死地に飛び込むのおかしい。
◼︎
熱い。体が。
熱い何かにまとわりつかれている感じがする。
「…っうぅ、」
不意に浮上した意識に身を捩らせると全身が悲鳴を上げて、思わずうめき声が出た。体の節々の痛みと、左手の痛いような熱いような感覚にじわりじわりと体が蝕まれるような気がした。
薄く目を開くと辺りは薄暗い。そして相変わらず体は熱かった。
「おはよう。よく眠れたかい」
「!」
耳元に寄せられた声にハッとしてそちらを見上げるとまさかの団長様のドアップ。あれ?ていうか、この体勢…
「…あり?…だん、ちょ…?」
「お前も呑気なものだな。戦場で団長様の腕の中でぐーすか寝てられるなんてさ」
座りながら壁に背を預ける団長がヘラリと笑った。やけにあっついと思ったら団長の脚の間に座らされて、後ろから抱き締められていた。いや、でも、それにしても熱い。そこで団長の顔を見て違和感を感じた。
「なんかすいませ…って、団長…顔色悪い…?」
やけに脂汗を浮かべる団長。つく吐息も密着する部分もやけに熱く、その違和感から団長の頬に手を伸ばしかけた。
『団長ォ!!聞こえるか』
「!」
「……阿伏兎…うるさい」
『名前とは合流してるか?』
「あ…私もいまーす」
団長の耳からイヤホン越しに阿伏兎の声が聞こえてきて、相当うるさかったのかイヤホンを耳から外し、持っててと言わんばかりに突きつけられたそれを受け取る。その時に触れた団長の手はやはり異常なくらいの熱を帯びていた。
『どうやら俺達ャはめられたらしいな』
「あぁ……兎殺し、だろ?」
『知ってたのか団長』
「面白そうな情報は…すでに仕入済みさ」
団長が力なく笑って、額を手で覆った。兎殺し…その物騒なセリフになにか嫌な予感がしてならない。不意に左手を見ると右手に比べて熱く少し腫れ上がっていた。心当たりがあることといえば…意識を手放す前の戦闘で投げられた能面を弾いたことくらい。
「なに?どういうこと?兎殺しって…!」
「艦内に猛毒が…ぶちまけられているのさ。……夜兎にしか効かないとっておきの…がね……」
「団長!」
力が抜けた団長が私にもたれ掛かってきた。もしこの異常な熱が猛毒のせいだとしたら、だ。
『団長がどうした!?』
「意識がなさそう…!」
団長を横たえさせて、自分が着ていたマントを被せる。意識朦朧な中敵から隠れて身を潜めていたのか…。苦しそうに顔をしかめる団長の頬を撫でる。
『やべーな…早いところ解毒剤打たねェと…って言いたいところだが…。俺も……随分とヤキが回っちまってるらしい。……いよいよ第七師団お陀仏か…?』
「ーーいい年した陰毛ヘアーのオッサンがベソかくんじゃないよ阿伏兎」
『くははっ…キビシーなオイ』
イヤホン越しの阿伏兎はいつになく覇気がないのが分かる。歴戦の夜兎がこんなザマとは。兎殺し、相当な代物ってことみたいだ。私はゆっくりと立ち上がる。
『そういうお前さんは無事か?…一応、お前…』
「阿伏兎」
『なんだよ』
阿伏兎の声を遮るように名を呼ぶと気怠そうな返事が返ってきた。
「10分で戻る。耐えて」
『そいつァ団長に言っておけ』
傘を手に取り隠れていた部屋から飛び出した。
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