!」

慌ててこのバカを床に叩きつけ、もう一度名前の方を見上げるが、既に姿は無かった。

「…っクソ!」
「オイ待て!!どこ行く!?」

ただでさえこないだのデートをすっぽかしちまったんだ。ここで今すぐ弁明しないと後々やべェことになりそう…っていうか、絶対なるね!!咄嗟に名前を探すべく追いかけた。
化け猫の件は後だ!ちょうど今土方くんの姿だし、今のうちに自分のフォローを出来るところまでしねェと本当に後々ヤベェことになる…っていうか、絶対なるね!!うん!!

「名前!?」

慌てて屋敷の外に飛び出し、左右を確認する。立ち去る名前の姿を見つけて俺も駆け出し、細っこい手首をひっ掴んだ。

「!……ぎ、!」

振り返り際に一瞬だけ漏らした一言を聞き逃さなかった。

…今、一瞬…。

こちらを見上げた名前は少し目を潤ませていて、俺の姿を見て目を見開いた。…あぁ、クソ、このまま掻き抱いちゃってもいいかな?いいよね?これもうそういう雰囲気だよね?

「……ひじ、かたさん…?」


……あっっっっぶねェエエエエエ!!

そうでしたァアアアア!!俺今土方くんだったァアアアア!!
肩に回しそうになった片手をビダンと体の真横に付ける。

「あ、いや、その…!悪ィな!なんか用事あったのか?いやァ、あの、だな、万事屋の野郎、お妙ンところにいる野良猫を引き取りたくてだな…!ちょっと、あれは一芝居打ってたっつーかなんつーかだな!!」
「…ははっ……変なの、土方さん」

しどろもどろに説明する俺が可笑しかったのか、名前は小さく笑った。笑ったのだが、その拍子に目元からホロリと粒が一つ落ちた。

「…っ!」
「…泣いて…んのか…?」
「…ご、ごめんなさい!なんでですかね!?急に掴まれてびっくりしたのかもしれないです!」

着物の裾で目元を少し拭った名前は「だから大丈夫です。だから、ね?」と俺に掴まれたままの手を少し持ち上げた。離してほしい、と言いたげな声色だった。

目の前の惚れた女の様子に愛おしさがこみ上げてきて心臓がうるせェ…。名前の手を掴んだまま固まる俺。本当ならここでかき抱いてキスしてそのまま持ち帰っちまいてェ…。
だが落ち着け俺。今、土方くん、なう。あれ?今って2回言った?あれ?これじゃ馬鹿丸出しなうじゃねェか。

「…あー、ゴホン。名前チャンじゃないの、ひ、久しぶりだねー」
「「!」」
「あれ?久しぶりっていうの?最後に会ったのいつだっけ」

ぎごちなく現れた野郎は俺の真似をしながらこちらに歩み寄ってきた。自分の声にハッと我に返って、無意識にまた宙を彷徨っていた手を下げる。

「こんばんは銀さん。…今日はもう遅いし帰ります。じゃあ、また」

さらりとそう言い退けた名前に慌てた。やべ、なにも弁明できてねェエエエエ!!

「えっ、あっ!送るわ!ほら!俺警察だし!?」
「ははっ、大丈夫ですよ。私こう見えても腕っ節は強いので!」
「…名前…」
「…アレ?あれなんですか…?」
「「!」」

名前が俺たちの背後を見て目を細めた。慌てて振り返るとそこには例の化け猫が建物を飛び回っていた。逃げる気かアイツ!土方くんが真っ先に駆け出した。

「…って、アレ!?名前!?」

後ろを振り返ったらもう名前の姿は無かった。元に戻ったらちゃんと話し合おうと心に決めて俺も化け猫を追いかけた。

悪ィ、名前。


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