なんだかんだ私もおかしい。

◼︎


「そんなにむくれるなよ。不細工になるだろ」

過去史上最高に可愛くないのは百も承知。というかこのアホの前で可愛く居る必要もないんだけど。
唇を尖らせ不満感満載の私の顔を見て団長は一言そう言った。

上体を起こすような姿勢でベッドに居座る私の腕には管が繋がっていて、そのベッドの端には団長が座る。あの襲撃任務があってほぼ丸2日経ったところだった。

純夜兎の団長はもちろんその他の脳筋どもは持ち前の頑丈さが手伝ってすっかり体力も傷も回復しているが、デリケートな半夜兎の私は未だに安静を余儀なくされている。

「ありえない」
「ありえたよね」
「信じられない」
「これが現実さ」
「無茶苦茶すぎる」
「世の中はいつだって無茶苦茶さ」

あろうことかこのクソ団長、上の元老院から一本だけ解毒剤を支給されていたらしい。んで、先に突入して隊員分の解毒剤を回収しようとしていたらしいのだが、ところがどっこい。敵船に乗り込むのが楽しくて事前に解毒剤を飲むのを忘れハシャギ過ぎた挙句あぁなったそうな。マジで信じられない。

「しんどそうにしてみたら名前必死だったし、ここは一つ俺の命を預けてみようかと思ったんだよね」
「ばっかじゃないの」

心底思った心の声と、実際に口から出た言葉が120パーセントシンクロした。「ひどいなぁ、愛を確認しただけなのに」と団長がケタケタ笑うからますます眉間にシワが寄った気がした。

「もう2週間は休ませてもらいますんで」
「実家に帰らせていただきます、みたいなテンションだね」
「あれば帰りたいわ」

ふん、団長が解毒剤持ってたとはいえ、今回の任務のMVPは紛れもなくこの私だ。腕を組んで踏ん反り返ってやる。

「好きなだけここに居るといいさ」
「えっ?」

「えーあの書類の山誰が処理してくれるんだよ」と言われるかと思いきや、予想外の団長の返答だった。少し驚いて顔を上げると、思った以上に団長との距離が近くて目が泳いだ。

ナニコレ、壁ドン?壁っていうか、後ろはベッド起こしたやつだから、ベッドン?ちょっとドキッとしたのは多分久しぶりに団長の顔をまじまじと見たからだ。

「その方がこうして毎日好きなだけ名前に触れていられる」
「何言ってんですかまだ毒物キめるんですか」
「素直じゃないなぁ」
「さっきから充分ってなくらい本音がダダ漏れしてますけど。素直通り越して本音ですよ」

不意に下ろしたままの髪をとられて、そのまま団長の口許に連れて行かれた。ちょっとまって、この人いつからこんなキザなことできるようになったの。阿伏兎か。アイツか。

「俺、初めてなんだよね」
「は?」

初めて?…その単語に真っ先に思いついたのはファーストキスのことだ。

あれ?もしかして団長も…まさか…。遊び呆けてそうに見えるのに、実は純粋なキャラだったのか。

「こんなにもセックスしたいと思った女」
「ねぇ返して。私の中で大事ななにかが崩れた。色々と返してくれるかな」
「愛情でよければいくらでもやるよ」
「うーん、怖いんでやっぱ遠慮しま、」

「す」の声は出てこなかった。団長のサーモンピンクの髪色が視界いっぱいに入る。口許にはあの柔らかい感触。
3回目、になるのか。僅かなリップ音を立てて口許が離れると、団長はお互いの鼻先が触れそうな所でニコリと笑った。なんともこそばゆい距離感だった。

「セックスっていうのはさ、ただの子孫を残すための行為でしかないと思ってた」
「…でしょうね」
「こういうのは初めて知る感覚だからよくわからないんだけど、俺、自分で思ってる以上に名前が好きみたいだ」
「……だん、ちょ…」
「だってすごいんだよ。名前の体をこの目で見やしてないのにしっかりおっ立ち始め、ぐっ!!」
「いったぁ…っ!」

条件反射で目の前の団長に頭突きを食らわせるとあちらさんは予想以上の石頭で、思わず自分のおでこを抑えた。団長はベッドの上でゴロンと寝転がるだけだったが、そのおでこは少し血が滲んでいたからちょっとは痛みを与えられたようだ。

「やれやれこんな照れ屋な嫁じゃこの先苦労しそうだな」
「誰が嫁だよ誰が」
「ねぇ、俺は名前がほしい。名前は?」
「お前はジャイアンか」
「名前」
「…っ」

あの蒼い蒼い目がじっと私を見据える。どうにも苦手だった。見透かされているようなあの蒼い目が。団長の手が耳元に伸びて、前に勝手に開けられたピアスに触れる。

ーーーもう逃げられない。
直感的にそう思った。だったらもう言ってやろうじゃないか。ええい名前よ、女は度胸だ。

「………好き、ですよ」
「残念」

そのセリフに「は?」と顔を見上げたら、また唇が重なった。

「俺はその上の愛してる、だよ」

心臓がめちゃくちゃ痛くなったので病室から団長を追い出した。胸キュンどころか胸が抉られたかと思ったわ。
あたまのおかしい団長に追いかけられすぎて、とうとう私の心臓もおかしくなったようだった。


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