こんな筈じゃないおかしい。

◼︎


「団長!」

団長を置いてきた一室に飛び込む。そこは私が出て行く前と同じ姿勢のまま、ぐったりと床に倒れこむ団長の姿があった。

「解毒剤!飲んで!」

熱い身体を抱き起こして解毒剤のフタを開け、団長の口元へ持って行く。が、意識が余程混濁しているのか、飲み込んでくれない。

「飲め…っつーの!!」

悪態を吐きながら鼻をぎゅっとつまんで口呼吸にさせれば、漸くそれを飲み込んでくれた。短いため息をついて、団長を壁にもたれさせると、団長の険しい表情が少し和らいだような気がした。私も地面に片膝を立てるようにして座りこむ。

…阿伏兎、他の人たちに解毒剤飲ませてくれたかな。みんな、無事かな。そんなことをぼんやり思いながら、団長の顔を見つめた。

「…!団長!?」

血の気が引いて団長に飛びついた。息、して…ない?え、なんで?どうして?解毒剤飲ませたはずなのに…間に合わなかった…!?

「団長!!ねぇ!しっかりして!団、ちょ…っ!!」

突然クン、と胸ぐらを引っ掴まれて団長の端正な顔との距離が0になった。

「ーーー目覚めのキスぐらいしてほしかったんだけど」


「ーーーは?」

しばらく見ていなかったあの青い瞳を再び見れた安堵感があるのに、状況が上手く飲み込めなくて心底間抜けな声が出た。

「団長…?」
「うん?」
「だん、ちょ…」
「うん」
「かむい…だんちょう…っ!」
「そんなに心配してくれたの?可愛いやつだな」

「ーーー何どさくさに紛れてチューしてんだバカヤロォオオ!!!」
「おっと」

振りかざした傘が床に食い込んで爆音が響く。

「随分荒々しい看病だね。夜兎らしくていいけどさ」
「お前ェエエエ!!私のファーストキス返せェエエ!」
「え?そうなの?じゃあ、責任持って嫁に迎え入れないとね」
「こンのくそったれ……へぶっ!?」
「名前?」

目の前がぐらりと揺れて無様に地面に倒れた。そこである考えに辿り着いた。

ーーあぁ、そうか。一応、毒効いてたのか。…身体、熱いな。

「無茶するからだよ」
「?」

私の腕を掴んで起こしてくれた団長はポケットの中から小瓶を取り出し、くいっと飲み込んだ。それから私を見下ろしてくるから、思わず座り込んだまま後ずさった。

なんか…、あれ?なんか嫌な予感がす、

「んんッ!!?」

ファーストならぬセカンドまでコイツに奪われるのか!!頭のどこかにいた冷静な自分がそう言っていた。

「んー!んー!!」

頑なに唇を一文字にしていると顎を取られて上を向かされる。うっすら開いてしまった口の隙間から生暖かいぬめりとしたものが差し込まれたと思ったら、液体がこちら側に流れ込んできた。

「…は、…飲んで名前」
「んぅ…ッ」

口を付けながら団長が無駄に甘い声で囁く。吐き出すわけにも行かなくて仕方なく飲み込むと、また熱いものが口内に捻じ込まれた。
歯列をなぞり、舌をからめ取り、一通り愉しんだらしい団長はゆっくりと顔を離した。

「っは…!!…げほっ!ごほ!!」
「ちゃんと飲めたね。偉い偉い」
「けほっ…!」
「うんうん、すごくそそるねその表情」
「ば、か…ッ!」

ギロリと団長を睨むも、ご機嫌モードの団長には無意味らしい。毒のせいなのかコイツのせいなのかわからないが、ばっくんばっくん騒ぐ胸元を掴む。

落ち着け。落ち着くんだ。素数を数えるんだ。

「あり?解毒剤足りない?まだ飲む?」
「いや!いらないいらない!間に合ってます大丈夫です神様仏様かむいさ、…んむっ」

遅かった。

後頭部に手を回されてぐっと口付けが深くなる。こちとらもう疲労困憊で頭もさっきからちっとも状況に追いついてないんですけど…!!


「ーーその辺にしといてやれって団長」


血の気が引いたのは言うまでもない。




「…あ、阿伏兎生きてたんだ」
「ぷぁっ…!?」

阿伏兎の声が聞こえて団長がようやく離れた。…え?あぶ、と?
ぎごちなくそちらへ首をひねると、アララ元気になった皆さんお揃いで。…今頃追いついてきてくれた思考回路に血の気が引いた。

「あーあ、団長のヤツ見せつけてくれんじゃねーの」
「名前に手ェ出すとぶっ殺すってんだろ?ハイハイわかってますぅー」

脳筋の連中はニヤニヤとほくそ笑みながら此方を見てくるわけで。くそ、熱くなるな顔面。キスを見られたのが恥ずかしくて夜兎やってられるか。

助けてと言わんばかりに阿伏兎を見上げるも、

「…ま、あとはお部屋でお好きにドーゾ」
「阿伏兎ォオオ!!」

私の虚しい声だけが響くだけだった。


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