固定観念概念だのおかしい。

◼︎


夜兎の勘、というヤツだろうか。

夜兎なのか女の勘なのかどっちでも良いけれど、勘を頼りに艦内を駆け抜けるとフラフラしながらも辛うじてまだ戦っている仲間を見つけた。敵を手早く絶命させ、仲間たちを休ませる。

「みんな…!しっかりして!」
「…ははっ、やべーなこりゃ…じゃじゃ馬が今なら女神に見えんぜ…」
「違ェねェな…」
「これもヤクのせいか?…はははっ」

倒れ込んだ仲間たちはこぞって私の軽口を叩く。全く…心配させまいとしているのか、男としてのプライドかは分からないけれど、不思議とその笑みを見たら安堵の息が出た。

「…もう…そんだけ軽口叩けるなら大丈夫だね」

安静にしているように伝えて再び走り出す。

ーー夜兎の傘に機関銃がセットされているのがこれほどまでにありがたいと感じることは無かった。
仲間の悪足掻きのお陰で手薄になった敵を銃で散らしながら解毒剤のありそうな部屋を片っ端から探す。研究室のような胡散くさそうな部屋の扉を蹴飛ばすと、一人の人間の姿がそこにあった。

「誰だ…?」
「…どーも。さっきはよくも可愛い兎に毒を盛ってくれたね。…お礼しにきたわよ」

研究室の奥にいたのはまたもや能面を身につけた男の姿。こいつが黒幕で間違いなさそう。

「…まだ元気なのが一匹いたね」
「単刀直入に言うけど、解毒剤は?」
「そこにあるさ。これから処分しようと思ってたものがね。……ただし君が此処から生きて帰れればの話、だが」

飛んできた能面を傘で弾くと、その瞬間に液状のものが一瞬見えた。さっきはあの能面に毒を仕込んでいたらしい。

「さっきの感じだと…液体の毒では効果が薄かったみたいだね。うーん、実験失敗だったか?」
「さてね」

男に飛びかかればクナイが数本飛んで来て、反射的にそれらを避け、反動で天井に脚をつける。思い切り蹴飛ばして一気に間合いを詰める。

この戦い、時間をかけていられない。本気でいかせてもらおう。

「ーーっ!?」

間合いを詰めようとしたその時、男はいつのまにか手にあったボンベの口をこちらに向けてガスらしきものを噴出してきた。

ビキリと体が強張って地面に倒れる。途端に身体中に熱が駆け巡った。見えない何かに体を侵食されるような感覚に呼吸すら忘れかける。

「…、はっ!!」
「さぁ可愛い子兎ちゃん…!これでおやすみだ…!!」

耳障りな男の笑い声に私の中の何かがブチンと音を立てて切れた。苛立ちと怒りに任せて無理矢理身体を動かせばまだ動くと言わんばかりに自分の手足が動いた。

「馬鹿…言うんじゃ…、ない…!!」

ガツン、と傘先を地面に突き立て立ち上がる。目の前の男を真っ直ぐに見据えると、奴はようやく恐れを含んだ眼差しで私を見た。それが見たかったよ私は。

「な、貴様…!なぜ兎殺しが効かない!?第七師団の人間ではないのか!?」

やっと、余裕が崩せたかな?思わず口端がゆるくつり上がる。

「こんな恰好して傘まで持ってて…第七師団じゃないように見えるの?…眼科をお勧めするね」
「ならば…!一体なぜ……ま、まさか」
「結構ヤバイ毒開発してくれたと思うよーー純血な夜兎様には、ね」

向こうもそれほど馬鹿ではないのだろう。答え合わせをさせるためにヒントを与えてやれば目を見開いた。
それに合わせて傘の銃を構える。

「第七師団に私みたいなのがいて良かったよね。次のボーナス期待しちゃおうかしら」
「きっ、貴様ァァアア!!夜兎のハーフかァァアアア!!!」

爆音が響き渡った。



情けなく壁に寄りかかって地べたに座り込む大男の目の前に瓶を転がした。

「解毒剤」
「…よくここが…分かったな」
「加齢臭プンプンしたからね」
「……マジか。マジでか」
「飲むタイプだってよ。さっさと飲んでさっさと働いてよ副団長。そんで私の評価上げてよね。ボーナス欲しいから」

ぐっと小瓶を飲み干す阿伏兎。阿伏兎が動けるようになればあとは楽そうだ。

「言うねェお前さん。…あぁいいよ、この際ボーナスもついでに団長もくれてやらァ」
「団長はいらん。はい、解毒剤ある分だけ持ってきたから、他の人たちのよろしくね」
「むさ苦しい連中の介護かよ…」
「私も今し方むさ苦しいオッさんの手当てしてたんですけど」
「さっきからお前なんなの?おじさんディスられすぎて身体よりもメンタルの方がボロボロなんだけど」

薬が効いてきたのか、阿伏兎はゆったりとした動作で立ち上がると、私の手にある解毒剤の瓶が入った袋を手に取り、私とは反対方向に歩き出した。

「加齢臭出てきたおじさんはさっさと他の連中介護士に奔走しますよっと」
「さすが加齢臭さん」
「お前な…!……はぁ、とにかくウチの団長頼んだ」
「ハイハイ」

私もまた阿伏兎とは反対方向に向かって走り出した。



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