不思議と知り合いに1人は恋愛体質な人っている
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…避けられてる。俺、絶対避けられてる。
入れ替わり事件が終わってから1週間。俺すげー避けられてる。いろいろ弁明してェんだけど、驚くことに全っ然名前の姿が見えねェ。いや、マジで。ここんとこ1週間ロクに会話ができてねェよ。
「名前ちゃん?今日も休みだよ。銀さん何かあったのかい?」
「…いや、なんでもねェわ」
パン屋もスナックすまいるも最近は休んでいるらしい。それとなく家の近く通っても名前の姿は全然見えねェし。いや、ていうか、ストーカーじゃねェから断じて。そこんとこ頼むから勘違いしないでね?どっかの野ゴリラじゃねェから。
情けない話だが、仕事の帰りや時間があるときにふらふら散歩して名前の姿をそれとなく探すのがすっかりクセになっちまった。まぁ、パチンコにふらーって行っちまうよかマシかもしれねェな。
「…あー、どうしたもんかねェ…」
公園の近くをふらりと立ち寄ったとき、ベンチに座る男女の背中がふと視界に入った。女は男の肩に頭を乗せていて、後ろからでも分かるイチャつき様に舌打ちした。が、思わず二度見した。
あれ、名前…!?
見覚えのある小袖に黒髪。ひさびさに見た名前の後ろ姿に柄にもなく緊張して心臓が暴れるが、同時に血の気が引いた。
あれ?隣にいるの…男…だよな?俺…やらかした?名前の誤解解くの遅すぎて…愛想切らされた!?まじかァァアアア!!!
「…っ名前!!」
いや、今からでも間に合うか!?間に合わせる!ズンズンと2人の背に近づき、名前の肩を掴む。
「いやーん、だれー!?この男!」
「誰だねチミは!!うちのゴリ美に何か用かね!?」
「……サーセン人違いでしたー」
「痴漢!助けてゴリラ男さん!」
「待て待て待て待て!人違いだっつっただろ!誰がこんなゴリラみてェな、いや、ゴリラにごべらっ」
がっつり顔面をぶん殴られ、頬を腫らしながらゴリラカップルが立ち去った公園のベンチに1人居座る。
クソ、ゴリラが紛らわしい格好しやがって。なんでゴリラがツヤツヤの黒髪ロングヘアなんだよ。聞いたことねーよ。遺伝子操作か?宇宙行けばいかなる剛毛も天パもクッソサラツヤストレートになんのか?教えて!!どこでできんの!?俺も行くわ!!
「……銀さん?」
「あー、もー。名前の幻聴が聞こえるよー!名前ー!」
ヤケクソになってベンチに転がると頭上から愛しの名前の声。あーもうダメだ。名前に会いてェ、謝って抱きつきてェ。
「…えっと、その、名前です」
「え」
バッと起き上がると其処には1週間ぶりに見る名前の姿。今度こそ間違いなく名前なのだが、その腕の中にあるモノをみて頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。
「…誰かァァアアア!!俺の記憶消してくれェエエエ!!ぶべら!!」
「うるせェエエエ!!子どもが起きるわ!!」
あぁ、これこれ。すんげー懐かしいグーパン感触。
「ふぇぇえええん!!」
「あー、よしよし!無職のクソ天パがうるさかったねー!」
「…いや、どっちかっていうとお前の声じゃぶぶっ!?」
胸に抱かれてるガキが泣き出して、名前が手慣れたようにあやす。
え、ちょっと待って。そのガキ…え?
「…お前…まさか、」
「え?」
「いつの間に俺とのガキ…ごぶらっ」
「きゃっきゃっ!」
「え?面白い?良かったー!笑った!」
きゃっきゃっと笑うガキに名前がつられて笑った。いや待てよ大の大人が顔パンパンに腫らしてるの見て何がそんなに面白い。
名前が俺の座るベンチに腰をかけてきたので思わず体が固まる。なにやってんだ俺、童貞じゃあるめェし。
「なんですか、ジロジロと」
「や…なんつーか…その」
「バイト先の常連のお客様の子どもですよ」
「…や、其処じゃなくって、その、」
「ベビーシッター頼まれてたんです」
「…俺とお前のガキ、名前なににするか」
やべ、うっかり本音出た。
一瞬身構えるも、名前はウトウトし始めたガキを優しく撫でながら何もしてこなかった。その姿に一瞬違和感を感じて、名前に手を伸ばしかけた。
「あっれー?名前?と、恭次郎!」
「あ!…きょーちゃん、ママ来たよ!」
「あー!あーあ!」
「そうそう、ママよー!きょーちゃん良い子にしてたー?」
買い物袋を持ったガキの母親らしい女が名前に近づいてきた。ウトウトしていたガキは母親の姿を見ると嬉しそうにして手を伸ばし、名前はガキを母親に渡した。
「もしかして、彼氏?」
「まさか!ただの知り合いです」
「…」
「…へー!じゃあ、私はこれでお暇するよ!お礼はまた改めて!」
「お店にいらっしゃるだけで充分です!では、また」
おー…"ただの知り合い"か、結構くるもんだなこりゃ。
ガキと母親が姿が見えなくなるまで見送った名前は俺を振り返った。
「じゃ、そういうわけで」
「いやいやいやいや待て待て待て待てお願い待って」
「…なんですか」
「あー、その」
何故かその後のセリフが詰まっちまって、なかなか出てこねェ。言え、言うんだ俺。頑張れ俺。
「……デート、すっぽかしたりして悪かったな」
「気にしてませんよ」
「……え?」
怒られるとばかり思っていたのに、即答で思わぬ返事が返ってきて間抜けな声が出ちまった。
「あの、女の人に思わせぶりな行動するのやめた方がいいですよ…。本命だけにしてくださいね」
「え?いやいやいやいや、本命って、」
「お前しかいねェよ」と言いかけたところで、先日の一件が蘇ってきた。そうだったァァアアア!いや、忘れてたワケじゃねェけど!
「ほらね」
名前はそう苦笑いして一歩、また一歩と俺から遠ざかった。
「頑張ってお妙ちゃんを落とし、」
「ふざけんじゃねェよ」
今度は己の手で名前の手を掴んだ。
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